ラのゴジュウロク「秘めたサイコメトリー能力」
「ほぅ……姫野家の人間かい。そうかい……」
助野は煙管を口から離し、フゥーッと煙を吐きながら染み染みと言ったものだ。
助野も苗字こそ変わっているが、元は姫野家の人間──姫野家の血は流れているらしい。
つまり、桜花とは遠い親戚になるということなのだろう。
「お邪魔しますね」
桜花が丁寧に挨拶すると、サングラスの男は舌打ちをして劉生を睨んだ。
「……ったく。ここはそんなラフな場所とちゃうねんでぇ? 女、連れ込みおって、どういうつもりじゃ」
「いや、ただ来てもらったわけじゃないんです」
サングラスの男が何やら勘違いしている様で、劉生は苦笑いをしたものだ。
「桜花の能力で暗黒街の闇を突き止められないかと思いまして……」
軽く劉生が言ったので聞き流しそうになるが、サングラスの男と助野は眉をピクリと反応させた。
「……なんやと……?」
「へぇ。そいつぁ、凄いじゃねぇか」
興味津々といった様に、助野は桜花を見詰めた。
「何か特殊なことができるってことかい?」
「はい。まぁ……」
劉生は頷き、言葉を濁した。余り情報を助野たちに与えたくない様子だ。
チラリと桜花の顔を見遣ると彼女が頷いたので、劉生は恐る恐る言葉を続けた。
「サイコメトリーみたいなことができるらしいです……」
「サイコ……? なんでぇ、そりゃ?」
助野はカタカナ語には疎いらしい。思い当たる知識がない様で、目をパチクリさせていた。
「どういうことだぁ?」
助野が尚も突っ込んで来るので、劉生は困ったものである。
実際のところ、桜花にそういうことが出来ると聞かされただけで──詳しいことは分からない。とは言え、桜花は説明する気がない様だ。口を噤んで黙ったまま、助野やサングラスの男の顔を見ている。
「えっとぉ……物とかから、その情報を引き出せるって能力っぽいですね。触れば良い、みたいな……」
──桜花というよりサイコメトリーの説明を、劉生は助野にしてやった。
「なんやて!?」
理解のあるサングラスの男はそれで驚いて声を上げた。
「ほな、その嬢ちゃんのサイコメトリーで、痕跡から黒幕まで調べられるっちゅうことかないな!?」
──え、そうなの?
と、劉生が疑問符を口にするより先に桜花が頷いた。
「ええ。その通りです。劉生君から色々と話しを聞きましてね、ここで役立てないかと思って来ました。
「ふぅ〜ん……」と、助野は半信半疑だ。
「ウチの組が総力を上げても尻尾を掴めねぇってぇのに、そんなことができるのかい?」
「はい」と、頷く桜花は自信満々である。
「全て明らかにしますよ。すぐ分かりますから」
ニコリと桜花は余裕の笑みを浮かべた。
「そんなら早速、やって貰おうじゃねぇか。……何が必要だ?」
助野に尋ねられるが、桜花は首を横に振るった。
「一応、準備もありますからね。今すぐにというわけにはいきませんよ」
「なんや、すぐできんのかい!」
「まぁ、もう少し夜が更けてからにしましょう」
「なんやと?」
サングラスの男が苛立って語気を強めるが、桜花は動じずにせせら笑った。
「それとも、何か急がなければならない理由でも?」
「あ、いや……そんなわけはないが……。何やら胡散臭いのぅ!」
桜花とサングラスの男との関係が悪くなりつつあったので、助野は間に入ったものである。
「あぁ、いいぜ。別に」
「親父! こんな胡散臭いのを、信じるんでっか!?」
「胡散臭かろうが何だろうが、面白ぇじゃねぇか。少しくらい付き合ってやろうぜ」
ケタケタと助野が笑ったので、サングラスの男は頭痛がしたものである。
「本当なら本当でいいじゃねぇか」
助野は立ち上がり、サングラスの男の肩をペシペシと叩いた。
「随分と振り回されたもんだが、嬢ちゃんの能力で居場所を突き止められるっていうんだから、お前も良かったなぁ?」
ハハハと笑い掛けた助野であったが──サングラスの男からの反応はない。
拗ねてしまったのか、前を向いたまま動きが止まっている。
「なんでぇ……嬉し過ぎて、呆けちまったか?」
「あっ、いや……」
そこでサングラスの男はハッとなり、我を取り戻した様だ。
慌てて助野に言葉を返した。
「分かりましたわ。親父がそれでいいって言うなら、そうしますわ……」
どこかサングラスの男の反応はおかしかった──。
「今夜でっか……。それですべてが終わるんや。いやぁ……楽しみやなぁ……」
そう言うサングラスの男の顔は笑っていなかった。
ジーッとサングラスの男は、桜花に顔を向けたまま静止する。その視線の意味を──理解する者は、この場には誰も居なかった。
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