初デートは、君と
「現地集合って……せっかく電車の時間とか調べたんだけどな」
僕は地元にある大型遊園地の正面入口前で瑠璃川さんと待ち合わせをしていた。
本当は瑠璃川家の最寄り駅のホームで集合予定だったが、電車は乗りたくないと瑠璃川さんは言い張り、結局現地集合という形になったのだった。
「しかも遅刻だし……」
スマートフォンの画面を見るが、瑠璃川さんからの連絡はない。
「電話の応答が遅いと怒るわりに、瑠璃川さんだって遅いじゃないか」
待て待て。こんな小さなことで怒る程度の男とは思われたくはない。彼女は彌富の幼馴染。悪い印象を与えることは得策ではないだろう。
「はあ、仕方ない。もう少し待つか」
僕は近くの花壇に腰を降ろす。ふわりと風が吹くと、前髪を揺らした。
最近気にかけていなかったからか、すっかりと前髪が目の長さまで到達していた。
「今度、切ってもらわないとな……」
それから花壇の方を見ると、そこにはアネモネの花が綺麗に咲いていた。
「こんなところにも。好きな人は好きなんだよな。――白いアネモネ。『期待』や『幸福』。ポジティブな意味の多い色。プロポーズとか愛を囁くときに用いられるんだったよな。僕もプロポーズをするときは、父さんみたいに紅白のアネモネで彌富に――」
紅白の花束を両手に抱える彌富の姿を想像し、思わず口元が緩んだ。
彌富のことだ。きっと頬を赤らめながらも、嬉しそうに微笑んでくれるだろう。
「ああ、でもその前に。今日のミッションを成功させないと。今日の成果が明日からの僕の学園生活に影響する。必ず瑠璃川さんと仲良くなるんだ」
それから待つこと三十分。瑠璃川さんは車に乗ってやってきた。
テレビCMなどで見覚えのある三転の星を意味するエンブレムは、高級車を販売しているメーカーのもの。磨き上げられて黒光りしている車体には呆然とした。
そして運転席に見える四、五十代くらいの男性は専属の運転手というやつかもしれない。
「ありがとう。また連絡するわ」
瑠璃川さんは運転手の男性にそう伝えると、こちらに歩いてきた。そのタイミングで車は動き出す。
「ごめんなさい。準備に少し手間取ったのと、道が渋滞していて」
準備が手間取ったというのも分かる気がする。今日の瑠璃川さんの服装はとても気合いが入っていた。
黒いニット素材のトップスに白いロングスカート。肩にはデニムのジャケットをかけている。
いつもはまとめていない艶々の黒髪は、一本でゆるく三つ編みにされていて、左の肩にたらしていた。
そしてほんのり化粧もされていて、陽光で輝く唇は少し艶めかしく感じる。
あまりまじまじと見つめては変態扱いされかねないと思い、それとなく視線を空に向けた。
キャンパスを青一色で染めたような空。原っぱで寝転べば、昼寝でもしたくなるほどの陽気だろう。
「もしかして、怒っているのかしら?」
瑠璃川さんに視線を戻すと、彼女は不安そうな顔をしていた。己の体裁を保つための行動が、彼女に不安を与えてしまうなんてと少し反省してから小さく息を吐く。
「そんなことないよ。ほら、行こう」
僕が笑顔でそう言うと、瑠璃川さんも笑顔になった。
初デートの相手が彌富じゃないことは残念だが、瑠璃川さんもれっきとした女の子だ。男として、きちんとリードする義務がある。
それに、あの弱みもかかっているのだから――。
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