罪と罰の所有権 少女Aの約束された将来について

こぼねサワー

【1話完結・読切】

フザケないでよ、こっちは将来があるのに!


ジョーダンじゃない。勝手に死んでったヤツのせいで、人生ダイナシにされるなんて。

ああ、もう、どうしよう。なんでこんなことになっちゃったのよ。


誰か助けて、お願い……

―――もしも助けてくれるなら、悪魔にタマシイだってくれてやる!


って、必死にアタマん中で祈ってたら、目の前にパッと出てきた。

真っ赤な髪に真っ赤な瞳の、めちゃめちゃ美形でシュッとした背の高いオニイサン。


真っ黒いマントは中二病くさくてちょっとアレだけど。

まあ、それが悪魔の制服なんだろう。



とにかくアタシは、悪魔にグチった。


中学のとき、同じクラスの男子が、教室の窓から飛び降りて死んだこと。

おかげで、今になって、アタシがヒドい目にあってること……。


×××××


ウチらが通ってた中学、生徒すくなかったから、クラスがえとか全然なかった。

だから、ずっと同じクラスだったけどアイツ、ぜんぜん空気よめなかったっていうか。

まわりに合わせようとしなかった。


いっつもボーッとしてるくせに、勉強めっちゃ得意で。

生徒にナメられてばっかの数学のセンセーが、いっかいマウントとりたがって、ワケわかんない計算式をドヤ顔でコクバンに書いたときも、なんでか知んないけどアイツ、スラスラ問題といちゃって。


けど、そういうのって、よけいにハナにつくだけじゃん。


ぶっちゃけ、センセーとかもウザがってたんじゃね?

だって、アイツが飛び降りるちょっと前、アイツの母親が、ウチのオンナの担任にイジメの相談とかにきたときも、見事にスルーされてたらしいし。

担任ってば「彼氏とデートの約束あるから」ってイイワケしたらしいよ。マジでウケるわ。


まあ、とにかく。

アイツ、入学早々クラスのヤンチャなグループに、すぐ目をつけられて。


ゲタ箱にネズミの死骸を入れられたり、体操着を盗まれてトイレの便器に放りこまれたり、机の上に彫刻刀でバカげた暴言を刻み付けられたりとか。

アリガチなイタズラと、あとはまあ、フツーに殴ったり蹴ったり、とか。いろいろ。


それでもアイツ、ヒョウヒョウとしてて。

クラスの雰囲気になじもうとかいう感じ、最後まで全然なかったし。


クソイナカのチッポケな中学なんだからさ。なんか、お高くとまってみえんだよね、そうゆうの。

こっちのほうが見下されてる気分になっちゃうっつーか。


よけいに気に食わなくって。みんながアイツをケムたがった。


×××××


で、2年の3学期のとき、休み時間に。寄ってたかってアイツを取り囲んで「ハダカになれ」って。

なんか急に、ノリでね。エアガンでアオったりして。


ちょっとフザケただけなんだ。クラスのみんな大盛り上がりだったし。


アイツも結局、最終的には、自分から服を脱いでマッパダカになったわけだから。

こっちが押さえつけて服をハギ取ったわけじゃないし。

イジメとか言われてタタカレるの、マジで心外。


んで、せっかくだから、みんなしてアイツのマッパの写真をケータイで撮影してやった。


そんとき、アタシ、思いついたんだ。

「この画像、ネットでサラしたらウケるくない?」


てかさ、アイツ、インスタで自分のイラストとかをいっぱいあげてたんだよね。

なんか意味不明の、抽象画みたいなやつ。


ナニゲにアタシよりフォロワーとか多くて、すんごいムカついてたし。


「アンタのアカウントにアップしてやるから、ケータイ貸しなよ」

って、アタシが言ったら、みんなもテンションあがっちゃって。


そしたらアイツ、めっちゃマジで抵抗しちゃって、

「そんなことされたら、もう生きてけない! 僕のたったひとつの居場所を奪わないで!」

とか、オオゲサなこと言いだして、ギャン泣きするからさ、


「だったら、死ねばぁー? やってみれば、ほら」

って、アタシ、ちょっと軽くアオったんだ。


だって、そうなる会話の流れじゃん?

