第16話 仮の治療所


「……なにこれ?」


 朝食を取り終わったあと、3人と一緒に冒険者ギルドに向かったのだが、冒険者ギルド前に昨日の3倍以上の人が集まっていた。


「おお、あれが噂の黒髪の天使様か! 確かにすげえ綺麗だ!」


「治療費はたったの金貨10枚で、支払いをしばらく待ってくれるって聞いたぞ! まさに男神様じゃねえか!」


「そのうえ誰にでも優しくて、金を積んでも横入りとかはさせねえんだとよ! このあたりにいる悪徳治療士とは全然違うな!」


「しかも昨日は100人以上も治療したって噂だぜ! 普通の治療士様の5倍以上も治療できるんだとよ!」


 ……なんだか噂にものすごく尾ひれが付いている。俺が治療できたのはその半分くらいだぞ。しかし、SNSもないのにここまで噂が広がるとはな。異世界の情報網をなめていた。


「治療士様、どうかお助け下さい!」


「頼む、この怪我を治してくれ!」


 ヤバいな、昨日ギルドマスターが伝えたことを聞いていなかった人達が詰め寄ってきそうだ。護衛をしてくれている3人が前に出てくれているけど大丈夫かな……


「静まれ!!」


 フェリスさんが盾を構え、フロラも杖を構える。そしてエルミーが剣を地面に刺して大声で叫ぶ。


「安心してくれ、ソーマ様は全員を平等に治療してくださる! だからお前達は焦らずに順番を待ってくれ。騒ぎ立ててソーマ様に迷惑をかけてはならない!」


「は、ははあ!」


「す、すみませんでした!」


 ……お、おう。すごい迫力だな。近寄ってこようとした人達が全員その場で止まり、一部の人達はその場に平伏した。もしかしたら威圧スキル的なものがあるのかもしれない。少なくとも俺よりエルミーのほうがカリスマ性があることは間違いない。


 エルミーのおかげで暴動が起きることなく、無事に冒険者ギルドの中に入ることができた。ヤバいな、3人とも格好よすぎて惚れてしまいそうだ。


「おお、ソーマ殿、今日もよろしくお願いする」


 中に入るとギルドマスターのターリアさんが待っていた。






「エリアヒール!」


「おお、あれだけの痛みが嘘のように引いていく!」


「ママー!」


「マール! ああ、あれだけの火傷痕が消えている。奇跡だわ!」


「傷は治ったと思いますが、しばらくは絶対に安静でお願いしますね」


「ありがとうございます、ありがとうございます!!」


 今日もまずは重傷患者の治療から始めている。昨日冒険者ギルドに来ていた重傷患者はすべて治したが、この街にはまだ20人近くの重傷患者がいたらしい。


 簡単には動かすことができなかったのか、治療ができるという話を昨日初めて聞いたのかは分からないが、昨日来ていなかった重傷患者を順番に治していった。


「ソーマ殿、まだ治療はできそうかい?」


「はい、昨日も体調は全然大丈夫だったので、今日はもっと治療する人数を増やしてください」


「そうか、それじゃあ次に重傷な怪我人達を連れてくる」


「はい」




「エリアヒール!」


「おお! 潰れかけていた俺の足が動く! ありがてえ、これでまた働ける!」


「ああ……ワシの腕がまた動いた! これでまた槌が振れる! ありがとう、ありがとう!」


「治ってよかったです。でもしばらくは安静にしていてくださいね」


「この御恩は決して忘れません!」


 大怪我で動くこともできないような人達の次は、魔物に襲われて手足が動かなくなった人や、事故で腕の腱を切ってしまい、手足が動かなくなった人達を治療していく。


 ちなみに今エリアヒールで治療した人達の中にはドワーフの女性もいた。この世界では武器も女性が打つんだな。少し背は小さく、ガッシリとした身体だが、髭は生えていないらしい。


 部位欠損がなければ、ヒールでも動かない手足を回復することはできるようだ。しかし、重傷患者を治療した時に気付いたのだが、どうやら回復魔法には病気を治す力はないらしい。


 怪我は治ったが、熱が下がらなかったり、頭痛が治らない人達がいた。どうやら怪我と病は別らしい。幸い今のところは大きな病気の人はいなかったから助かった。




「よし、今日はこれくらいにしておこう」


「はい」


 今日は朝から治療を始めていたこともあって、70〜80人くらいの人を治療した。そのおかげもあって、治療のために冒険者ギルドに集まっていた人達の大半の治療を終えることができた。


 昨日今日で来れなかった人達も噂を聞いてやってくるかもしれないが、これで1日に何十人も治療しなければいけないなんてことはなくなるだろう。


「明日には冒険者ギルドの隣に仮設の治療所ができる予定だ。患者の数も少しは落ち着くだろうから、治療はそちらのほうで頼む」


 そういえばここは冒険者ギルドなんだよな。確かに連日これだけの人がここを訪れてしまうと、冒険者ギルドの業務に支障をきたしてしまう。


「わかりました。そんな建物まで建ててもらってすみません。というか治療費は全部俺がもらっている訳ですから、俺がお金を出したほうがいいんじゃないですか?」


 治療費の金貨10枚は俺がすべてもらっているし、後払いのお金まで冒険者ギルドが先に俺に支払ってくれている。エルミー達蒼き久遠の冒険者パーティへの依頼料も払っているし、そのうえ治療所の建設費用まで出してもらっていては、冒険者ギルドだけが丸損になってしまう。


「はっはっは。気にする必要はないさ。ソーマ殿がたった金貨10枚で治療をしてくれて一番利益を受けているのは何を隠そう冒険者ギルドだ。


 昨日今日だけで怪我で活動できなかった大勢の冒険者が復帰できている。もちろん大怪我を負ったショックで、冒険者を引退する者もいるが、それでも冒険者ギルドが復帰した冒険者によって、以前より大いに賑わうことは間違いない。本当に感謝しているよ」


 なるほど、確かに治療をしてきた人達の多くは冒険者のような格好をしていた。怪我が治れば冒険者に復帰する人達も大勢いるだろう。


「そうですか、冒険者ギルドの役に立てていたならよかったです」


 それでも今の段階ではまだ全然赤字だろう。少しずつだが、冒険者ギルドのみんなの役に立てていけるといいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る