ソのジュウイチ「夢から覚めた目」
それは本当に不思議な体験であった。
「おい。何てところで寝てるんだ……」
聞き覚えのある声に呼び掛けられ、体を揺さぶられた。劉生は呻いて顔を顰めると、目を覚した。
──父の顔が目の前にあった。
体を起こして辺りを見回す。
どうやら、廊下で寝てしまっていたらしい。通り掛かった父親に叩き起こされたようだ。
「あっ、そうだ! えっ……?」
劉生は慌てて飛び起きると自分の体を弄った。頭はきちんと首にくっついていた。全身に切り傷や刺し傷などの外傷もなく床に血溜まりも出来てはいなかった。
「どういうことだ?」
劉生は首を傾げた。
まるで、最初から何事も起こってはいなかったかのようである。
「どうしたんだ?」
「あ、いや……昨日、鎧武者がさ……」
「鎧武者ぁ?」
父は首を捻ったものだ。
「夢でも見たんだろ? 何を言ってるんだ」
「夢……?」
──そうなのかもしれない。
しかし、そうであるならやけにリアルな夢である。首筋の痛みも、仄かに思い出すことが出来るのであるから。
「じゃあさ、僕が寝ている間に、何処かに出掛けたりした?」
一応に確認をしてみる。
これで夢か現実かが、分かるというものだ。
父は首を横に振るった。
「ずっと家に居たぞ」
──外出などしていないらしい。
ならば、あの出来事は本当に夢であったのだろう。
鎧武者も本当は居なかったのだ。首を切り落とされたのも、全ては夢の中の出来事でしかない。
しかし、劉生はあの鎧武者の姿や自身の首が切られて感じた痛みを、鮮明に憶えていた。
思い返しただけで体が自然とガタガタ震えたものだ。
あれが夢だったとして──もう二度と同じ夢は見たくないものである。
怯えている劉生の姿を見て、父は心配するような顔になった。
「大丈夫か? 幸先の悪いスタートだな。……これも、姫野家の呪いって奴かもしれないな……」
父としては、何気ない言葉のつもりであったのだろう。
「そんなことはないよ。呪いなんてものが、ある訳がないじゃない」
しかし、姫野家のお屋敷で見掛けた美しい女生徒の姿を思い出した劉生は、父のその軽口を快く思わなかったものである。
「あぁ、そうだな」
息子に咎められ、父は笑い飛ばしたものだ。
劉生は俯いた。
──呪いなんてない。
そう言いつつも、劉生の中で『姫野家の呪い』というものが妙に引っ掛かっていたのも事実であった。
果たして、あの鎧武者は『姫野家』と関係があるのであろうか──。
劉生は遠い目をしながら鎧武者が居た場所を見詰めたのであった。
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