ラのロクジュウニ「鎖使い」
天井の鎖に吊り上げられた黄泉は腕を上げると別の梁へと向けた。袖口から鎖が飛び出し、梁へと巻き付く──。
それを頼りに体を引き寄せた。
まるで木から木に飛び移る猿の様に、黄泉は振り子をしながら素早く別の梁へと移動して行った。
そんな黄泉に注意を向けなければならなかったが──そこだけに集中するわけにもいかなかった。
桜花は視線を動かし、天井を見上げる。
鎖が天板には蔦や蜘蛛の巣の如く張り巡らされており、まるでこちらの隙を伺っている様であった。
──ジャラッ!
後ろで鎖が擦れる音がしたので、桜花は慌てて身を伏せた。
分銅の付いた鎖が頭上を飛んで行った。
強面の男たちの介抱に当たっている劉生も、気が気ではなかった。救護班に回った劉生にも容赦なく死角から流れ弾の様に鎖が飛んで来るのだ。
「うわっ!」
それに気付き、何発かは避けたが──体が付いていかない。足が縺れて倒れてしまった。
──ガシャンッ!
鎖の衝突音が鳴り響いた。
ところが──劉生に痛みはない。
顔を上げると、庇う様にして立っている黄昏の背中が目に入った。
「黄昏さん、どうして……?」
「危ないところだったね」
分銅が激突した黄昏も負傷した様子はない。
劉生の頭に 疑問符が浮かんだものだが──すぐに理解した。
「そうか……黄昏さんの反射能力で跳ね返したんだ」
コクリと、黄昏も頷いた。
黄昏の反射能力があれば鎖を跳ね返すことも容易ということらしい。
「……ハハッ!」
そんな黄昏に向かって、笑いながら黄泉は鎖を放って来た。黄昏の腕にそれが巻き付き、体が引っ張られる。
黄昏の体は壁に激しく打ち付けられた。
「うっ……!」
黄昏が苦悶の表情を浮かべる。
当たり所が悪かった様で皮膚が千切れ、頭から血が流れた。
「そんな……」
完璧とも思える反射能力であったが、意外な弱点もある様だ。物理的な衝撃には無力であるらしい。
劉生は狼狽えたものだが、黄昏は動じていなかった。
「残念ね。能力が効かないみたいで……」
「関係ないね」
黄泉の笑みに、黄昏は踏ん張って倒れそうになるのを堪えながら言ったものだ。
何の曇りもない真っ直ぐな瞳──妹からの中傷にも黄昏の心は穏やかであった。
黄泉はそんな黄昏に気圧された様だ。
「なんでよ? 死ぬわよ、あなた……」
「だから、関係ないんだって!」
そう言いつつ、黄昏は笑みを浮かべた。
「妹が迷惑を掛けているのに、見て見ぬふりなんて出来るか! むしろ、受けたのが私で良かったさ」
次いで、黄昏はビシッと黄泉を指差した。
「さぁ、そろそろ終わりにしよう。私はただ黄泉に触れたいだけなんだ! だから、最短距離を突き進ませてもらうよ!」
黄昏は声高らかにそう宣言したのであった。
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