ー6ー


「キュイキュイ!!」

「ギュイギュイ!!」


 ヘロー!


 現在、私はワーム君と観葉植物さんと尻尾の三……体? と戯れています。



 あはは〜、うふふ。



 うん? 観葉植物さんに捕食されかかっていたのに、なんで今は落ち着いてるだって?

 いえいえ、誤解です。あれは些細な言い合いだったんですよ。

                           

 現に今もワーム君と観葉植物さんが仲直りをして、俺の尻尾を取り合うように目の前で遊んでいます戦っています


 はぁ……


 目を離せばすぐに俺の尻尾へ、枝を伸ばし求愛行動さながらのことをする観葉植物さん。それをワーム君がムッとしたような雰囲気で嫉妬する。で、ワーム君が怒りの体当たりを観葉植物さんに向ける。

 観葉植物さんも観葉植物さんでワーム君を縛り付けるので困りもんです。



 もっと仲良くしてくれないかな……?



 ゴホンッ。

 気を取り直して。

 なんと! ついに!!

 部屋を新しく変えてもらえました!


 わぁーパチパチ。


 紹介しましょう!! デデン!!


 壁一面に赤いペンキがぶち撒けられています! いやぁー、どこかパンクチックな様相ですねぇ?

 ですが! 黒を基調としたグラデーションのお部屋なので落ち着いた雰囲気が実に素晴らしい。うんうん。

 部屋の隅には紫色の松明が置かれてあり、ふぅ〜! 少しいるだけでノスタルジー的な感覚を味わえます。


 次に中央に目を向けて見ましょう。

 お? どこか魔術結社のお部屋に入っちゃったのかな? と、思わせる大きな六芒星がでかでかと地面に描かれてあります。それを囲うように実にウキウキと楽しくなりそうな各種様々な用途に使えそうな実験器具に研究道具。

 そして高級そうな黒檀の本棚には全く見たことがない言語の本がずらぁぁぁ。


 ……う、うん。す、素晴らしい!! グレイトフルでビューティクル、実にパーーフェクトですね!

 いやぁー、私もついにプリティーな愛玩動物から黒魔術専門の研究者に回ったってことかな?



 って違うわ!

 俺はボインさんのボインボインをよこせっていったのに、なんでこんな今から邪神を召喚するような部屋に変わるんだよ!

 嫌がらせかよ!!!!



 何度目になるかわからない一人ツッコミ。そろそろ芸人になれそうだったが、あいにくテレビクルーはいない。芸人の道は諦めた。

 まぁ、プリプリしているが、ある意味文明的な器具や本は俺の胸を踊らせていた。


 チラッ。


 少しだけ近づいて実験器具を見れば、明らかに拘束具から拷問道具のメスとか凶器。しかも、なんか黒く変色したり血のような液体が付着している。


 ……ワーム君と観葉植物さんを解剖しろってか?


 続いて実験器具とかが置いてある机の上に大小様々な箱。試しに一番大きい箱を開けてみた。

 二十センチはあるだろうギザギザの歯だったり、何かの生物の目など化け物の体の一部。ドクンドクン動く拳大の心臓。


 ……そっと箱を閉じて見なかったことにした。


 う、うん。次は本棚に近づき、黒い皮で作られている高級そうな本を手に取って読み始める。


 ふむふむ、うんうん。

 ほぉーなるほど、えぇ! まじか!



 いや、なんだよこれ! どこの国の文字だよ! 全然わかんねぇよ!

 まったく見たことがない文字の羅列なんですけど……? 何? 俺異世界にでも来たの?


 ペラペラ捲っていると、突然むせ返る血の臭いがするページ。大きく下向きの五芒星が書いてあった。


 ……あ、悪魔とか呼ぶやつ? そ、そっと本棚に戻したらガタガタッと暴れ始め、黒いモヤが噴き出た。


 うわ! なにこれ、くっさっっっ!!


 悪臭に鼻がもげそうになり後退り。するとワーム君と観葉植物さんがいそいそと俺の傍へやってきた。

 本はというと、ひとりでに浮かび、くるくる回転したかと思えば、ぐわしゃっ!! って感じでゴツい腕。


 ひぇぇ、ガチモンやないか!! なんてもん俺の部屋に置いてるんだよ!

 危ない物は厳重に保管しとけや!!


 尻尾を丸めてびびっていると、腕が少しずつ本から出てこようとする。


 ご、ごくりっ……。


 ワーム君と観葉植物さんに抱きついて様子見。少しずつ本から男性の頭部らしき部位。


「がァァァァ!!!!」


 野太い声と共にいくつもの赤黒い触手が本から飛び出てきて、頭部と腕を引きこんでいった。呆然としている俺たちを他所に触手は器用に自分で本を閉じて本棚に戻った。

 

 じ、情報量多すぎで頭がパーンッしそう。


 混乱していると、ワーム君と観葉植物さん俺を不安そうに見つめてくる。


 あ、安心しろ、お前らのご主人様である俺がなんとかしてやる! と息巻いたが、俺の足は超絶ガクブル。ゴクゴクとナイアガラの滝さながらの唾を飲み込みながら本棚に近づく。


 ゆっくり引き抜けば、さっきまで表紙がちょっとカッコいい魔導書って感じから、筋肉隆々の男性が触手と特殊プレイしているような絵になっていた。


 ……う、うん。そっと戻した。

 俺は何も見ていないし、そんなプレイもご所望していない。本当だぞ! 俺は触手プレイなんて、求"め"て"い"な"い"!!!!


