第12話 エリアヒール
「とりあえず、命の危険がある重傷者達を隣の部屋に集めておいた。昨日ソーマ殿が決めた条件も事前に伝えてある」
「ありがとうございます。遅くなってしまってすみません」
ゆっくりと寝ている暇なんてなかった。冒険者ギルドの前には野次馬だらけだったが、冒険者ギルドの中には怪我人が大勢いた。そして隣の部屋からはうめき声が聞こえてくる。きっと藁にも縋る思いで怪我した身体を引きずって、ここまでやってきたのだ。のんびり寝坊していた自分をぶん殴ってやりたい。
「なあに、いきなり見知らぬ土地にやってきたのだ。それに昨日はモンスターや盗賊にも襲われて疲れていて当然だ。無理をして治療に影響が出てしまうほうが問題になる」
「……すぐに治療を始めます」
「その前にいくつか約束してほしいことがある。まずは絶対に無理はしないこと。怪我人を治療することは大事だが、それで無理をしてソーマ殿が倒れてしまっては元も子もない。魔力を使い過ぎると命の危険もある。
それに今すぐ治療しないと助からない重傷者が運ばれてくるかもしれない。無理はし過ぎずに、常に多少の魔力は残しておいてほしい」
「はい、わかりました」
そうか、もしかしたら後から昨日みたいな重傷患者が運ばれてくるかもしれないんだ。多少の魔力は残しておかないといけないんだな。
……しかし魔力の残りとか、どうすればわかるんだろう。この世界だとステータスとか見られないから、具体的にどれくらい魔力が残っているか分かんないんだよな。
昨日魔法をいろいろと試した時には、魔力が枯渇するような感覚は一度もなかった。魔法を使った直後は少し走った後のような疲労感があるが、それもすぐに回復した。もしかしたら、自動で魔力が回復されたりしているのかもしれない。
「それともうひとつ、
ソーマ殿のジョブが
「……でも、治せるかもしれない人達を治さないんですか?」
治せる可能性のある人達を治療しない。なんだかそれはちょっと嫌だな……
「あくまでしばらくの間だけだ。国からの指示が問題ないようならその時こそお願いしたい。それにこれは私達からのお願いだ、ソーマ殿が気に病む必要などまったくない」
「……わかりました」
たぶんターリアさんは俺のことを心配してくれているのだろう。昨日は俺を心配してくれていたのに勝手なことをしてしまったし、今度はちゃんとターリアさんの言う通りにしよう。
「それでは治療を頼む」
「おお、あれが黒髪の天使様か!」
「おい、もしかしたら助かるかもしれねえぞ! もう少し気合を入れろ!」
「神様、どうかお願いします」
隣の部屋には大きな怪我をしている人達が集められていた。中には自分ひとりでは歩けずに付き添いの人に手を貸してもらっている者や、喋ることができずに寝た切りになっている重傷者もいた。
「ひゅー……ひゅー……」
「うう……痛え……」
「治療士様、どうか、どうかこの子をお助けください!!」
「お願いします、どうか妻をお救いください!」
怪我をした人や付き添いの人達の視線が俺に集まる。そして怪我をしている子供の母親や、包帯だらけの妻を想う男性など、大きな期待が俺ひとりに注がれる。
……怖いな。こんなに期待してくれているのに治療ができなかったらどうしよう。それに俺の回復魔法が悪い方向に働いてしまわないか、不安になってくる。
いけない、足が震えてきた。手足が千切れている人、腹から溢れた血が包帯を真っ赤に染め上げている人、傷口が変色し始めて見たこともないような色になっている人。こんな大きな傷を、昨日初めて回復魔法を使えるようになった俺なんかが治せるのだろうか?
「ソーマならきっと大丈夫だ!」
「別に治せなくたって、ソーマのせいじゃねえよ。あんまり気張りすぎんな!」
「仮に治療がうまくいかず、この人達が逆上して攻撃してきても、私達が必ずソーマを守る!」
「……みんな、ありがとう!」
護衛で一緒についてきているエルミーとフェリスとフロラが力をくれる。さっきまで不安で震えていた足の震えが、いつの間にか止まっていた。そうだ、みんな俺なんかを信じて支えてくれている。
頼むよ神様、俺をこの世界まで引っ張ってきたんだろう。ならどうかお願いします、ここにいる人達を治せる力を俺に貸してください! みんなを助けられる力を!!
治れ治れ治れ治れ治れ治れ治れ!!
「エリアヒール!」
俺が回復魔法を唱えると、神々しく眩しい光が部屋中を埋め尽くした。
「うそ、痛くない……」
「あれ、お父さん……ここどこ?」
「ミ、ミーナ! 目が覚めたのか!」
「信じられない、あれだけの大怪我が!?」
「奇跡だ! これは奇跡だ!」
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