ソのジュウロク「一筋の光」
妃音音が凶悪な作戦を企てたのと時を同じくして、劉生銀河は校舎という名の迷宮の中で一人迷子になっていた。校舎は、たかだか三階の建物であるのだが、南校舎と西校舎──それに中等部と研究棟などがつらなっていてそれなりの敷地を有してした。
自分が今何処に居るのかも、何処へ向かっているのかも──最早、劉生には分からなくなっていた。
教師から説明があるからと職員室に来るように言い付けられたが、場所も教えられずに何となしに見切り発車で教室を出てしまった。
適当に歩いていればいつかは辿り着くだろうと、直感に従って進んで行ったのが余計に良くなかった。右も左も分からなくなって、校舎内をうろつくばかりである。元の教室に戻ろうにも、それが何処であったか分からない。
迷宮の校舎に慣れた利用者たちには不要であるため、地図や標識などは不親切にも一切掲示されていなかった。勿論、各教室には教室の名前が書かれた表札があったが、『第二音楽室前準備室』やら『社会科用具室補助室』などと難解なものばかりで読むのを途中で諦めてしまうものばかりであった。
──まぁ、手っ取り早いのは誰かに聞くことである。
何人か生徒や教員とすれ違ったが、どうにも知らぬ相手に声は掛け辛かったのでここまで我慢していた。
それでも、さすがに迷宮にどっぷりと使ってしまって限界であった。
──誰かに聞こう。
困り果てて、心変わりした劉生の前に──渡りに船と行ったところから──前から見知った人物が歩いて来るのが見えた。
それは、顔にグルグルと包帯を巻いたミイラ少女の姫野であった。普通ならそんな奇異な存在に怯えるところであろうが、途端に劉生の顔はパアッと明るくなったものである。
「姫野さん!」
光明が差して余程劉生は嬉しかったのであろう。笑顔で手を振りながら姫野に駆け寄ったのであった。
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