第11話 冒険者ギルドの人だかり
日本の事情についてをみんなに話したあと、みんなで晩ご飯を食べた。
屋台で買ってきたいろいろな料理を食べたのだが、味は正直に言って少し微妙だった。肉や野菜の素材自体の味は元の世界の物と同じかそれ以上だったかも知れないが、基本的に調理法が焼く一択かつ味が塩味一択なので、どうしても単調な味になってしまっている。
日本の豊かな食生活に慣れてしまった日本人である俺にとっては少し厳しいな。今日はまだ初日だからいいが、これが続くとなるとすぐに飽きてしまいそうだ。なにか考えたほうがいいかもしれない。
そして冒険者ギルドから使いの人がやってきて治療士に関する資料を受け取った。俺がこのパーティハウスに来てから初めての来客だったため、全員が緊張した様子だった。
部屋の奥でフェリスとフロラが俺の前に立ち、エルミーがゆっくりとドアを開けた。大袈裟かもしれないが、いろいろと物騒なこの世界ではこれやくらいやる必要があるのかもしれない。
そのあとは割り当てられた部屋で、蝋燭と月明かりを頼りに冒険者ギルドからもらった治療士についての資料を読んだ。
「治療士の使える回復魔法はヒール、キュア、エリアヒール。聖魔法は浄化魔法のピュリフィケーション、障壁魔法のバリアが使える。そしてその上級職の
とりあえず使える魔法をすべて確認してみた。ナイフで自分の指を傷付けてから回復魔法をかけてみるという方法だ。
ハイヒールやエリアハイヒールも使えたのだが、普通のヒールとの違いがわからない。自分から大怪我をするわけにもいかんしな。ヒールの場合は対象箇所を、エリアヒールの場合は範囲を指定するようだ。
浄化魔法は服や身体の汚れなども落とすことができる。アンデッド系のモンスターにも効果があるらしい。状態異常回復魔法のキュアはさすがに試すことができないな。
障壁魔法は半透明の壁、バリアを出せる魔法だ。借りたナイフでバリアを攻撃してもビクともしなかった。この魔法が唯一俺自身の身を守る魔法のようだから、他の魔法以上に練習をしておくとしよう。
一通りの魔法の確認を終えてベッドに寝転がる。多少は固いが寝られないというほどではなさそうだ。
「……それにしても異世界か」
やっぱりもう元の世界には帰れないのだろうな。父さんや母さん、学校の友達とはもう会えない……
先程までは落ち込んだり悩んだりする暇もなかったのだが、落ち着いてひとりになると、いろいろと不安や悲しみの感情が溢れてきた。
「う……うう……」
気付くと目から涙が溢れていた。父さんと母さんは悲しんでいるかな。俺は元の世界で死んでしまったけど、どうか父さんと母さんは幸せに生きてほしい。
◆ ◇ ◆
「ふあ〜あ……」
……そうか、やっぱり夢じゃなかったんだよな。
目が覚めるとそこは見慣れない部屋だった。どうやら昨日は元の世界のことを想って泣いたまま眠ってしまったらしい。
いかん、切り替えていかないとな! よし、昨日の夜に泣いたことで少しだけ吹っ切れた。今の俺の現実はここにある。今日も一日頑張るとしよう!
「おはよう!」
「ああ、おはよう」
「おはよう」
「おはよう。というかもうすぐ昼だぞ、まあぐっすり眠れたようで何よりだぜ」
「え、もうそんな時間なんだ!? ごめん、だいぶ寝坊したみたいだ」
俺の部屋には時計がない。陽の光で目覚めたと思っていたら、もうだいぶ遅い時間だったらしい。
「なあに、いきなり見知らぬ土地に来てしまったんだし、疲れていて当然だ。ギルドマスターからはゆっくり休ませてやれと言われているから大丈夫だ」
「そうなんだ。でも、もう大丈夫! 明日からもし俺が起きなかったら、引っ叩いてでも起こしてくれていいからね」
「あ、いや!? さすがに男性の部屋に勝手に入るわけにはいかない。そうだな、部屋をノックして声をかけるとしよう」
……そっか、こっちの世界ではそういう認識なんだな。改めて思い出した。
朝食兼昼食をいただく。みんなもわざわざ俺が起きるのを待っていてくれたようだ。これは申し訳ない。そして食事に関してもやはり微妙だった。パンは無発酵なのかカチカチの固いパンだし、サラダには塩しかかけないみたいだ。食生活に関してはだいぶ改良の余地が残っている。
食事を終えて3人に囲まれて冒険者ギルドに向かう。今日から昨日の条件で治療が始まる。できる限り多くの人を治療できればいいんだけどな。
冒険者ギルドに到着すると、なぜかギルドの入り口に溢れんばかりの人が集まっている。……えっ、まさかあれ全員治療を希望する怪我人なのか!?
「おお、あれが噂の男神様か!」
「あれが黒髪の天使……なんて美しいんだ!」
「なんでも一瞬で瀕死の怪我を治したらしいぜ! それにほとんど金を取らなかった慈悲深い男らしい!」
「はあ? 治療士なんてどいつもこいつも金の亡者に決まってんだろ。治した後に白金貨2枚とか言われるんじゃねえのか?」
……SNSもないこの世界でたった1日でここまで噂が広がっているのか。それにみたところ怪我もしていない人や、冒険者でないような姿をした人も多いから、噂を聞いた野次馬達も集まってきているのかもしれない。
「おお、来てくれたか。まずはこちらの部屋に頼む」
人の波をかき分け、ギルドマスターの部屋に案内された。
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