第31話 検証
このユージャさんのお店でもポーションと毒消しポーションを購入した。この段階でのポーションの色や見た目は他のお店のものとそれほど変わりはないように思える。エルミー達のパーティハウスに戻ったら早速実験してみるとしよう。
「さっきのお爺さんは嘘をついていなかった」
「そっか、それは良かったよ。今日はありがとうね、フロラ」
「役に立ててよかった」
ユージャさんにお礼を言ってお店を出た。エルミー達のパーティハウスに向かいながら、嘘がわかるフロラの言葉にほっとする。先程のユージャさんの言葉は心から患者を心配しているようだったのでとても安心した。
「やっぱり大きな店ほど、店の利益が落ちるのは許容できないよな」
今日寄ってきたポーションを売っている店6軒のうち4軒の店主さんが、俺が治療士として安く患者を治療することを良くは思っていないようだ。それについては実際に店の売り上げが減っているんだし、当然といえば当然だな。
残りの2軒は先程ひとりで店をやっているというユージャさんのお店と、ポーションだけでなく様々なものを売っている家族経営の小さめな雑貨店だった。
「こればっかりは仕方ねえよ。とはいえポーションは冒険者達に必須だし、ある程度すりゃ売り上げも多少は戻るだろ」
「そうだったらいいんだけどなあ」
確かに今まで定期的にポーションを使用していた重傷患者を治療したことにより、ポーションの売り上げは下がっているが、冒険者にとってポーションは必須なので、売り上げが完全になくなるということはないだろう。それにこの世界で金貨10枚はなかなかの大金だから、多少の傷ならポーションで治療しようとするに違いない。
今日で6軒のお店を一気に回ってきたので、なかなか疲れている。それに各お店で計10本ずつのポーションを購入しているので結構な荷物となってしまった。悲しいことに俺ひとりでは持てなかったので、エルミー達にも手伝ってもらっている。男としてはちょっと情けない……
「さて、検証の時間だ」
パーティハウスに戻って晩ご飯を食べて自室に戻る。そして今日店で買ってきたポーションと毒消しポーションを取り出す。やはりこの状態ではユージャさんのお店で買ってきたポーションは発光していない。
「まずは普通の状態での効き目がどんなものか確認だな」
昨日確認できた発光するポーションは一瞬で傷が治ったが、そもそも普通のポーションの回復量がどれ程のものなのか分かっていない。
「……相変わらず自傷行為には慣れないんだけどな……っと!」
やっぱり痛い……
いつもは針でほんの少し血が出るだけしか傷付けないが、今回は回復量を確認したいため、腕の部分にナイフで大きめの傷を付ける。
さすがに動物で実験したり、他の人で試すなんてしたくはないから、自分で自分を傷付けるくらいしか方法はないんだよな。それにこのことをエルミー達に言ったら、自分達が実験台になると言い出しかねない。
「まずはユージャさんのポーションを……」
ユージャさんの店で購入したポーションを腕の傷にかけてみる。すると傷口が少しずつだが塞がっていく。しかし、その傷がすべて塞がることはなく、ある程度塞がったところで止まってしまう。
「……それにしても、これでも十分すごい効果だよな。元の世界だったら大ヒット間違いなしだ」
この世界のポーションなら多少の傷であれば、すぐに治ってしまう。本当にどういう仕組みなんだろうな……いや、魔法に仕組みとか言っても仕方がないか。
「ヒール!」
そして半分ほど使用したユージャさんのポーションに回復魔法をかけてみる。
「……やっぱり回復魔法をかけるとポーションが少し発光するな」
昨日の夜と同じようにポーションが少し発光している。やはりこの発光現象はユージャさんのポーションに回復魔法を使うと起こる現象のようだ。
そしてそれをまだ塞がっていない傷口にかけると、
「やっぱりこれはそういうことなんだよなあ……」
そのあともひとりでいろいろと検証をしてみた。やはりユージャさんの店で購入したポーションに俺が回復魔法をかけると、ポーションが少しだけ発光して回復量が大幅に向上する。
具体的にどれくらい向上するのかは、俺が自身をそれほど傷つけることができないから分からないが、少なくとも他の店で購入したポーションや回復魔法を使っていないユージャさんのポーションの回復量とは桁違いということはわかった。
そしてその現象が起こるのはユージャさんのポーションだけで、他のお店で購入したポーションに回復魔法をかけてもその現象は起こらなかった。
ポーションの作り方や素材についてはそれぞれの商店で異なるらしいので、ユージャさんの商店のポーションの作り方か素材のどこかに俺の回復魔法が反応したのだろう。
それを証明するように、毒消しポーションでもユージャさんの毒消しポーションにだけ同じ現象が確認された。もっともこちらのほうは発光現象だけで、回復量が向上しているかは確認できていない。
そもそも自身を毒状態にする手段がないし、仮に毒状態にできたとしても、さすがに自分でそこまではしたくない。
とりあえずこの件については明日みんなと相談だな。
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