第18話 孤児院の現状


「「「いただきます!」」」


 ガツガツガツ


「「「………………」」」


 せっかくなのでと俺達も孤児院の子供達と一緒に晩ご飯を食べることになったのだが、みんなものすごい食欲である。串焼きとか日持ちしない食料はともかく、数日分の食料と思って買ってきたパンなども食べ尽くされそうな勢いだ。俺の他の3人もさすがに絶句している。


「す、すみません! 最近子供達はお腹いっぱい食べることができていなかったので……」


「いえ、みんな元気で可愛いじゃないですか」


 子供は元気にお腹いっぱい食べているほうがいい。


「しかし、孤児院のほうがこれほど厳しい状況なのは知らなかった。確かこの街の領主や冒険者ギルドから、多少の寄付はあると聞いているのだが……」


「はい、領主様や冒険者ギルド様からは寄付のお金をいただいているのですが、最近は孤児の数が増えすぎて、まともにご飯も食べられていないのが現状です」


「院長は甘すぎるんですよ! 子供達は8人くらいしか受け入れられないのに、どんどん受け入れてしまって……。今はまだ暖かいからいいですけれど、冬になったらどうするんですか! このボロボロの孤児院で冬を越せるかもわからないんですよ!」


「うう……すまない。ミーナくんには苦労をかけている。だが、ここを頼ってくる子供達の受け入れを拒んで、街の外に放り出すわけにもいかなかったんだよ……」


「確かに大きい子はともかく、小さい子供はひとりでは生きていけないでしょうけど……」


 ミーナと呼ばれている女性は30〜40代くらいの女性だ。彼女も苦労しているからか、あまり食べられていないかは分からないが、だいぶ痩せている。


「大変なのだな……あとで私も少しだが寄付をさせてくれ」


「本当ですか! ありがとうございます!」


 さすがにこの惨状を見てしまうと何もしないわけにはいかないな。もちろんこの2人も多少の同情を誘っている可能性はあるけれど、孤児院が大変そうなのは本当みたいだ。


「ちなみにこの街に孤児院はいくつくらいあるんですか? それとその孤児院もここと同じ現状なんですか?」


「この街にはここの孤児院の他にも2つの孤児院があります。どこの孤児院もここほどではないですが厳しい状況ですね……」


 この世界の孤児院の財政状況はあまりよろしくないようだ。しかしここも合わせて孤児院が3つか。それくらいなら日々の食事を寄付するくらいはできる。


 ……というよりひとり治療するだけで金貨10枚なんだから、それだけで十分まかなえる。やっぱりどう考えても貰いすぎだよなあ。まあその分は孤児院とか他の人達に還元していこう。そうすれば例の治療士みたいに守銭奴と罵られることもないだろう。


 しかしただ毎日この子達にご飯を与えるだけでは、この子達のためにもよくない。飢えた者に魚を与えるか魚の釣り方を教えるかという問題もある。


 ただ与えるだけでなく、自らで生活できる力を身に付けさせることも大事だ。働かざる者食うべからずという言葉もあるしな。何かこの子供達にできることがないかを考えるとしよう。


「ソーマお兄ちゃん、みんなの分のご飯も買ってくれて本当にありがとう!」


 院長さんの話の途中でリーチェが抱きついてきた。ソーマお兄ちゃん……いい響きだ! 元の世界で兄妹はいなかったが、妹がいたらこんな感じなのだろうか。


 リーチェは小学校5〜6年生くらいだろうか。この孤児院の中でも大きい方である。茶色い髪に綺麗な緑色の瞳をしている。……ほんの少しだけ胸も膨らんできているようだ。


「うん、リーチェが良い子にしていたらまた明日も来るからね!」


「やったー!」


「……子供は無邪気でずるい」


「……あんなふうに男に抱きついても許されるんだからいいよなあ」


 フロラとフェリスが何か言っている。2人ならむしろ俺から抱きつきたいくらいなのに。


 そのあとはリーチェや小さな子供達と遊んだ。女の子達の大半はエルミー達と冒険者ごっこをして、男の子達は俺とおままごと的な遊びを望んでいた。やっぱりそこらへんも元の世界と反対なんだよなあ。






 ◆  ◇  ◆


「……なにこれ」


 この世界に来てまだ4日目、今日で3日目の朝だが、毎朝同じことを言って驚いている気がする。


 昨日と一昨日は冒険者ギルドの周りに人が大勢いて驚いた。そして今日も大勢の人が俺を見に来ていたのだが、それはもう多少慣れた。しかし、冒険者ギルドの隣に立派な建物ができていた。昨日までは仮の骨組みくらいしかできていなかったはずだ。


「おお、ソーマ殿。どうだ、立派な建物であろう? 今日からはこちらの仮の治療所で治療をお願いしたい」


「……えっとこれが治療所なんですか?」


 立派な白い建物に大きな木の扉、中に入ると患者が座って待つ待合室と、その奥には広くて真新しい治療室と隣には俺が休む部屋がある。これのどこが仮の治療所なんだよ……


「いやあ、ワシももう少し小さい建物を頼んだんだがな、職人達が張り切ってこんな立派な建物を作ってくれたようだな。なあに、金なら最初の予定分だけしか支払っていないから大丈夫だ。


 どうやらソーマ殿が治療してくれた者の中に、建築を頼んだ工房の親方がいたみたいでな。ほら、昨日来てたドワーフの女性だ。また槌を持てるのがよっぽど嬉しかったらしく、たった1日でこんな立派な建物にしてくれたみたいだ」


 ああ、そういえば昨日腕を治療した女ドワーフさんがいたな。あの人が親方だったのか。気持ちはとてもありがたいのだけど、本当にこんな立派な建物いいのかな……

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