わかるじゃんねぇ、フツー。そーゆーノリ。


けど、アイツってば、やっぱ、とことん空気読めなかったから。

まんまイキオイで、教室の窓から飛び降りちゃったんだよね。

マッパだったのにさ、ヤバすぎでしょ。


×××××


まあ、ゆってもウチら中学生だったし。

「こんな小さい町でヘンなウワサがたつと、逃げ場がなくてカワイソウ」

っつって、ガッコもケーサツも、騒ぎが広まらないように守ってくれた。


なんてったって、こっちは将来のある身だしね。


パパとママだって、

「つまらないことでアタマに血がのぼってトビオリなんかするほうが異常なんだ」

って、アタシたちをカバってくれてたもん。


それに、アイツんちはシングルマザーで、親戚もあんまりいなかったみたいだから、

「もしもアイツの母親がオレらに文句とかいってきても、地元に味方はいないから心配ないって、ウチのオヤジが言ってたぜ」

って、クラスの誰かが言ってたし。


実際、それっきりアイツのことなんかほとんど話題にならないで、ウチら無事に中学を卒業して。


みんな今、だいたい高校とかいってる。

アタシも今は県内の高校に通ってて、卒業したら美容の専門にいくつもりなんだけど。


×××××


問題は、ここからなんだ。


今すっごい売れてる歌い手のYが、先週、アイツのインスタをいきなりフォローしたんだ。んで、あがってるイラストをいくつもファボったんだよね。

アタシも、めっちゃガチで推してる歌い手だからさ。もう思わず叫んじゃったくらい、ビックリしたんだけど。

それキッカケで、アイツのイラストが、ネットでバズりだしちゃってさ。


てか、とっくに削除されてると思ってたのに。しぶとく生き残ってたんだ、アイツのインスタ。

しかも、なんでアタシのガチ恋にアイツが推されてんだよ。とことんムカつくんだよ、あのタコ。


んで、そのアカウント名が、アイツの本名のまんまだったから、すぐに本人特定されて。

アイツがジサツしてたってことが、いまさら世間じゅうの話題になっちゃったってわけ。


そしたら、有名な週刊誌の記者が、いきなり、こんなクソイナカまで乗り込んできて。

『SNSで発掘された天才アーティストのジサツの原因はイジメ』だって、勝手に記事をだしちゃったんだよね。


『町ぐるみでイジメをインペイして、加害者はオトガメなし』とかなんとか。

ウチらばっか一方的に、超ワルモノにされてるわけ。ね、ひどくない?


