ー5ー
「キュイキュイ!!」
ワーム君と遊んでるなう。
あれ? なうって死語だっけ……
どうでもいいことに頭を悩ませていると、ワーム君がこちらをつぶらな目で見てきた。ポイッ、とさっき拾ってきた枝を投げてやれば、ワーム君がキュイキュイ鳴きながら取りに行く。
その場で木の枝と遊ばず、ちゃんと持ってこられたら、頭を軽くなでて肉を与える。
まるでブリーダーのようなことをする俺。……もしかして俺の天職はブリーダーだった?
自然豊かな場所からワーム君を連れて帰ってみれば、太いミミズみたいな身体から、シュッっと細身になって羽毛が生えた。触ってみれば俺の……ま、前のモフモフ尻尾と同じ毛並みですごく気持ち良かった。
きっと、ワームと鳥は親戚だったってことだね。世界の真理を知ってしまった。
ヘロー!
あ! またワーム君が俺の尻尾と戯れ始めた。
やめなさい、ワーム君! 未だ俺を持ってしてもよくわかっていない一部なんだから!
「きゅいー……」
俺がメッするとワーム君が悲しそうな声を上げる。
そんなことをして、時間を潰していたら、またいつものアナウンス。
「いいデータが取れたよ。そちらのワームとも良好関係だね。ワームを研究していた所員たちも君の行動には卒倒していたよ。やはり、君の力によって変異したツノが関係するのかい? もしよければ他にもいくつかツノなどを渡すから変異させてもらってもいいかね? もちろん、それによっては報酬も弾むさ。後、その尻尾も……」
な、なんだってぇぇ?! 俺が投げたツノのせいだった?!
いやいや、そんなことはない。う、うん。俺にそんな力はありません。
後半、尻尾について何か言ったが、被せるように右から左に流す。
俺の尻尾が蛇になっているなんてそんなことあるわけないじゃないですか! 普通の人間なんですよ!!
人間に蛇みたいな尾が生えているわけないだろう、という話は置いといて。
ワーム君はアナウンスの声にビクッと震え、よちよちと俺の傍へやってきて、羽毛を逆立て威嚇を始めた。
「ふぅむ、君を守ろうとしているのかな? 健気だ。それに君を主と決めているようだね。もし、君がよければそのワームを
却下だ却下!
フンッ!
ふて腐れてボインさんがいるだろう場所から、顔を背けてると視界にチラチラ、なんか……黒い巨大な葉っぱ。
…………
ふぁ!?!?
俺は二度見どころではなく三度見してしまった。
な、なんじゃこりゃー!
誰だ! 俺の可愛い観葉植物をこんなグロテスクに!
部屋を出る前までは、緑色の葉っぱで健やかに茂っていた観葉植物は変色しておどろおどろしい姿。
…………もしかして俺が部屋出る直前に、食べ残った肉の塊を隠すように土にぶち込んだから?
い、いやそんなことはないだろう。俺のせいじゃない。絶対に違う。だ、誰が言っても信じないもんね!
現実逃避をしながら観葉植物を見る。葉っぱは黒く変色し、なんか生きているようにドクドク脈動。しかも細かった幹は今では俺の腕ほどの太さになっている。
これさぁ。どうやって植木鉢に入ってるの?
よくよく見れば、植木鉢が割れていて根っこが地面に貫通していた。
……俺が残した肉の破片ごときで、ここまで変化するわけがない。
う、うん。そうだ! きっとそうに違いない。俺がいない間にお前らが変なドーピングを与えたせいだ!!
許”さ”な”い”!!
「植物の方も君がいない間、かなり成長していてね。何人かの所員は無断に部屋に入り動かそうとしたり調べようとしたんだが、襲われた。しかも重体と来た。困ったものだよ。しかも、その植物の根も地下深くまで張っていてね、動かせないんだ。君の力でそれを小さく命令とかできないかい? さすがに床を貫通し研究所を壊されるとね…………色々不都合があるんだ。もし協力してくれれば、追加で好きなものを与えるよ」
えぇ……そんなこと言われましても。植物に「小さくなって(ニッコリ」と言ったら小さくなると思ってるんですかね。
俺のことを妖精だとでも思ってるの?
