第32話 報告は大事
「それで話とはなんでしょうか?」
次の日、いつものように今日の治療が終わったあと、冒険者ギルドマスターの部屋でターリアさんとエルミー達に来てもらっている。
「ちょっと見てもらいたいものがあります。みんなもすぐに傷を治すから、そのまま見ていてね」
とりあえず、まずは見てもらうのが早いだろう。発光現象は少しなので、日中だと見ただけではほとんどわからない。どちらにせよ、試しにこのポーションの回復量を見てもらう必要があるし、他のみんなにこの役をやらせたくはない。
昨日の夜のようにナイフで自分の腕を傷付ける。
「ソ、ソーマ!?」
「お、おい、何をしているんだい!?」
腕から血が流れる。何度やっても痛いものは痛いので、すぐに例のポーションを傷口にかける。
「んな!?」
「き、傷口が一瞬で!?」
例のポーションをかけ、傷口が一瞬で塞がったのを見て、全員が驚きの表情を見せる。やはりこのポーションの回復量は異常らしい。
「実は……」
「なるほどねえ……そんなことがあったのですか……」
「だが、ソーマ。そういうことは私達にも話してほしかったぞ。私達でも実験台くらいはなれるのだからな」
「いや、だから言わなかったんだよ!」
「ソーマの気持ちは嬉しいけれど、危険がなかったとはいえない。ポーションが反対に作用してしまう可能性だってあった。せめて私達に相談してほしかった」
「うっ……それは本当にごめん。今度から何かする時は必ずみんなに相談するよ」
フロラに言われて初めて気付いたが、確かにポーションの効果が反対になっていた可能性もあった。ここは異世界だし、どんな現象が起こっても不思議ではなかったんだよな。
「それにしてもすげえな。もしかしたらソーマの回復魔法並の力があるんじゃねえか?」
「これは本当に驚いたね。まさかポーションの回復量がこれほど上がるとは……」
「まだ確認したいことはたくさんあります。この回復量が上がる効果がどれくらいの期間持つのか、それとこのポーションだけでなく、毒消しポーションのほうは効果があるのか、ハイヒールを使ったポーションはさらに回復量が上がるのか」
もしもこのポーションが量産できるとなると、常に危険と隣り合わせである冒険者の人達にかなり有用となる。
そのためにはこの効力がどれくらい持つのかは真っ先に確認したいところである。これがたった1日しか持たないならそれほど意味がない。昨日買ったポーションには回復魔法をかけておいたから、あとはいつまで回復量が上がるのかを1週間後や1ヶ月後に確認すればいい。
そして毒消しポーションについては発光現象を確認したものの、その効果は確認していない。それとユージャさんのポーションにヒールではなく、ハイヒールを使うとどうなるかだ。
試しにポーションにハイヒールをかけてみると、ヒールよりも強い発光現象が起きた。しかしヒールをかけたポーションでも一瞬で傷口が塞がるため、その差異はわからなかった。もっと大きな怪我で検証をしてみたいところだが、さすがにひとりでそれは試せなかった。
「そしてこの現象は俺以外の治療士が同じことをしても可能なのかですね」
もしこのポーションが長く持ち、他の治療士にも可能であれば、俺だけではなく他の治療士にとっても有用な情報となる。
とはいえ、この現象が俺の聖男としてのジョブのおかげという可能性も高い。こればかりは他の治療士に協力してもらって確認したいところではあるが、このあたりにいる治療士はあれだしなあ……
「……なにやら話がだいぶ大きくなってきたねえ。さすがにこの件についてはワシじゃ判断しかねるようだ。ソーマ殿が構わないようであれば、この事は国に報告させていただきたいと思うのですが……」
「ええ、それはもちろん構いませんよ」
「それはありがたい。ただ今から王都に使いを出したとしても、返事が来るまでにまた時間がかかるねえ。いろいろと確認しなければならないこともあるだろうし、この件についてはソーマ殿が王都に行った時に直接話されるのが良いかと思います」
そういえばどちらにせよ孤児院のパンの販売が落ち着いたら、王都に行く予定だったんだっけ。
「わかりました。たぶん少ししたら準備ができるので、それから王都に向かう準備を始めたいと思います」
「よろしくお願いします。それと何か検証に必要なことがありましたら、なんでも協力致しますので、遠慮なく声をかけてください」
「ありがとうございます。それではいくつかお願いしたいことがあります」
そして次の日、早速ギルドマスターが俺の頼みを聞いてくれた。いつものように治療所での治療を終えてギルドマスターの部屋にエルミー達と一緒に入る。
「おお、ソーマ殿。今日も治療お疲れ様でした。早速ですが、本日確認して来たことを報告致します」
「あれ、もしかしてターリアさんが直接確認してくれたんですか?」
「ええ、この件については知る人が少ないほうがいいですからな。これでも冒険者ギルドマスターですから低ランクの魔物を拘束するなど余裕でしたよ」
「……それは本当に辛い役をやらせてしまいました」
「はっはっは、相変わらずソーマ殿はお優しいですな。今回は人を襲う魔物を探したので、気になさる必要はまったくございませんよ」
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