ー15ー


 はぁ……全くなによぉ。


 次はなんですかぁ?

 私さ、忙しいの! 何回も何回もこう、しつこいと怒りますよ!

 ぷんぷん!



 主婦的な気分の俺。さしずめ今相手しているワーム君は可愛い娘。


 俺が娘のワーム君とイカタコの触手で引っ張り合いっこをしていたら、部屋がいきなり真っ赤になった。





 時間を少しだけ、イカタコを倒しおっさんとズッ友解消後に戻してやろう。


 俺がムカ着火ファイヤーをして暴れた時だ。

 ん? その言葉はもう一世紀前の言葉だってェェ!?



 ……テメェみたいな、ガキはわからせないといけないようだなァ。



 誰をわからせるのか知らないが話を戻す。

 とりあえず、いきなりゴゴ、ゴゴゴ! って響いたんだよ。すぐに観葉植物ママに抱きついたがとんでもない速度の水の流れに巻き込まれた。多分、イカタコを入れていた場所の扉が全部開いたんだと思う。

 俺を含め全員が貯めた風呂水を抜いた時のように、排水溝へ吸い込まれるようにどっかへ流された。


 うがぁぁ! と叫ぶも虚しく、そのまま知らん部屋に到着。運良くみんなも同じところに集まった。


 とりあえずわんわんおーするがボインさんは来なかった。

 悲しいね。こんなに尽くしたのに俺はポイ捨てされたのかもしれない。


 しゅん、としたがいつまでもウジウジしてもしょうがない。尻尾がいつのまにかモグモグしていた触手を奪って時間潰しということさ。

 以上。



 へろー!



 尻尾が俺に抗議するが無視だ、無視。

 お前のものは俺の物。俺の物は俺の物だ!


 うーん。さっきから繰り返しアナウンスが魔力とか汚染とか言ってるけど、専門用語すぎてわけワカメ。なんか、ワカメが食いたくなってきたな。


 つうかさ、汚染の拡大ってどう考えてもやばい自体だよな?



 …………た、た、たすけてェェー!!



 ボインさんに聞こえるように喚けば、みんなも一緒に叫んでくれる。



 ガシャンガシャン、ガッッシャン。



 突然、全ての扉が開いた。

 もしかして誰か俺の嘆きの咆哮を聞いてくれた感じ?


 あざっす!!

 喜びの遠吠えもしときますね。



 わんわんおー!!



 ふぅ、こんぐらいでいいかな? くんくん。


 スーパー嗅覚を使い、人間がいるだろう場所を探す。


 ふ。いくら俺が超絶イケメンの人間だとしても、ヤバいやつらを引き連れ、どうして人が多い方を探しているのか疑問に思っただろう。



 簡単だぁァ!

 ボインさんを捕まえて、ボインボインするためだからだァァ!!



 まぁ嘘なんですけどね。

 単純に考えて、アナウンスから汚染うんぬんの警告音なってたら、みんな出口に向かうやん? そこから俺たちも逃げるって寸法さ。

 も、もしそこで襲われそうになったら……人間の俺だけでも逃げるよ。うん。




 ワーム君たちを連れて数分。

 ようやく、人間味を感じるメカメカしい機械が置かれてある通路にたどり着いた。


 ふ、ふぅむ。


 どこまでも続く通路は薄暗く、唯一赤色の光がチカチカしている。しかも、どこもかしこもボロボロになっていて、まるでホラーゲームに出てきそうな光景。


 ま、俺には地球外生命体のみんながいる!

 化け物が来てもやっつけてくれるだろう!



 てくてく。



 意外とSFチックな空間はワクワクするもんだ。


 開いているドアをひょっこり覗き、某勇者の様に部屋を荒らしていく。もちろん開いていないドアも片っ端に無理やり開けてめちゃくちゃにしてやったぜ。


 でも、なぁ……どの部屋を見ても、書類とかせいぜいが日常用品ぐらい。

 どうなってんだよ。


 金貨はどこだ、金貨は!

 ゴミしかねぇじやねぇかよォ!



