ソのジュウヨン「恥の仕返しに」

 休み時間──。

 腸が煮えくり返った妃音音の怒りは収まらなかったようだ。校舎の壁をゲシゲシと蹴りながら怒りの声を上げていた。

「本当にムカツクわ〜、あいつぅっ!」

 音音が居るのは体育館裏である。

 音音の他にも、この時間には上級生の生徒たちの姿があった。

 教師の目が行き届かないこの体育館裏は、非行生徒たちの間でちょっとした溜まり場になっていた。

 校則違反に髪の毛の色を染めていたり、制服を魔改造して着こなしていたり素行が良いとは言えない上級生たちが睨みを利かせているのだ。普通の生徒ではとても近寄り難い場所なのだろう。

 ところが、そんな凶悪な狼の群れの中に音音は平然と居座り、怒りを露わにしていたのだった。


 その理由は完全明白であった。

 何故なら、音音は彼らのことを下に見ていたからでかる。

 教師の目を逃れるよう、こんな場所で群れを作ってコソコソと悪行に励む──そんな連中が、自分より優れているなどとは思っていなかったので怯えることもなかったのである。

 ただ、この学校で幅を利かせるには一応、力を持つ彼らとの親交は不可欠だ。仲良くしておいた方が、利があると考えて此処に顔を見せているに過ぎなかった。


 結果として、音音の思惑通りに事は運んでいた。

 強い者たちを取り巻いているお陰で、この学校で音音に刃向かう者は誰もいなかった。それは教師とて例外ではなかった。


「まぁまぁ、そう怒んなよ」

 音音を宥めるように声を掛けて来たのは、上級生たちのまとめ役である椿蒼汰であった。

 この椿とて、下級生である音音の常軌を逸した行動に対して、余り口を挟むような真似はしない。

 それ程までに音音は上級生たちに取り入ることが出来、好かれていたのである。


 椿からの親切な忠告に、音音の顔は引き攣った。

「はぁ? 何よそれ!」

 音音にはそれを素直に聞き入れるつもりはないらしい。

 降って湧いたその怒りは、収まることを知らないらしい。むしろ心無しか、その怒りは徐々にヒートアップしているように感じられた。


──全ては姫野が悪いのである。


 ギリギリと音音は怒りに顔を歪ませて歯軋りをした。

 この町に住む人間からすれば姫野家の人間は軽蔑の対象であった。あの呪われた血統に生まれた下賤な連中に何をしたところで咎められる謂れはないのである。

 それなのに、逆に音音は戒めを受けたのだ。──それも、クラスメイトたちの前で──である。

 目の敵にしていた相手より下に見られたことが引き金となり、音音は危険な思想へと至ることになる。


「……そうだわ」


 そして、音音は妙案を思い付いたとばかりに目を見開き、手を叩いた。

「あん? どうした?」

 椿が首を傾げ、他の非行生徒たちの目も一斉に音音の方へと向いた。


 そんな彼らを前に、音音ら残虐な計画を口にするのであった。

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