第1章・女王の食卓(4)
こうして、こしらえたばかりの
フォンドボウは、浮かれていた。
あの戴冠式の日以来、自分が城にあがってからも、その
夢にまで描き続けた女王様のお姿は、夢に見たよりもはるかに美しく華麗だった。
均整の取れた体躯に高貴な青いドレスをまとい、当節のハヤリの格好に結い上げた豊かな金色の髪と、豊満な胸元に、豪奢なエメラルドの飾りがいくつも並んで光っていた。
だが、ムキタテのゆでたまごのようなナメラカな白皙に大きく輝く双眸は、大粒のエメラルドよりも鮮やかに色濃く、フォンドボウの心を射抜いた。
フォンドボウは、女王への恋しさのあまり小刻みに震えながら、食卓に銀盆を置いた。
気高く誇り高い女王は、新参の料理人の浮き足だった所作にも表情ひとつ変えなかったが、できたてのシチューをひとくち銀のスプーンですするなり、うるわしい柳眉を不審げにひそめた。
「なんなの、これ。前の料理人のレシピと全然ちがうわ」
側近たちは、あわてふためいた。
「どういうことだ、フォンドボウ。釈明をいたせ」
「も、も、申し訳ございません! 恐れながら、女王陛下……」
フォンドボウは、脳天からカナヅチを落とされたようなショックを受けながら、
「わたくしめの料理を陛下にお召し上がりいただくという身に余る栄誉をちょうだいし、それはもう天にも昇るココロモチで、すっかり気が動転してしまいまして」
と、その場にひれ伏し、床にヒタイをこすりつけ、
「父から受け継いだ秘伝のレシピを、すっかりド忘れするほどだったのでございます」
ガタガタと震える料理人の背中を女王は見下ろし、あざわらうように目を細めた。
「オマエは、料理の腕より、口のほうが達者のようねぇ」
「ははっ、恐れ入りまする」
「本来ならば、即刻クビにするところだけれど」
「…………!」
「もう一度だけチャンスをあげましょう。明日の晩餐には、きっと、わたしの舌を満足させてごらんなさい。さもなくば、国外追放よ」
そう言い捨てると女王は、手にしていたスプーンを皿の中に放り落とすなり、真っ白いナプキンでクチビルをグイグイぬぐった。
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