2-14 シャラとリッカ、念願のコラボ配信

そしてピッタリ時間通りに配信が始まった。


配信はシャラのチャンネル、画面にはふたりが並び、

シャラの声だけがまずは配信に載っている。


「おはようございます。

フェアリーテイル所属の

『白雪・シャラ・シャーロン』です。

今日は久しぶりのコラボだよ」


少しテンションの上がったシャラは

いつもどおりの挨拶をした。


「おはようございます」

「待ってた」

「リッカもよくぞ耐えた」

「てえてえ(先行入力」


八上から見てコメントも

なんだか浮足立ってるのを感じた。


それでも八上は

シャラに不都合な話題がでないか考えてしまい、

腰がムズムズする。


「ウッキウキの様子なので、

すぐに始めちゃおっか。


わたしと同じフェアリーテイル所属の

『親指・リッカ・チューリップ』ちゃんだよ」


「シャラちゃあああああああああああああああああああんんんんんんんんんん」


紹介で呼ばれたリッカは

打ち合わせのときと同じ声を上げた。


音の波形なんかを見たら

完全に一致しそうだと八上は思いつつ、

音量を調整する。


「うるせぇw」

「気持ちは分かる」

「挨拶しろよw」

「ただのファンですか?」

「鼓膜ないなった」

「音量注意」

「でかい声に平然としてられるシャラちゃんさすが」


リッカのでかい声とともに

コメントも盛り上がった。


普段はリッカの配信にいるひとたちもチラホラと見える。


「うんうん、わたしもコラボできて嬉しいよ」


対してシャラも打ち合わせと全く同じことを、

全く同じ口ぶりで言った。

リッカは泣き顔差分を正面に見せながら言う。


「あたし『親指・リッカ・チューリップ』は、

シャラちゃんとのコラボを心底心待ちにしていました!

よろしくお願いします!」


すでに涙声になっているリッカは

シャラやリスナーに挨拶をした。

リスナー側も言い反応をする。


「挨拶できてえらい」

「もう泣いてる」

「開始三分経ってないんだが」

「泣き顔差分の有効活用」

「こっちもこのコラボを待ってた」


「リッカちゃんも、みんなもありがとう。

いっぱいお話しようね」


「うん、話したいこといっぱいあるんだ。

あたしメジャーデビューしたし、

FPSゲームだってうまくなったし、

お化け屋敷に入れるようになったんだよ」


リッカの声がだんだんと元気になってきた。

シャラはリッカに興味を示すようにコクコクとうなずく。


「シャラの卒業前の雰囲気に戻っていくみたいだな」


八上は配信を見つめながら思ったことをつぶやいた。

コメントの雰囲気も違いがないのでなおさらそう思う。


「シャラちゃんも卒業してた間

……っていうと変だけど、なにかあった?」


さっそく答えづらそうな質問がリッカから来た。

リッカに悪気はまったくない。

それでも今のシャラにとっては

『存在しない』記憶について聞かれているも当然だ。


八上は動きをこらえるように腕を組んだ。


(今のシャラなら切り替えせる。信じるんだ)


「ん~っと、リンゴを喉に詰まらせて寝てたからなぁ」


下を向いてシャラはとぼけた声で答えた。

備えていた答えというより、

とっさに出た天然の答えに八上には感じられる。


「原作準拠回答」

「堂々とボケてくるな」

「原作ネタで返せるようになったのは変化だよ」

「夢の中で白雪姫の映画見てたんじゃない?」


「そいえばシャラちゃんって、

考え事するときいつも上を向いてたよね?

今は下を向いてたんだけど」


「やべ」

八上は思わず声を上げた。

先日自分も気がついたシャラの癖に、

リッカも気がついたようだ。


「こんなところ、俺くらいしか

気が付かないだろと思ってたが、甘かったな。

さすが、シャラガチ勢のひとりと言うべきか」


焦りを感じつつリッカの洞察力に感服している八上だが、

今はどうすることもできない。

指摘されたように、

下を向いて考えるシャラを見守るしかない。


「きっとリンゴが落ちたんだよ」

「えっ?」


リッカも思わぬ答えだったのかぽかんとした。

コメントもラグなのか、

リッカのように固まったのか分からないが、

流れが止まった。


そこにひとつのコメントが出る。

「ニュートンか」


「ああ。ニュートンはずっと月を見て考え続けてたけど、

リンゴが落ちるのを見て、地面を見て

引力に気がついたみたいなヤツか。


たしかにそのとき、

ニュートンの目線は下に行っただろう。

遠回しなのか高度なのか分からんボケだな……」


八上が考えをつぶやくのと同時に、

コメントでもそんな考察が流れてきた。


「よく思いついたな」

「すごいんだがすぐに分からんw」

「座布団一枚」

「どうしてその回答をカモ・モエギ主催の大喜利大会でできなかったんだ」


そんなコメントに加えて、

「座布団代」

「賢くなった代」

「リッカの勉強代」

のような投げ銭コメントも複数飛ぶ。


「ごめんね、分かりづらくて」


未だにぽかんと固まるリッカに、

シャラはウインクとともに謝った。

そこでハッとリッカも気がつく。


「シャラちゃんは賢くなったから、

下を見て考えるようになったんだね!

すごいすごい!」


パチパチパチと手を叩く音といっしょに

リッカはシャラを褒め称えた。


リッカの反応とコメントを見て、

シャラは照れくさそうに上目遣いになる。


「そ、そうかな。

わたしまたボケた返事をしちゃったかなって」


「そんなことないよ!

あたしの大好きなシャラちゃんの頭がよくなっちゃったら、

あたしもっと尊敬しちゃう!」


リッカは物音をたてながら

さらにシャラに称賛の言葉を浴びせた。


「惜しむらくはいいタイミングで

その回答がでなかったことだな」

「いい答えだったけど今じゃないしょ」

「大喜利大会でやってほしかったが、

リッカが喜んでるのでヨシ」

「リッカは騒がしいのに、シャラは静かだな。見習えよw」


コメントの方はリッカの代わりに

ツッコミを担当してくれた。

それを見て八上は体の力を抜いて、

背もたれに体をあずける。


シャラの普段の言動のせいか、

Vチューバー全体のコメントの傾向だからか、

コメントは大喜利じみた流れになった。

それを見て八上はソノミンの話を思い出す。


「変化を楽しんでいる……。

たしかにそうだな」


「それじゃ、みんなにもらった

お便りに答えながらお話していこうか。

今みたいに気の利いた答えを出せるか分からないけどね」


「ううん、どんな答えでもリッカは褒めちゃうからね」


「ありがとう、リッカちゃん」


シャラは自分が認められていることを

改めて感じたように、穏やかに笑った。

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