 ふぅ……しかしあれは何だったんだ? 

 いくら考えでも正解は出てこない。


 意味がわからない、だけしかわからない。

 何が意味がわからないのかも、わからない。


 そろそろ意味がわからないってこともよくわからなくなってきた。


 あ、頭が痛い。とりあえず吠えてこのストレスを発散しよう。

 吠えればなんとかなるってじっちゃんが言ってた。知らんけど。



 わんわんおー!

「キュッキュッオー!」

「ギュッギュッオー!」

 ヘロー!

『ギジィィギャガァァァァ!』



 俺が吠えれば、ワーム君と観葉植物さんも俺の真似をして鳴き声を上げた。



 ……あれ? なんか最後、声多くなかった?

 ていうか、なんだ今の! 絶対に鳴き声じゃないのが混じってたぞ!


 周囲を見渡すが、俺含め三体とプラス尻尾の蛇だけ。

 他は誰もいない。


 もう一度吠えようと口を大きく開き……フェイントをかけて、当たりをさっと見渡した。


「キュ?」

「ギュ?」

 ヘロー!


 尻尾の蛇は置いといて。

 ワーム君と観葉植物さんはすぐに俺が吠えていないのに気づき、首をコテンと傾けて見てくる。


『ギジュギャ?』


 本棚に収納されていた、さっきの本がカパカパ動いていた。


 お、お前かよ……


 嫌そうな顔で本に近づこうとすると、ボインさんの声。


「その本との交流も無事できたようだね。

それはとある場所のとある地下深くで入手したらしい。らしいというのは私が実際に手に入れたわけじゃないからね。

かなり厄介な代物だったようで、上層部は扱いに困り果てて私へ押しつけてきたんだよ。

随分だと思うだろ? しかも、その本からは常に致死量を上回る様々な化学物質を出すから困っているんだ。

それでちょうど君の身体は他の生物より大分強いみたいだから、私の権限で置いてみたんだ。


予想通り君には何の影響もなかったようで、安心したよ。


君も先ほど見たと思うが、本から飛び出した腕は太古の悪魔の腕との予想だ。

まぁ、触手がすぐに引き戻したの思うが、触手は封印の役割を施しているようで、腕が飛び出してこようとすると、すぐに捉え中へ引きずりこむ。だから安心してくれたまえ。

ただ、腕が出ている時は周囲十メートル程は急激な老いとでも言えばいいかな? まぁ、わかりやすくいえば、腐ってしまうから、気を付けてくれたまえ。


実際に悪魔が存在しているのか、存在していないのか。

生きているのか、死んでいるのか。

それとも、その本独自の捕食誘導であり誘引なのか。


それも、すでに君の支配下に置かれているようだし、当分は君に預けとくよ。

正直な話、私は太古の悪魔なんて眉唾物だと思っていたが、君を見ていると少しは信じてもいいかと考えているよ」



 は、話が長い。もっとわかりやすく三行にまとめてくれない?

 うーんと、うーんと……致死量? 封印? 悪魔? 老い? とか言ってた気がする。


 ……え!? な、なんでボインさんは笑いながら言ったんだ!?

 そ、そんな代物を俺の部屋にポンポン置かないでくれ! 俺の部屋はゴミ箱じゃねぇんだぞ!


「しかし、君にはますます驚かされるよ」


 抗議しようと思ったが、ボインさんのどこか関心した声と拍手した音が聞こえてきて、俺は耳を傾ける。


 だ、大事な話を聞き逃すかもしれないからね?



 パチパチパチッ。



「竜種であるワームとマンドレイクの亜種であるアルラウネを従わせるぐらいだ。私たちですら手に負えない悪魔の本すら支配下に置くとは。大層なことを言っていると思うが、実際に私たちが知り得たことが合っているかなんて確証はない。数百年、研究している身としても所詮はその程度。まだまだ研究途中だ。わからないことが多すぎる。全ては推測の上で成り立っている。悲しいが私たち人類は常に綱渡状態なんだ。まぁ、言い訳みたいになってしまっているが、私はこう見えてここの研究所では最も多くのことを知っているが、知らないことも多すぎる。はぁ……本当に困り物だよ」



 ほわぁっと? り、竜種? マ、マンドレイクの亜種?


 ワーム君に顔を向ければ、キュッ? って可愛らしく鳴いて頭を傾けた。


 うん。ワーム君は今日もモフモフで可愛い。


 続いて横にいる観葉植物さんを見る。

 ギュッ? ってワーム君を真似して鳴いた。


 か、可愛くない。



 視線を戻し本を凝視する。

 本を支配下云々って言った気がするけど、なんのこっちゃ。

 もしかして、一緒に吠えたらズッ友になったってこと?



 わけがわからないよぉ……



「今回はね。少し趣向を変えてみた。一回目は闘争。次は主従。今回は……そうだね、なんていうテーマにしようか? それは後で考えとくとしよう。次も頑張ってくれ。君は常に私を喜ばせてくれる」



 ウィーーン。



 暗闇へ続くドアが開いた。


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