第15話 いい婿とは?


「……ふあ〜あ。よし、たぶん今日は早く起きられただろ」


 一昨日もそれほど遅くまで起きていたわけではないが、いきなり異世界にきてかなり疲れていたのだろう。昨日はちゃんと早く寝たこともあって、今日はまだ窓から日が昇ってすぐの時間帯に起きれた。


「ソーマ、おはよう。こんなに早く起きて大丈夫なのか?」


「おはよう、エルミー。昨日は早く寝たし、疲れも残っていないみたいだよ」


 下の階のリビングに降りると、すでにエルミーが起きて武器の手入れをしていた。……ここは物騒な世界だからな。朝から剣を研いでいても気にしてはいけないな、うん。


「フェリスとフロラはまだ寝ているんだね」


「ああ、いつも2人が起きて来るのは、もう少しあとになるな」


「そっか。それじゃあ昨日も言ってた通り、今日は俺が朝ご飯の準備をするよ」


「……本当にいいのか? ソーマはお客様だ。わざわざ食事の用意などしなくてもいいのだぞ」


「まあ、俺の趣味みたいなものだから。それに時間潰しにはちょうどいいよ」


「まあソーマがそう言うのならいいのだが……」


 昨日市場や屋台を回ってみたのだが、やはりこの世界ではそれほど食文化が進んでいないようだ。基本的に調理法は焼くだけで、味付けは塩のみが多い。日本の豊かな食生活に慣れてしまっている俺にとってはなかなか辛い。


 日本にいた頃、両親は共働きだったため、俺が晩ご飯を作ることもよくあった。まあ主に晩ご飯を作っておくと小遣いがもらえたという理由なんだけどな。だけどそのおかげで簡単な料理くらいならできる。


 そして何より、この世界では時間を持て余してしまうのだ。エルミー達はパーティハウスに帰ってからも、広い庭に出て交代で訓練をしたり、パーティハウスの警備体制を整えたり、武器や防具の手入れなどをしていた。しかし、俺の場合は魔法の練習以外にすることはない。俺の時間潰しと、食生活改善の一挙両得作戦でいこう。




「……おはよう」


「おはよう、フロラ」


 フロラも起きてきたみたいだ。まだ眠いのかボーっとしながら目を擦っている姿が可愛らしい。……朝から癒されるな。


「……ふあ〜あ、おっす」


「おはよう、フェリス……って下、下履いてええええ!」


 フロラと同じように目を擦って階段を降りてくるフェリス。しかし彼女は上にTシャツを着ていたが、下はパンツ1枚であった。上はTシャツで下はパンツ姿の巨乳美女……こ、この破壊力はヤバすぎる!!


「ん? 昨日散々言われたから上はちゃんと着てきたぞ。これでいいんだろ?」


 いいわけあるか! 完全に寝ぼけている!


「下もちゃんと着てください! 昨日も話しましたけど、今のフェリスさんは俺がパンツ1枚で歩いているのと同じ状況なんですよ!」


「ソ、ソーマがパンツ1枚!? そいつはやべえじゃねえか!?」


「バ、バカフェリス! さっさと着替えてこい!」


「わ、悪い!」


 フェリスはバタバタと階段を登って自分の部屋に戻っていった。


 ふ〜ふ〜、落ち着け。大丈夫、エルミーとフロラの位置からは俺の下半身は見えてないはずだ。正反対の筋肉のことを考えて、落ち着きを取り戻さないと……




「いやあ、すまん! 次からは気をつける」


「本当にお願いしますね……」


 元の世界ならラッキースケベは大歓迎なのだが、みんなは恩人だし、何より元の世界と貞操観念が正反対で、無意識にやっているから罪悪感がすごい。なんだろう、例えるなら、スカートが捲れているのに気付いていない女子のパンツをガン見てしまうような感覚だろうか。


「……まったく、気を付けるのだぞ」


「おう、任せておけって! それにしても今日の朝飯は豪華だな!」


「ああ、朝早くソーマが準備してくれたんだ」


「ソーマは料理ができるの?」


「ああ、少しだけな。両親の帰りが遅いからたまにだけど、晩ご飯とかは俺が作っていたんだ」


「それじゃあいただくとしよう」


 さて、元の世界の料理はこちらの世界の人の舌に合うのだろうか……


「おお、こりゃうめえ! ただの野菜のはずなのに、少し酸っぱくてまろやかなこの白いソースがあるだけだ全然違う味だ!」


「こっちの肉もうまいぞ! しょっぱいような甘いような辛いような不思議な味付けだ! これはパンにもよく合うな!」


「こっちの白と黄色のペーストを挟んだパンも美味しい! とても優しい味!」


 この反応を見ると大丈夫そうだな。食生活の改善の第一弾として異世界ものでは定番のマヨネーズだ。マヨネーズの材料は酢と油と塩と卵だ。油と塩はパーティハウスにあり、米は市場で見つからなかったので、おそらくは穀物酢と思われる酢を購入した。


 そして問題は卵だ。やはりこの世界では卵を生食する文化がなかった。卵はすぐに腐るから商品としての管理が難しいんだろうな。少し高額だったが、産みたての卵として売られていたものを購入し、念のために浄化魔法を使ってからマヨネーズを作ってみた。


 分量も大雑把で材料も良い物とは言えないが、それでも一応はマヨネーズと呼べるくらいのクオリティのものはできた。ちゃんと昨日の夜に作って試食してお腹を壊さなかったから大丈夫だろう。最悪回復魔法があるしな。


 あとはできたマヨネーズとゆで卵をあえてタマゴサンドの完成だ。そして市場で見つけた魚醤と、少し高価だった砂糖に料理酒を加えて作った甘辛いタレに肉を漬けてから焼いて、少しマヨネーズをかけた甘辛肉にサンドの完成である。

 

「ソーマはいい婿になりそうだな!」


「………………」


 ……みんなの料理の評価は上々だったが、最後の評価だけは嬉しくなかった。

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