ー11ー



「ピギィィィィ!!」



 燃えるクソ鳥を倒した後、アナウンスもなく火山地帯から叩き出されました。


 本当にあいつらはひどいやつらだ。

 まるで厄介者のように追い出す必要ないだろう。

 化け物どもは美味しいし、結構気に入っていたのになぁ。



「ピギィィィィ!!」



 はぁ……悲しい。

 もっと、たくさん釣って、持って帰って来ればよかった。



「ピギィィィィ!!」



 え、そっちじゃない?

 さっきからピギィピギィうるさいのは誰だって?

 触手本だよッ!!


 触手とトカゲの足が生えているのが見えるだろ!


 え? 違うって?

 触手本のやべぇ喚き声が鳴き声になってることだって?


 う"る"せ"ぇ"ェ"!! なんでもかんでも聞くな!!

 自分で確認しろ!!



 というのは冗談ですよ。テヘペロ。

 俺の憶測になりますが、説明させていただきますぅぅ。


 みなさんもご存知の通り触手本先輩は、触手を震わせ、本からよくわからないおどろおどろしい音を出していたのを覚えていますよね?

 触手本がやべぇ魔術だか魔法を発動して、燃えるクソ鳥を爆散させてから、絞め殺されている鳥の声になりました。終わり。

 以上!




 はい。みなさんが気になっているパーティー紹介に移ります!

 え? 話を逸らすなって?

 うるせぇ!!


 まずワーム君からイキマァァス!!!

 顔がさらに鳥っぽくなり、モフモフ度も更に上がって気持ちいいなりぃ。

 俺が顔を向けると、頭を傾けて可愛く鳴きます。

 ワーム君=可愛い=正義。つまり、ワーム君=正義ってことだ。

 ん? その定義はおかしいって? 


 うるせぇ! 触手本ぶつけんぞッ!



 続いて観葉植物さん。背中に大砲が生えました。

 お前だけなんかファンタジーから機械系のSFに進んでない? 大丈夫?

 このまま、人類憎いぃぃ! とか言って滅ぼそうとしない?



 ……最後に触手本。

 以前は二本の触手で本を支えていましたが、今は四本のトカゲの足でよく走り回っています。それだけではなく、触手も元気にウニョニョと蠢いている。

 それに加えて燃えるクソ鳥の二つの羽が、本の表紙から突き出るように飛び出て、絞め殺された鳥の声を思い出したかのように上げる。

 ちょいちょい火の粉が飛んできて鬱陶しい。けど、一応触手本が火力を抑えているのか、俺のキューティクルは燃えない。

 とりあえず放置だ。


 もうさぁ、俺にどうしろと? その火の粉抑えてって言って、会話が通じると思う?

 無理だろ? そういうことだ。


 チラッ。


 ワーム君が楽しそうに触手本と追いかけっこ。その後ろを観葉植物さんが大砲から種を発射して悪戯。

 もはや魔王軍じゃなくて、地球外生命体の集団だな。


 …………このパーティーで地上とかに行ったら、最優先目標として討伐されそう。



 ウィーン。



 あれ?

 ボインさんの労いの言葉もご褒美もないのに扉が開いたんだけど。

 スパーンが早過ぎやしませんかねぇ?

 こちとら、まともに休憩すらできてませんよ?



「ピギィィィィ!!」



 触手本先輩が意気揚々と扉に潜っていった。その後ろをワーム君と観葉植物さんもついていく。


 はぁ……しょうがねぇ。

 リーダーである人間の俺様がいなければあいつらは完全にバケモンだ。

 どっこらせい。


 おっさんみたいな声を上げてから、ドアへ向かった。




 ー主任ー

 採取チームは戻ってきた後も、うじうじ子供みたいに文句を言っていたが、さすがここへ配属されるだけあり、きちんと仕事はするようだ。まぁ、それもすでに物言わぬ骸になってしまったがね。子飼いの連中を使い、採取チームと火の鳥フェニックスに関わった全ての所員を始末させたからだ。

 そして私の目の前には幾重にも対魔染を施されたはずの火の鳥フェニックスの肉片と血液。かなり上等な器材を使っているのに、溢れ出ようとする魔因子と僅かに感じ取れる****。

 ここまで持ってきた子飼いたちは恐らく、というより必ず魔染生命体に変貌するが……まぁいい。いや、本当はよくないが、しょうがない。研究資金の大半をやつらに使ったが、今はなりふり構っていられない。やつらを一つの場所に止めるのではなく、適当な命令で分散させる。これなら変異後に多少は撹乱できるだろう。


 ちっ。外が騒がしい。


 まだ数時間も経っていないぞ。上層部はもう私の排除をするつもりか。備え付けの魔導機械を操作し、人狼がいる場所をいじる。すまないね、人狼。次はかなり凶悪な相手になるだろうが、頑張ってくれ。本当なら一度挨拶をするつもりだったが、今の状況ではそれも難しいようだ。

 

 ちょうど操作後が終わった瞬間、ダンッッ!! と乱暴にドアを破られた。


 呆れてしまう。生半可な魔染生命体ですら、そうそう破られないはずの開閉式のドアから人間の足が伸びているからだ。上層部はこんな面白い存在を私に隠していたのか? いや、単純に私が興味を抱けなかっただけだからかな?

