ラのヨンジュウロク「最後に立っていたのは」
焼け爛れた事務所の建物──。
その床は簡単に崩れ落ちそうで体重を預けることには若干の抵抗があった。
それでも、踏み込まないわけにはいかない。
中には劉生たちが──暗黒街の闇のメンバーが必ず居るはずである。
果敢にも、強面の男たちは足を踏み入れて行った。
こうなればヤケである。躊躇なく、勢いのまま彼らは進んで行った。
サングラスの男も後に続き、建物の内部を進んだ。
焦げ臭い匂いが建物内には充満しており、サングラスの男は顔を顰めた。
「あかん。気持ちわるぅなるわ」
懐から取り出したハンカチを鼻に当て、何とか臭いを軽減させ様とする。
火災や爆発が原因で電灯も破損しており、廃棄された建物には当然明かりはない。
強面の男たちの何人かが持参してきた懐中電灯を頼りに足元を照らした。
お陰で飛散したガラスの破片や瓦礫などに足を取られずに済んだ。
転倒することもなく、サングラスの男たちは安全に建物内を進むことが出来た。
廊下を歩きながら面した扉を開けて、中を確認する。
暗闇の中で、何処に誰が潜んでいるか分からない。一つ一つ確かめ、用心しながら進んで行った。
とある部屋の扉を強面の男が開け、部屋の中に足を踏み入れ様としたところでサングラスの男が呼び止めた。
「おっと、待ちぃや……」
強面の男が足を止め、振り向く。
「どうなさいました?」
「下、気ぃつけな」
サングラスの男に言われて強面の男は前を向く。足元を照らし──そして、顔が青褪めた。
床に大きな穴が開いており、階下に繋がっていた。知らずに足を踏み入れていれば真っ逆さまに落ちてしまっていただろう。
受け身すら取れず、軽い怪我では済まなかった。
強面の男は驚きの声を上げ、そしてサングラスの男を見遣った。
「よ、良く分かりましたね。こんな穴……」
「だから気ぃつけぇ、言ったやろ。注意、足らな過ぎや」
「そう言われましても……こう暗いんじゃ……」
口答えをしようとすると、サングラスの男にギロリと睨まれてしまう。
「あ、いや、すみません」
強面の男は平謝りし、もうそれ以上は何も言い返せなかった。
「しかし……何ですかね、この穴……」
懐中電灯の明かりで開いた穴を照らしながら強面の男たちは呟いた。
「さぁのぅ……?」
サングラスの男が知るわけもなく、そんな疑問は軽く流されてしまうのであった。
「それより奥や。誰か居るみたいやからなぁ」
そう言いながらサングラスの男が廊下の奥にある扉を指した。
強面の男たちは顔を見合わせ、足元に気を付けながら先へと進んで行った。
扉の前に立つと、強面の男の一人が扉に耳を当てる。
──何やらガサゴソと中で物音がした。
強面の男たちは振り向き、声を上げた。
「誰か居るみたいです……」
強面の男たちの視線がサングラスの男に集められ、指示を仰いだ。
「いくでぇ!」
サングラスの男の言葉を合図に、強面の男は一斉に動き始めた。扉を蹴破ると、一気に部屋の中へと雪崩込んだ。
強面の男たちはそれぞれ手にした武器を、待ち構えているであろう相手に向けた。
「大人しくしろ、コラァァァ!」
「おどれら、堪忍せぇや!」
サングラスの男も後から入り、大声を上げる。
「あら、来たんだ……?」
ところが──出迎えは、そんな呑気な声であった。
サングラスの男と強面の男たちの視線の先に写ったのは──床に座ってこちらに目を向ける黄昏の姿であった。
その膝には、血みどろでボロボロになった劉生が横たわっていた。
「お前は……?」
強面の男たちは不思議そうな顔になったものである。
「暗黒街の闇の連中は? あいつらは、どうしたんだ?」
「お目当ての人は、あちらだよ」
そう言って黄昏は顎をシャクって部屋の隅を差した。
床に倒れて伸びている金髪の男と──スキンヘッドの男の巨体。
強面の男たちは目を瞬いたものだ。
「お前がやったのか……?」
唖然とした強面の男たちに向かって、黄昏はクスクスと笑みを返したのであった。
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