第1章・女王の食卓(3)
フォンドボウの父親の料理をたいそう愛していた女王は、それはもうガッカリなさった。
そこで、側近の一人がしずしずと女王に歩み寄り、
「息子のフォンドボウを、新しい宮廷料理人としてお引き立てになってみては?」
と、……少し鼻にかかった甘美な低い声で……、そっと耳打ちした。
――なるほど、息子であれば、父親のレシピと腕前をきっと受け継いでいるに違いない。
女王はうなずき、ただちにフォンドボウを料理人に召し抱えるよう命じた。
フォンドボウは、夢見心地になると同時に、とてもあせった。
なにしろ、城で暮らすようになってから一度も、包丁やナベに触れてすらいない。
ひたすら自分の容姿とタチイフルマイを磨くことに専念してきたからだ。
とはいえ、三つ子のタマシイ百まで。
城にあがる以前は、食堂で忙しく腕をふるう父親に素直にあこがれ、幼いころから厨房の手伝いをよくしたものだ。
末は宮廷料理人……と、あの頃は、他意なく純粋に夢見てさえいたのだ。
だから、まあ、食材を吟味したり、切ったり焼いたり煮たりする程度の腕前は、そんじょそこいらのメイドよりは、よほど板についている。
――案ずるより、産むがやすしだ。
ハラをくくったフォンドボウは、すっかりサマになった優雅な足どりで厨房に向かうと、踊るようなシグサで大ナベをふるった。
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