ラのロクジュウゴ「凝視」

──ズガァアァンッ!

──ザシュッ!


 壁板や襖を突き破り、黄泉が繰り出した鎖が暴れ回る。


「まるで、生きているみたいね……」

 数多の攻撃にさすがの桜花も手を焼いている様である。

 死角外からの攻撃や鎖による妨害──一筋縄ではいかず、対応が難しかった。


 優位に立っている黄泉は勝ちを確信しているらしく、余裕の笑みを浮かべていた。

「私の能力で、鎖にはそれぞれ意思を持たせているからね。……さぁ、どう対処する?」


「能力……か……」

 桜花は黄泉の言葉を繰り返し、何やら考え込んだ。

「私も、もっと集中しないとね……」

 誰ともなく呟いた桜花は大きく深呼吸をした。

 そして──真っ直ぐに黄泉を見詰めた。


 一瞬、黄泉は気圧されてしまう。

 桜花の雰囲気が変わり、何やら悪寒が走った。

 警戒を強めた黄泉であったが──ところが、桜花から攻撃を仕掛けてくる気配は一向になかった。

 そればかりか棒立ちになり、瞬きをすることすら忘れているかのようであった。思考の奥底に入り込んでいる様に──桜花は黙ったまま真っ直ぐに黄泉へと視線を向けていた。


「なんの……つもり?」

 桜花が何をしてくるか分からず、黄泉は困惑した。

 桜花からの反応はない。少し待ったが、動きもない。

──黄泉の眉間に皺が寄る。

「馬鹿にしてるの!?」

 黄泉は発狂して腕を振るった。

「ふざけないでよ!」

 死角から飛んで来た鎖が鞭の様にしなり、桜花の手を打つ。


 そんな不意打ちにも──桜花は何の反応も示さなかった。


 手に持っていた木刀が、桜花の手から離れて床に落ちた。


 生命線とも言える武器を拾おうともしない桜花に、黄泉は呆れた顔になる。

「本当に、馬鹿だねぇ……」

 ケタケタと笑い、黄泉は数多の鎖を操作した。

 伸びて来た鎖が桜花の腕や足──その四肢に巻き付いて動きを封じた。


 これまた反応はなく、桜花は無抵抗のまま鎖によって捕らえられてしまうのであった。


「……なに? どういうこと?」

 あっという間にすんなりと桜花を拘束してしまい、黄泉は驚きの方が大きい様であった。


 しかし──黄泉は気が付いていなかった。

 そんな絶体絶命の状況に自らの身を置いても尚──桜花の視線は真っ直ぐに黄泉へと向けられていたことを──。

 その瞳には、光が消えることなく宿っていた。

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