その記事がネットで大炎上して、ウチらの名前とか顔とか、通ってるガッコとか自宅の住所まで、ぜーんぶ特定されて、サラされまくってんの。今まさに。


アタシのインスタなんて、誹謗中傷のコメントだらけになっちゃった。

トップの自撮りに、「ブス」とか「クソアマ」とか。ひどすぎるよ。ほんと傷ついたし。カタッパシから訴えてやる。


家の電話イエデンにもガンガンいやがらせ電話がかかってくるから、パパが怒り狂って、電話の線ひっこ抜いちゃったし。


ガッコーにも行けない、このままじゃ。

ネットで暴言吐かれてるだけでメンタルもう限界でボロボロなのに。リアルに言いがかりつけられたり暴力ふるわれたりするかもしれないって思うと、もう。

コワくてたまらない。ガッコーどころか、家からだって外に出れないよ。


見も知らないアカの他人どもが、よってたかってアタシをサラして、どんどん敵意を向けてくるの……


「こんなの、おかしい。アタシ、そんなに悪いことした? 絶対に不当でしょ? こんな不当な仕打ちはやめてほしいの! なんとかしてよ、悪魔さん。お願い……」

アタシは、悪魔に向かって、めいっぱい手をあわせた。


赤い髪と目をした美形の悪魔は、悪魔とは思えないくらい優しそうに笑った。ニコッ、て。


―――あれ? このオニーサン、悪魔じゃなくって天使だったのかも…… って、アタシ、ちょっと思ったくらい。

けど、次の瞬間、オニーサンの真後ろにデッカい黒い翼がブワッといきなり広がったから、やっぱり悪魔だとカクシンできた。


「こころえた。君の願いをかなえてあげよう」

ちょっと鼻にかかったセクシーな低い声で、悪魔は、アッサリそう言った。


で、拍子抜けしたアタシが目をパチクリしてるスキに、パッと消えていなくなってた。


×××××


……あれから、ちょうど3年たった。


3年前のネットの炎上騒ぎは、日がたつにつれ自然とおさまったけど、アタシの名前は検索すればすぐに出てくる。この先も、きっと、永遠に。

こんなクソイナカから脱出して、都会のセレブな美容院に勤めたくっても、履歴書の名前をググられたとたんアウトってこと。


いっぺんでもサラされちゃったら、とりかえしがつかない。人生お先マックラ。


まだハタチにもなってないのに。アタシの将来には、すでに夢なんかヒトカケラも残ってない。


アタシだけじゃない。アタシと同じ中学を出た連中は、みんな悪評がついてまわった。

同級生だけじゃなくて、同じ中学の先輩も、後輩も。

「あの中学校」の出身って気付かれたとたん、相手の目つきが変わるんだって。


おかげで、見ず知らずのネット勢のヘイトからは逃げられたけど、今度は、地元の顔見知りたちからロコツにニラまれるようになった。

友だちとツルんでるだけでイヤミを言われるから、もう誰とも気軽に遊べない。


こんなチッポケなクソイナカで。近所じゅうから後ろ指をさされて。

だからといって、どこにも逃げられない。

どこに行っても、3年前の騒ぎを必ず掘り起こされちゃうから。


ハリのムシロみたいな、この町にしか居場所がない。

みんなに恨まれてオドオドしながら、ここで死ぬまで生きていくしかない……


……っざけんな!


「出てきなさいよ、クソ悪魔! アタシの願いを聞いてくれるって言ったクセに!」

アタシは、必死に悪魔を呼んだ。


×××××


そしたら、また、一瞬のマバタキのスキに、赤い髪の悪魔が目の前に出てきて、ハラワタが煮えくり返りそうになるくらいキレイな笑顔で言った。

「おやおや、人聞きの悪い。君の願いは、ちゃんと叶えられたはずだが」


「ウソばっかり! やっぱり悪魔なんか信用するんじゃなかった。もう、……助けて、神さまっ!」


「だったら、まさに君のお望みどおり。君の願いを叶えたのは、神の御使みつかいである天使だからね」


「フザケないでよ! なんでイキナリ天使がでてくんの? アタシは悪魔と取り引きしたのに」


「いいや。私は君とは取り引きしていない。私と契約する者は、私の名前を呼ばなければならないが、そもそも君は私の名前すら知らないだろう?」


「は? いまさら何言ってんの!?」


「3年前のあの頃には、君のタマシイはもう、地獄ゲヘナの管理者の所有物だったからね。取り引きをするのはムリだ。キミには支払う対価タマシイがないんだから」


「い、意味わかんない! だって、願いを叶えてくれるって、そう言ったじゃん……」


「叶えてやったとも。君の願いを天界に取りついであげたんだ。神の御使みつかい、大天使ウリエルと取り引きして」


「な、なにそれ。どういうこと?」


「"天罰"の配剤はいざいは、彼らの領分だからね。『不当な仕打ちをやめてほしい』というのが、君の願いだったろう?」


「そうよ! だから、ちっとも願いが叶えられてないって言ってんでしょ」


「いやいや。今ある状況こそが、天使がくだした『正当な仕打ち』なんだがね」


「は……?」


「無限の可能性を秘めていた少年の未来を踏みにじった者への天罰にしては、3年前の状況は、"不当なまでに軽すぎた"ということだよ。地獄の底では、さらに想像を絶する責め苦が待っているからね。せいぜい長生きをして、俗世にいるうちに少しでも多くの贖罪しょくざいをすませておくほうがいい……」




×- - -END- - -×


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