なぜか本気の瑠璃川さん
翌日。始業ベル前に読書をしていると、目の前に人の気配を感じた。
そっと顔を上げると、そこには腕を組んで立つ瑠璃川さんがいた。
「おはよう、瑠璃川さん」
「おはよう速水君。昨日のこと、ちゃんと考えてくれた?」
「昨日のって――日曜日のこと?」
「そう。日曜日の、デート、のことよ」
瑠璃川さんはやけに『デート』のところだけ強調するように語気を強める。
他の誰に聞かれているのかわからないのだから、そんな言い方はやめてもらいたい。どこで彌富の耳に入るかわかったもんじゃないし。
「もしかして、あれって本気だったのか」
「まさか、冗談だと思ったの?」
瑠璃川さんはそう言って目を細める。氷のように冷たい目だ。ちょっと怖い。
「ま、まあ。そうだな」
僕は昨夜、瑠璃川さんの言葉の意味を再度熟考したのだ。そして、やはりドッキリだろうという考えに至ったのである。
瑠璃川さんは黙っていればそれなりに美人だし、持ち物やしぐさを見た限りでは育ちもよさそうだ。
そんな子が僕とデートをしたいなんて言うはずもない――。
瑠璃川さんは突然、机をバンッと叩くと、
「本気よ、本気!」
と顔をぐいっと近づけてきた。僕が身体を後ろにのけぞらせると、瑠璃川さんはそのまま囁くように言う。
「ちゃんと考えないと、わかっているんでしょうねえ?」
その言葉に、胸の奥がヒヤリとする。
昨日のあれのこと、忘れたの?
そう言いたげな表情でこちらを見据える瑠璃川さん。
「わ、わかったから! ちゃんと考えるって!! だから、昨日ことは……」
「分かればいいわ」
瑠璃川はそう言って自分の席に戻っていった。
「なんだよ……そんなに僕を騙したいのか。性格の悪い奴だな」
頬杖を突きながらそんなことを呟く。すると、教室に明るい声が響き渡った。
「みんな、おはよー」
「彌富、おはよう!」
「今日も元気だなー」
「えへへ」
彌富はニコニコと笑いながらクラスメイトたちに答える。
ちらりと僕の方を見て、彌富は小さく手を振ってくれた。体内の温度がいきなり上昇し、ぎこちない笑顔で僕も彌富に笑顔で小さく手を振り返す。
それを見たか見なかったかのタイミングで彌富は目を輝かせ、小走りぎみに瑠璃川さんへ近づき、「紗月~、おはよ」と言いながら、ハグをしていた。
「華弥。おはよう」
瑠璃川さんも嬉しそうに答え、彌富の肩をポンポンと軽くたたいた。どうやら瑠璃川さんは恥ずかしいらしい。
「おおう、悪いねえ」
「いいのよ」
それから二人は始業ベルが鳴るまでの間、楽しそうに談笑していた。
彌富は瑠璃川さんの前でだけ、あんなに楽しそうに笑う。少し羨ましいなと僕は思った。
本当の彌富の笑顔は僕だけが知っているつもりだったし、彼女が相談するのは僕だけだって思っていたのに。
でも、結局僕は他の人よりほんの少しだけ仲が良いクラスメイトってだけだったのだろう。
「なんだか日に日に惨めになるな、僕」
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