ソのジュウゴ「隠れた逸材」
「あなた達が、姫野を襲えばいいんじゃない」
音音があっけらかんと、とんでもないことを口走る。
その言葉の内容がすぐに理解出来なかった非行生徒たちはポカンと口を開けて呆けてしまう。
正常の人間では恐らく口にしないであろう内容の発言に、非行生徒たちがその意味を理解するには少々の時間を要した。
「はぁ?」
当然のように、椿が険しい顔になる。
しかし、音音は冗談のつもりではないようだ。尚も真剣な表情で食い下がる。
「そうすれば、あの女にギャフンと言わせることが出来るじゃないの! そうよ。それしかないわね!」
勝手に話を進め、音音は嬉しそうにパチパチと手を叩いた。
「いやいや、変なことを言うなよ!」
椿が慌てて暴走する音音を止めに入る。
「そんなこと出来る訳ねぇだろうが!」
「はぁ? 何それ。……見た目の割に臆病なのね」
音音は失望し、溜め息を吐いた。冷ややかな目で、座る椿を見下ろしたものだ。
椿は、そんな音音から威圧感を受けていた。
何だか音音がとても大きな存在に見え、体が震えたものだ。
「うるせぇな!」
精一杯に虚勢を張ったが、最早その声は音音の耳には届いていないようであった。
自分の考えを実行できない非行生徒たちに音音は大いに落胆し、そして興味をなくしたようだ。
──役に立たない連中だわね。
利用価値すらない粗末な連中だと分かると内心で見限ったのであった。
「少しは手駒として使えるかと思えば、いざと言う時に臆して身動きを取ることすら出来やしないなんてね……。本当に使えないわ……」
音音は諦めの言葉を口にしてやる。
悔しそうに非行生徒たちが顔を歪ませていたが、彼らをいくら説得したところで時間の無駄であろう。誰一人、心変わりをすることはないだろうから。
例え、意見を変えたとしても、それはそれでならば最初から賛同しろよと腹が立つものである。宙ぶらりんな存在が、音音としては一番腹が立つのであった。
そんな音音の瞳に、ふと一人の非行生徒の顔が目に入った。他の非行生徒たちが音音に反感の瞳を向ける中、彼だけは真っ直ぐに音音を見詰めていた。
その瞳からは赤々と燃える何か──野心のようなものが伺えた。
「へぇ〜」
良く見れば、彼だけではない。何人かの非行生徒たちも音音の話に興味を抱いているようであった。
それだけでも大した収穫であった。椿や他の非行生徒たちなど最早どうでも良かった。
音音は口元を歪めたものだ。
──使えない連中ばかりと思ったけれど、中には見所のある奴もいるみたいね。
ただ椿の手前──仲間たちが周りに居る以上、音音の話に賛同することは憚られるようであった。
ならば、早くここを離れて同志たちと綿密な計画について話し合いたいものである。
音音は非行生徒たちの顔を改めて見渡した。
音音の話に興味を持った非行生徒の中で取り分け目立つのが、優に二メートルを超える上級生の大男であった。椿の右腕として、この学校を牛耳っている男の一人である。
なんとも心強い男が味方についたものであろうか。音音は口角を吊り上げ、ほくそ笑んだのであった。
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