まぁ、俺のキューティクルな体毛は確かに美しいけどさ。
ふぁさっ。
ヘロー!
体毛を靡かせるつもりだったが、そんなに長くない。むしろ尻尾だけが動いて、観葉植物の方へ伸びていた。
何してんの?
ヘロー!
尻尾は勝手に動き、なんかちょろちょろ出ている舌はまるで観葉植物に挨拶をしているみたい。それがワーム君に黒い感情を植え付けたようで、キュイキュイ怒っている。
どうすればいいか困っていると、ワーム君がモゾモゾ動いて観葉植物へ怒りの突進。
「キュ、キュイキュイっっ!」
すぐさま観葉植物から伸びている蔦に捉えられ捕獲された。なんかエロ漫画に出てきそうな緊縛の仕方。
ワーム君はきゅいきゅい悲しそうな声でうるうると俺を見てくる。
え、何、この観葉植物。エロ植物に進化したの?
ていうか観葉植物ってそんな事できたん? さ、最近の観葉植物凄すぎない?
アホなことを考えているとワーム君が俺に助けを求め、再度キュイキュイ鳴いた。
うーん。なんか蔦の力もどんどん強くなってきている。
流石に愛着が出てきたワーム君を殺されるのはなぁ。
観葉植物に近づき、蔦を解こうとすると蔦が俺にまで伸びてきた。
ふぁっ?!
こいつ! 部屋のドンである俺まで食おうってか?!
ゆるさねぇ!
俺に取り付いた蔦を思いっきり掴み、次々に引きちぎっていく。
ついでに緊縛されM嬢みたいになっているワーム君も助けた。
そうして怒りのまま観葉植物が入っている植木鉢の縁を掴む。だが、予想以上に強く地面にへばりつき、頭の血管が千切れそうになる。
ぐがぁぁぁ!!
なんとか根性で持ち上げると、根っこがブチブチとグロテスクな音を出しながら千切れていく。すると、観葉植物の根っこから大量の黒い液体。
心底触れたくもなかったが、俺はそのままの勢いにまかせ壁に向けて観葉植物を投げ飛ばした。
ドンッ!!
植木鉢が壁に当たると粉々に割れ、観葉植物は剥き出しの状態で横に倒れた。
ふぅ、ふぅ……
キメラと戦った以上にしんどかった。
深く呼吸を繰り返していると、俺の尻尾が心配そうな顔を観葉植物に向ける。
観葉植物を見れば、いくつもの根っこを足のように使ってゆっくりと立ちあがる。そして、恐る恐るこちらへ近づいてきた。
…………もしかしてお前も、そういう感じですか?
この先の展開がわかっているが一応警戒。手が届く距離になると、観葉植物が体内から黒い木の実を取り出して、俺へ差し出した。
う、うん。
心底いらないんですが。
ヘロー!
嫌そうな顔していると、ワーム君がキュイキュイ鳴き俺の尻尾も俺を抗議するようにチロチロ。
はぁ……
ため息を吐いて木の実を取った。すると、すごい勢いで俺の尻尾は木の実を食べ、やってきたワーム君も一緒にパクパク。どちらもすごく美味しそうな表情で食べている。
なんかドッと疲れが押し寄せてきてその場に胡座をかいた。すると、観葉植物は自身の身体を徐々に変態させて、俺とワーム君を足して二で割ったような姿形になった。
きっしょ。
なんで、こう俺の周りにはまともな生物がいないんですかねぇ……
ー主任ー
以前より更に数十メートル以上の分厚さと抗魔染壁をふんだんに使い、
恐ろしいを超え、もはやおぞましいほどの魔染力だな。彼が壁に投げつけ、突き刺さった角から噴き出る魔は。
周囲をみれば、
耐魔が低いのか? ここに赴任してくるぐらいだろうから、少しは……いや、無駄に考えても答えが出るわけがない。替えは上に報告すればいくらでもやってくる。
死んだ愚か者どもは頭から消し、やってきた掃除屋に指示する。このまま捨てるのは勿体無いから、実験体たちの餌箱に放り込むように、と。
なんでもかんでも捨ててしまえば、いつかしっぺ返しがやってくるもの。研究なんてものは、金持ちたちの道楽に付き合いながらヘコヘコしなければならない。まさしく湯船の如く金を投入するため、いくらあっても足らない。
死人に口なし。いつまでも死体ごときにリソースを割くのは勿体無い。一旦、変異を始めた二人を見にいくとしよう。
壁から角を取り出すということで見物に向かう。到着すれば、私と同じような考えの所員は存外多く。まるで野次馬の集団。
……幾重にも抗魔水液を使い、魔染濃度が低下したとはいえ、
私がいないからと、勝手にそんなことをした部下を隔離室送り。書類を書き終えてからそいつがいる隔離室へ向かった。まだ数時間も経っていないのに、すでに身体中、高濃度魔染に犯された者特有の青い筋と爛れたような紫の斑点。
「ほぅ?」
通常、そこから更にセカンドステージへ移行するには一週間から二週間必要だというのに、膨張と縮小を繰り返し始めていた。
他の所員と雑談しながら眺めていると、サードステージ。魔染生命体への変貌が始まった。ここまで早いと、β-012の魔力は相当****に浸かっているな。
……五割ほどの所員を隔離室へ招待した。なんでも、すでに魔染生命体に変化した馬鹿者と一緒に悪巧みをしていた所員たちが密かに吐血を繰り返し、眼球が黒く濁り始めたそうだ。無関係の所員にも感染し始め、報告書通りなら一人の所員の機転により、パンデミックの拡大を防げたとのこと。惜しいという気持ちはあったが、それも研究がストップするよりはマシだ。
話を戻し、β-012の角に戻ろうか。
現状、角の扱いには困っている。かなり多くの所員を隔離室送りにしてしまい、上層部からネチネチと言われてしまった。
角に関して判明したことはごく僅か。角はβ-012である彼の性質を多分に含んでいるため、かなり高濃度の魔染が出ている。普通であれば抗魔水液によって少しは抑えられるはずだが、むしろ抗魔水液を魔染し魔水に変化させてしまった。いつもならすぐに気づいていたが、馬鹿者のせいもあり気づくのが遅くなってしまった。言い訳がましいが、あんな人間を二度と送ってくるな、と上層部に文句が言いたい。
次に角の要素といえるかわからないが、β-012から距離が離れると少しずつ魔染量も減っていく。感知能力でも備わっているのか、β-012が近づけば、元気を取り戻し周囲へ夥しい濃度の魔染を振り撒く。それが今一番の頭痛の種。
一部の所員が解剖をしてみたいと騒ぐが、却下だ。ただでさえ手はいくらあっても足りないと言うのに、これ以上入れ替えばっかしたら私は研究者から人事の人間になってしまう。
角を見れば小さく震えている。持ち主に帰りたいんだろう。なら、そのまま返してやろう。β-012なら確実に私たちが考える以上のことをしてくれる。そうすれば研究は更に飛躍するだろう。ま、ただ角を返すだけでは彼も無視する可能性がある。何かを工夫を凝らし、身につけられるようにするのがいいかもしれないな。
β-012を一部の上層部が嗅ぎつけてきた。しかし、それもまだ少し目新しい物という認識だろう。ま、私が情報を流したんだがね。完全に秘匿して私が拘束されるより、こちらから情報を噂程度に広めたほうが好都合。
「混合獣の次にワーム?」
「人狼に巨大な餌でも与えるつもりか?」
「本当に戦闘になるのか?」
新米の所員たちがそんなことを言っていた。頭が痛い。中途半端にβ-012を知っているからだろう、β-012を過大評価しすぎている気がする。なんでも決めつけるのは研究者としては愚かだ。
以前の古株たちならまだ楽しそうに議論していたが、そういうやつらはことごとく隔離室送りか餌になった。今、私がここでこいつらの認識を変えたとしても、すぐに死んでしまえば元の木阿弥。はぁ……部下を育てるのも大変だ。
ワームと言っても竜の一種。β-012だとしてもかなり傷を負うかもしれん。念の為手術室を用意する。上層部の意向には素直に従うが、だからといって何も手伝ってはいけないとは言われていない。
幾重にも厳重に保管庫されてある角を見れば、小刻みに震えている。さながら親鳥を待つ雛鳥。
安心しろ、すぐにお前の持ち主に帰らせてやる……
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