第1章・女王の食卓(2)

女王の戴冠式から5年後。フォンドボウは19歳になっていた。

城のおかかえの宮廷料理人が亡くなったため、代わりの人材を募集するという告示が城下町をかけめぐった。

  

フォンドボウの父親は、とても仕事熱心で向上心の強い人物だったから、いまや彼の食堂は町で一番の人気店になっていた。

それで、トントン拍子に宮廷料理人を命じられると、息子のフォンドボウも、たった一人の身内である父親につき従って一緒にお城で暮らせることとなった。

  

  

グルメな女王様は、フォンドボウの父親の料理をいたくお気に召した。

ゆえに、城中でのフォンドボウ親子の立場も安泰といえた。

  

  

フォンドボウは有頂天だったが、しかし、せっかく女王様と「同じ屋根の下」で過ごせるようになったとて、お顔をあわせる機会は得られなかった。

  

「どうしたものかなぁ」

もどかしく地団太じだんだを踏みながらも、フォンドボウは、使用人のためにあてがわれた城の一角の居室で、日当たりの一番いいスペースに置いた姿見すがたみをあきることなくのぞきこんで、身だしなみに余念がなかった。

  

いつか女王と謁見えっけんの機会が叶った瞬間のために。

その瞬間のためだけに、毎日ケナゲに、鏡にうつる自分の姿を何時間でも丹念に見つめた。

  

いつでも完璧に自分を磨きあげておくためには、朝・昼・晩とミルク風呂につかり、全身にマッサージをほどこし、うら若いメイドをかわるがわる居室に招き入れては、ハヤリのダンスの相手をつきあわせて、優雅で品のいいステップを身につけることにも余念がなかった。

  

  

こうして、さらに1年後。

フォンドボウの父親が、急逝きゅうせいした。

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