 机に肘をついて笑顔を浮かべ彼らを見る。ゴテゴテの魔導機械を身につけているところから、鎮圧系統のチームだろう。

 ただの新人類程度だと思っていたが、彼らから私に向けられる魔力は凶悪そのもの。地上にいる魔人たちと遜色ない魔因子の脈動。


 ニタァ…………口が大きく三日月を描く。


 研究者として、こんな面白いやつらと対峙すれば笑顔になるのは当然だ。中に何が詰め込まれているのか、隅々まで解剖して確認したい。抑えきれない興奮に心臓がバクバクと動き、目をギョロギョロ回転させ観察する。


 すばやく全員が私へ魔導重力機械銃を向ける。


 ごく自然でスムーズな動き方。魔染生命体特有の凶暴性と残忍さを有しながらきちんと命令を全うできる思考能力。

 上層部は私に隠れ、人間と魔染生命体それに魔人に関しての研究を進めているようだ。褒めてやってもいいが、ため息を顔に吐きかけてやりたい。私にも声をかけてくれれば、更に弄くり回して強固な個体にしてやれるというのに……。

 あぁ、そうか。そういえば、ここへ飛ばされたのは、以前私が幼体の魔人を弄りすぎて、一つの街を壊滅させてしまい魔国から怒られたからだったかな? 少し記憶の混濁が見られる。体が拒否反応起こしているのか、右の肩辺りの筋肉が痙攣を起こしている。だが、思考の回転が異常に速いところを考えれば、意外と良い方向に進んでいるだろう。


「モニカ・R・ジェーン」


 鎮圧チームの一番最後に入ってきた人物が私の名前を呼んだ。顔を包帯でぐるぐる巻きにしている。

 おやおや、私がここへ来てから研究所にずっといなかったから忘れているのかな? 研究所に入る場合はきちんと対魔染の防護服を着ないといけないだろう。いくら新人類の血が流れているとは言え、ここには****の影響を受けた火の鳥フェニックスの一部があるのに。全く……バカだねぇェ。

 おっと、それは子飼いと私以外知らないことか。


「久しぶりだね、所長。一瞬、誰かわからなかったが声を聞いて、すぐに思い出したよ」

「…………」


 何やら所長から不機嫌な雰囲気を感じる。


 どうしたんだろうか? それとも私がここへやってきた二日目のことにまだ根に持っているのか?

 本当に勘弁してもらいたい。あれは所長がお披露目会といって、魔染生命体を自慢げに見せてきたからだろう。あれは完全に所長の自業自得だよ。私が悪戯心で魔染生命体を挑発したのは少しは悪いと思うが、きちんとコントロールできていなかった所長が悪い。暴れ回った魔染生命体に対して所長を囮にしたのも当然だろう? 私も命は惜しいからね。

 それで顔の半分を喰われたおかげで陰気な顔が見えなくなったんだから、むしろ感謝して欲しい。その後、研究所から逃げたのは本当に滑稽だ。今でも思い出せる。所長が私を罵倒するが、周りの所員たちが冷ややかな目で所長を見ていたのを覚えている。


「すでにわかっているだろ? モニカ・R・ジェーン。来てもらうぞ」

「所長。私はあなたとファーストネームを呼び合う仲ではなかったと思うが?」


 甘いな。周りの鎮圧チームはすでに気づいたのか、緊張し始めているぞ。やはりお前は上に立つ器ではない。御大層に会話をするなんて愚かとしか言えない。


「モニカ・R・ジェーン。お前の戯言に付き合ってる暇などない。俺にしでかしたこと、異空間古代遺跡エンシェントダンジョンの無断持ち出し、戦闘チームの派遣。諸々のことにより、上の人たちはお怒りだ。早く立てッッ!!」


 くっくっく……長々と並べたが、結局は私怨じゃないか。


いち研究所員の私に対し、わざわざ鎮圧チームも用意するのは……少々乱暴すぎるんじゃないかい? 私は魔染生命体や魔人じゃあないんだ。そこまでする必要はないだろう」


 私が少しでもくだらない会話に付き合い時間稼ぎをしていると、私の一番近くにいた鎮圧チームの一人がようやく我慢できなくなったようだ。それでも自制心が強いのか、わざわざ持っていた魔導重力機械銃を振りかぶって私の頭に狙う。



