第13飯(1) コース料理
第13飯(1) コース料理
ロワリエは3日も経たないうちに迎えをよこした。
以前、契約書を持ってきた時の細身の男が馬車に乗ってやってきた。
「お迎えにあがりました」
細身の男は言った。
「はい、お待ちしてました」
イサムは言った。
「私も同行します」
ホンメイがイサムの横に立つ。
「あ、私も」
サシャもホンメイの横に立つ。
「……3名様ですね。一応、馬車には乗れますので大丈夫でしょう」
細身の男は馬車をチラと見やって、言った。
馬車は二頭立てで、後ろはワゴンになっている。
専属の御者が付いてるので、四人掛けになる。
少々狭いが詰めれば座れるだろう。
「じゃ、行ってくるから」
イサムは言った。
「はーい、頑張ってきてね」
アレットは手を振っている。
大分、料理の腕も上がってきている。
「頑張れよ」
ドニが気の抜けた感じで言った。
細身の男は、名をセバスチャンと言う。
セバスチャンとイサムが並んで座り、対面にホンメイとサシャが座った。
「サシャは華奢だな」
しばらく世間話をしてから、ホンメイはふと言った。
「食も細いし、もっと身体鍛えないともてないぞ?」
「は、はぁ…」
サシャは困惑している。
「もてなくても構わないので…」
「あんたも草食系かい」
ホンメイは肩をすくめる。
「嘆かわしいな、もっとこう押しが強くないとイカンよ」
「あはは」
サシャは笑って誤魔化している。
「というか、サシャ殿は女性では?」
ずっと黙って会話を聞いていたセバスチャンが、口を開いた。
「え、あ、はい、そうです」
小さい声でサシャはうなずいた。
「えーっ!!」
ホンメイが大声で叫んだ。
「サシャって普通男の名前だよな?」
ホンメイは失礼な事を言っている。
「ええ、本名はサラと言うんですが、商売柄男の格好をしてる方が何かと都合がよくて」
サシャはゴニョゴニョと弁解するようにしていた。
「おい、イサム! サシャはサラだったぞ!」
ホンメイはイサムを見た。
が、
「ぐー」
イサムは寝ていた。
*
ロワリエが封ぜられた土地はグラノレーヌという。
グラノレーヌは、歴史的にはグラノレーヌ公国としての時代が長かった。
公国とは公爵が治める領地が、国として機能している土地の事で、
王の権威が届かない土地は、貴族が代わりに統治するという事がある。
ロマーノ帝国の影響力が強まった時には属州となり、弱まると公国に戻るという事を繰り返している。
現在は公爵が不在で、子孫も大きな都市へ移住しており、統治者は中央から派遣されてくる。
行政区分としてもブルゴ・コンテに入っていて、ロワリエのように功績があったり、権力がなんやかんやしたりして、辞令を受けた者が赴任して来る訳だ。
つまりブルゴ・コンテの縁辺、辺境である。
ガロもグラノレーヌに属している小さな町の一つだ。
この地区で大きな街と言えばバル・ラ・デュクだ。
バル公領という意味だが、現在はバル公爵も不在で、ブルゴ・コンテの辺境に属している。
ちなみにロマーノ帝国は街道を整備するクセがあった。
軍隊は兵士であると同時に優秀な土木建築士だ。
もはや性癖と言っても良いくらい、街道を作るのが好きで、そのお陰で往来がスムーズになっている。
ロマーノが街道の整備にこだわる大きな理由は、戦の時に軍隊が通るためである。
そのお陰で街道沿いの町には物を売る店や宿、居酒屋などが建ち並び、経済が活発化している。
この街道のお陰で、馬車は半日もかからずにバル・ラ・デュクに到着した。
ロワリエの屋敷は街の高級住宅地にある。
金持ちや地元の有力者たちが集まっている地区だ。
領主ということもあり、一際大きな屋敷だ。
敷地内へ入り、正面玄関まで来ると馬車が止まった。
「おう、来たか」
屋敷に着くと、ロワリエが出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました。ロワリエの妻のアンヌ・マリーです」
身なりの良い中年女性が丁寧にお辞儀する。
「アロイスです」
「ジェラールです」
「レティシアです」
息子2人と娘も同様にお辞儀する。
アロイスは18歳。
短髪で、おっとりした感じの顔立ち。
ジェラールは15歳。
同じく短髪で、鼻っ柱の強そうな顔をしている。
2人とも普段はディビオの学校へ行っているようで、今日は食事会のために帰ってきてるようだ。
レティシアは13歳。
髪を腰まで伸ばしており、賢そうな顔立ちをしている。
学校へは行っておらず、家で勉強しているらしい。
「ホンメイ・ジャオです。
お招き頂き、ありがとうございます」
「クラピソン商会のサシャです。
お招きに預かり恐悦至極に存じます」
ホンメイとサシャは礼儀正しく挨拶をする。
「イサム・ハヤシです。
よろしくお願いします」
イサムもそれに習ってお辞儀。
当たり障りのない事を言っていた。
「エクレア・ルージュ!」
「本物!?」
アロイスとジェラールが騒ぎ出す。
「ええ、まあ」
ホンメイは苦笑していた。
「コックはどなたですか?」
レティシアが聞いた。
今回作る料理に興味があるらしい。
「はい、私です」
イサムは言った。
「お父様のお土産を食べました。今回も美味しい物が食べられると聞いてます」
レティシアは期待しているようだ。
「ご期待にそえられるよう努力します」
イサムはそう返した。
「皆様、挨拶はそこまでにして、お客様方に厨房などを見て頂きます」
セバスチャンが言った。
頃合いを見計らっていたようだ。
「ああ、そうですね」
アンヌ・マリーがうなずく。
「じゃあ任せたぞ、セバスチャン」
ロワリエが言った。
「お任せあれ。」
セバスチャンは言って、深々とお辞儀をした。
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