ラのロクジュウヨン「黄昏と劉生」

 桜花と黄泉が戦闘を繰り広げている最中、劉生の意識は黄昏へと向いていた。

「突っ込むなんて危ないですよ……」

 心配する劉生を黄昏は手で制した。

「頭はスッキリと冴え渡っているから、何の心配もいらないさ。馬鹿な真似をする気はない」

 そう言われても──これまでの行動が行動なだけに、劉生も俄には信じられなかった。


「……それにさぁ……」

 黄昏は肩を竦めた。

「結局のところ、周りが見えなくなっていようが冷静であろうが見失っていようが、私のやりたいことは変わらないんだよ」

「どういうことですか……?」

 劉生は首を傾げる。またとんでもないことを言い出すのかと思ったが──黄昏は黄泉に目を向けた。

「黄泉をこの手で抱き締めるんだ。……私がやりたいのはずっとそれだけだよ」

 その場で手を伸ばし、桜花に蹴りを放った黄泉に手を向けた。


 そんな視線に気が付いたのか──黄泉は視線を黄昏に向けて、ニタリと殺意の篭った笑みを浮かべた。

 宙を舞った黄泉は床に軽やかに着地すると、両手を前に出して鎖を黄昏に放った。


「黄泉……」

 黄昏は手を黄泉に向けて出したまま立ち尽くしていた。


 無抵抗な黄昏に、放たれた鎖が一気に迫って来る。


「だぁあああっ!」

 棒立ちになっている黄昏を、劉生は押し退けた。

 そして、代わりに鎖の先に付いた分銅を全身に受けたものである。

「……っうっ!」

 倒れた劉生を黄昏は驚いた様に見遣る。


「能力があるから、平気だって」


 劉生は苦悶の表情を浮かべながら、そんな黄昏に言ったものである。

「だからって、まともに受ける必要もないでしょう! 避けないと! さっきみたいに食らっちゃうことだってあるんですから!」

「あ、うん……」

 黄昏は頷いた。確かに──先程から自分は黄泉にしか目が行っていなかった様である。黄昏の瞳に劉生の顔が写った──。

「そうだね……」

 黄昏はポンッと自身の両頬を叩く。

「ごめんね。もう大丈夫だ……黄泉をこっちに取り戻すんだ」

 黄昏は劉生に手を差し伸べた。

 その手を取り、劉生も立ち上がり黄泉に向き直った。


 一人ではないのだ──。

 そのことを黄昏は思い出し、二人を見遣った。


 倒れた桜花も立ち上がり、構えを取っている。


 黄泉をこの手に取り戻すために──黄昏も気合を入れ直し、身構えるのであった。

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