「パァァンッッ!!」



 殴打の音ではなく破裂音が部屋に鳴り響いた。一瞬にして鎮圧チームの全員が糸の切れたマネリオットのように倒れ伏す。


「き、貴様ッ……な、何だッ! その、その……醜い身体はぁぁッッ!!」


 尻餅ついた所長が千切れた右手を押さえながら喚く。


「ひどい言いようだね。私はこう見えてレディーだよ? まぁ、かつての人間たちでいえば、年齢的にはもう棺桶に入って骨になっている頃だがね。おっと、すまない。最近、少々思考がやたら回転するため、なんでもかんでも口に出してしまう。話を戻そう。これはね、私がここへ来てから色々実験して生み出した物を取り入れた結果だ。素晴らしいだろう? やはり人体実験するには自分に行うのが一番だ。体の不調や良し悪しはわざわざ聞く必要もなく、自分で理解できるからね」


 机から肘を離し、両手のひらを上に向けながら肩をすくめる。しかし体の左半身はかなり変異したせいか、右肩しか上がらなかった。

 少しだけ左半身を見れば、まるで魔染生命体のバーゲンセール。簡単に描写すれば、多種多様の生物をミキサーに入れて無理やり繋げたような形といえばいいかな? そんな感じだろう。


「一つのことへ病的に探求心を深めるのが研究者のさがだろう? 私はね、常々自身の体が最も実験に最適だと考えていたんだ。だから上層部は私をこんな地下深くに遠ざけたけど、無意味だったね。本当に遠ざけたければ処分すればいいのに、私という頭脳を手放したくないという矛盾。アホらしい。何度、殺され犯され喰われても人間というバカに付ける薬はないらしい。すまない、こんな見た目になっても私もきちんとした人間だ。もちろんさ。もし魔染生命体であれば、悠長に喋らず全員を喰らっているからね」


 いきなり大量の血液を失われたせいか、私から滲み出る魔のせいなのか、所長は口を震わせるだけ。


「最初はね。本当に少しずつ、少しずつ自身の身体へ投与していたんだ。けどね、あれと出会ったせいで私の歯止めがかからなくなった。あんな素晴らしい存在がいたら、私も同じになりたいと思うのが普通だ。かつての人間たちが狂気と熱狂により作り上げた究極の生命体、新人類。それの成れの果てともいえるβ-012。所長は知っているかな? 地上が人間の楽園だった時にあった神話の一つ、イカロスという人間を。太陽に愛、焦がれ、蝋の翼で太陽を求めとうとした無様な人間。さしずめ、私はそんなイカロスだよ」


 所長は大量の抗魔剤を含むが、包帯から滲む青白い血液。


「数ヶ月前から体の変異が顕著になってね。普段は人間の見た目に維持するため、多量の抗魔鎮痛剤や魔力変異剤など使ってたんだ。けど、興奮状態や命の危険に脅かされると、勝手に防衛反応として身体が暴れてしまう。先程、所長は醜いと言ったが、これは****に変異された人狼の…………」


 まだまだ話途中だったというのに所長はボンッと破裂した。魔染生命体になることは叶わなかったようだ、かわいそうに。

 所長は途中から魔病に犯された患者のように身体が膨張し始め、最後には破裂して周囲に汚らしい血液を振り撒いた。


 ついつい話し込んでしまったが、哀れな所長が鎮圧チームだけしか連れてこなくてよかったよ。私をみくびっていたのか、それとも私を捕まえて楽しむつもりだったのかな? 本当に人間というのはどこまでいっても愚かだ。

 だが、もし特殊チームや神秘の気狂いが来ていたら、さすがの私もギリギリだっただろう。

 神……いや魔の神……違うな。ふぅむ、ここは****に愛されているってことかな?



「ドォォォンッッ!!」



 私が席を立った瞬間、研究所に大きな振動と共に爆裂音が聞こえてきた。すぐさま、けたたましい警告音と機械アナウンス流れてくる。


「ピーピー! ピーピー! ス、ス、全ての者に告ぐ。現在、研究所デ急激な魔力の拡大が検知さレました。そ、ソ、それにより著しい魔力汚染が発生しており、リ、ります。所員並ビに職員一同ハ速、ミ、み、やかに退去くだ、ダ、ださ…………ザーーー」


 魔力炉に遊び心で魔染生命体を入れてみたが目論見通り、処理しきれなくなり壊れたか。所詮、滅びた魔国から人間が勝手に持ち出してきて改造した物だ。まだまだ、私たちにはそうそう扱えないようだね。


「さて、このまま研究所から脱出するのもいいがそれではつまらない」


 全ての魔染生命体と密かに連れてきた魔人たちでも解放するとしようか。彼らは復讐心という愚かな精神で暴れ回るのか? それともここから脱出をまず第一に考えるのか?

 一番良いのは殺し合いでもして、蠱毒のような形になり上位の存在ができれば最上だが、どう転ぶかはわからない。


「いやはやこういう時じゃないと実験できないことが多すぎるね」



 困った物だ。

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