第34話 検証開始
次の日、今日の治療が終わってまたユージャさんのお店にやってきた。
「ソーマさん、お待ちしておりました。いろいろと準備をしておきましたよ」
「ユージャさん、昨日の今日で本当にありがとうございます」
無事にユージャさんの協力を取り付けることができた昨日。検証のために今作っているポーションから素材をひとつずつ抜いてポーションを作ってもらい、調合方法をいろいろと変えたポーションの作成をお願いしていた。
それに対して俺が回復魔法を使うことにより、発光現象が起きるかを確認すれば、ポーションの回復量が向上する原因を突き止められるかもしれない。
それまではユージャさんにもこのことは秘密にしておいてもらい、検証に必要な費用はすべて俺が持つことになった。
……いや、ぶっちゃけるともうすでに相当な金額が貯まっている。そしてこの世界だと娯楽などの使い道もないから、日々のご飯を少し贅沢にするくらいしか、お金の使い道がないんだよ。例の治療士はいったい何にお金を使っているんだか……
「それぞれの瓶にどの素材を抜いて作ったかを記載しております」
「すごいですね、たった1日でこんなにたくさんのポーションを作ってくれたんですね」
「すげえ量だな……」
「店主殿はすごいのだな」
「はは、道楽でやっている店で常連がたまに来るくらいなので、普段は暇なのですよ。それに今回は素材をひとつずつ抜いて調合するので、それほど手間ではなかったですから」
さすがにたった1日で素材の検証と調合方法の検証はできないから、今日は素材に関する検証をお願いしていた。
それにしてもポーションにはいろんな材料が必要らしい。ゲームみたいに薬草を煮詰めるだけでお手軽なポーションができるわけではないようだ。
日陰草、魔鉱結晶、八目蜘蛛の足……などなど。ファンタジーというか、どちらかというと魔女が鍋で怪しい色をした液体を煮ている方がイメージに近いかもしれない。
「それでは試してみますね」
早速検証だ。ユージャさんが用意してくれた、ひとつずつ素材を抜いて調合してくれたポーションを少しずつ別の容器に移す。
「エリアヒール!」
そして範囲回復魔法を使い、変化があるかを確認する。安直な方法だが、もしこの現象が素材の何かに反応しているなら、これで分かるはずだ。
「……このポーション以外はどれも発光していますね」
「このポーションは……魔鉱結晶を除いて調合した物ですね」
ええっと、その魔鉱結晶を除いたポーションだけが発光していないってことは……この魔鉱結晶ってやつが原因なんじゃないか?
「ユージャさん、この魔鉱結晶とはどんな素材なんですか?」
「この魔鉱結晶は他の素材と反応してポーションの効果を底上げする効果があります。……なるほどこの素材は少々高価な素材ですので、他の商店では使われていない可能性が高いかもしれません」
「おお!」
これはもう決まりじゃないのか。この魔鉱結晶という素材が回復魔法と反応してポーションの効果を高めていると推測できる。
「少々お待ち下さい……こちらです、これが魔鉱結晶となります」
ユージャさんが隣の部屋から持ってきた物は灰色をした鉱石のようなものだ。そしてその灰色の鉱石の中に濃い青色をした水晶のようなものが見える。
「うちではこちらの鉱石からこの青色の水晶を抽出し、それに手を加えた物をポーションに加えております。他の素材も天日干ししたり、煮詰めなければならなかったりと、それぞれの素材に適した加工をしなければなりません」
「へえ〜普段使っているポーションを作るのって結構面倒くせえんだな」
「だいぶ手間がかかっている」
「私達もポーションは普段使っているが、作り方までは知らなかったな」
「あとは私もそうなのですが、薬剤師というジョブを持っていると、仕上がったポーションの効果も上昇するという研究結果も出ております」
ポーションを作るのもかなり大変なんだな。スキルとかで一瞬で調合できるのはゲームの中だけみたいだ。普通の冒険者の人も、たぶん普段使っているポーションの作り方は知らないのだろう。
「なるほど。そうなるとあと確認したいのは、ジョブが薬剤師以外の人が同じ手順で作ったポーションも同じ現象が起こるのか気になりますね」
「それと他の店が作ったポーションに魔鉱結晶を加えたらどうなるかも」
「あとはその魔鉱結晶の加工方法を変えて試してもいいかもしれねえな」
なんだか科学の実験をしているみたいになってきた。
「魔鉱結晶が原因となりそうなのがわかったのは大きな前進ですね。では加工方法や薬剤師のジョブが必要かなどを順番に試してみましょう。ソーマ様、回復魔法だけはソーマ様にお願いしなければなりませんので、お手数ですがまた来ていただけますでしょうか?」
「はい。むしろこれほど手を貸していただいて本当にありがとうございます。材料費以外にもお礼は絶対させていただきますから!」
「はっはっは、それほど気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ。ソーマ様こそ、大勢の患者様を治療しておるのですから、無理だけはしないでくださいね。ソーマ様のお身体に何かあっては大変ですから」
「ユージャさん……ありがとうございます。ユージャさんも無理だけはしないでくださいね。一緒に頑張りましょう!」
どうしよう、俺の中でのユージャさんの株価が天井知らずなんだが。本当の善人とはこの人のことを言うのだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます