2年間のチェス

奈良 敦

2年間のチェス

 中学2年生の頃父親がノートパソコンを買い、その中にチェスのゲームが入っていた。

 幼稚園児のころに祖父から将棋を習ったため、駒の動かし方は知っていたがチェスは初めてだった。ただ、将棋に似ているということだけは知っていた。

 

 ノートパソコンのゲームでチェスをやってみたが、ルールもわからないため当然ながら負けた。その後、何度かチェスのゲームを行ったがすべて負けた。こんなものかと中学生だった俺はその後チェスをやらなくなった。

 

 転機が訪れたのは高校2年生の時。

 NHKでアメリカのチェスプレイヤーであるボビー・フィッシャーのドキュメンタリー番組を観た時だった。

 冷戦の時代にチェス大国だったソビエトのボリス・スパスキーを倒し、アメリカ人初の世界チャンピオンになった男だ。


 俺はこの番組を観て、もう一度チェスをやってみようと決めた。今回はしっかり駒の動かし方・戦い方を勉強することも決めた。

 書店で数少ないチェスの本を買い、通学中のバスの中・昼休み・帰宅中のバスの中と受験勉強そっちのけでチェスの本を読んだ。

 そのおかげか、俺はノートパソコンのチェスで勝てるようになってきた。

 その後、コンピューターではなく、人と対戦したいと思い福岡に住んでいた俺は福岡のチェスクラブを訪れた。


 50代・60代くらいの人たちが多く皆強い人たちばかりだった。一人だけ俺より1歳年下の高校生がいた。その高校生と対局したときは勝つことはできなかったが、引き分けに持ち込むことができた。それ以外はすべて負けてしまった。


 高校3年生になってもチェスをやっていた俺に母親が

 「受験勉強はしようと?さっきチェスの人から電話がかかってきて受験勉強したほうがいいんじゃないですかってきたよ」

 チェスクラブの会長が電話で俺のことを心配しているようだった。

 俺は高校3年の6月を最後にチェスをやらなくなった。高校2.3年生の2年間は受験に必要のないチェスばかりをやっていたが、そういう高校生活も悪くなかったと今でも思っている。チェスに情熱を捧げた2年間だった。


 チェスはルールが簡単でしかも奥深い。

 俺は今はチェスをやってないが、少しでも興味を持っている人がいたら是非勧めてみようと思う。

 それが楽しかった2年間のせめてものチェスに対する恩返しだと思うからだ。




         ---完---



 

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2年間のチェス 奈良 敦 @gm58plus

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