 部屋を見るのに飽き、通路をトボトボ歩いていると、猪と猫を合わせた化け物が突進してきた。

 足は異常に短く、小枝ほど。胴体は猪のように分厚いが頭は猫。


 血の気多すぎじゃない?


 というか、その体にその細い足はおかしいやろ。

 どうやって支えてんねん。


 ついつい芸人みたいなコメントしたが、俺はいつでも攻撃できるように身構える。



 しゅ、しゅっ。



 来いや!

 ワンパンで沈めてやんよ!


「ぶぅわぁぁぁ!」


 ボクサーみたいに構えていたら、横からワーム君がブレスをぶっ放した。


 え、えぇ……?

 一瞬で真っ黒焦げじゃん。


 猪と猫を混ぜた化け物はこんがりを通り越し、大きな炭の塊に変化。

 ちょっとだけワーム君をジト目で見れば、キュイキュイ鳴いて俺に甘えてきた。



 んもぅぅ! 可愛い奴め!!



 わしゃわしゃ堪能してから再び進む。


 突然むわぁっ、とひん曲がりそうな匂いが漂ってきた。鼻をしかめながら近づけば、死体の山。

 見たこともない気持ち悪い化け物からファンタジーに出てきそうな魔獣。心躍るメカをつけているが真っ二つに千切れている人間。研究者っぽい白衣を着た人間の体の一部。


 全員に共通するのが、どこかが緑色に溶けていたり、紫色の液体を流している。


 う、うん。

 ファンタジー、機械、SFを大きく飛び越えて宇宙系かよ。


 流石に人間様の俺もドン引きする光景。


 回避したいが通路は一方通行。ねばねばしている上に蒸気を発している姿は明らかに体に悪影響を与える。

 触れたくないし、困っていると観葉植物さんと触手本が死体の山に突っ込んだ。


 へろー!


 パクパクと明らかにやっべぇ死体を次々に食べていく。


 ぱねぇ……あ!

 お前はダメだ! めっ、よ。めっ!


 俺の尻尾まで食べようとしたから死体を奪って触手本に投げつける。


 危ない危ない。尻尾は一応、俺の一部だ。

 あんなもん食ったら腹を下すに決まっている。


 突然、俺の愛くるしい耳がぱたぱた。



 むむ!? 人の声が聞こえたぞ!!



 助ければスムーズに外へ出る道を教えてくれるはず、そんなことを思いながら猛ダッシュした。






 ひ、ひぇぇ……


 到着すれば、推理物の小説に出てくる名探偵も真っ青になるスプラッタな殺人現場。

 地面だけじゃなく壁や天井までに飛びかかった赤やら青と紫色の体液。ある意味グラデーションになっているけど、気持ち悪い。


 とりあえずそんな中にポツンと騒いでいる一人の……幼…………女?



「のじゃー、痛いのじゃー!」



 素っ裸の上にどうみても大人用の白衣を纏った幼女がいた。周囲はべちゃべちゃなのに幼女の周囲だけ綺麗に掃除されたかのように何もなく、当の本人も真っ白な白衣を着ている。


 ぺろり。


 怪しい。凄まじく怪しい。ぷんぷん怪しい匂いがするぜ。

 名探偵と呼ばれた俺は一瞬でわかったね。

 どう考えても語尾がおかしい。声は可愛いが取ってつけた感が半端ない。


 不審者幼女もとい不審者のじゃロリを観察する。



「誰か助けてのじゃー! 助けてなのじゃー!」



 あ、怪しすぎるぜ。不審者のじゃロリさんよぉ。

 お前さん、いくらなんでも綺麗すぎる。


 辺りには人間の破片が飛び散っているのに一人だけ無傷。


 つうか、最初に痛いって言ってたけど、見る限りどこにも傷がないよな?

 血の匂いもしないし。


「の、のじゃー!! 歩けないのじゃー!! おぶって欲しいのじゃー!!」


 あ! 今ちょっと引きずったろ!

 気づいてるぞ!


「あ、あぁ〜、もうダメなのじゃ〜!」


 し、白々しい不審者のじゃロリだな。

 つうか明らかに俺に気づいてるだろ。いつまで気づかないふりしてんの?


 ……く、くんくん。


 君さ、ボインさんだよね。


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