第14話 結成!ダークエンジェル
「うぅぅぅん。まだ7時前かよ……」
スマホを開いて時間を確認すると、昨日のしおりからのメールをまじまじと見る。
そうだ、俺もメール送ったほうがいいよな。おはよう……とか、そしたらしおり喜んじゃうかもしれないな。あれ、なんだか俺、おかしいこと考えてないか?
まるで初恋のように、興奮して中々寝付けず、今に至る。
え、俺が恋? いやいやいや、そんなことないだろ。ん、待てよ。これ、しおりにだけメール送ると、好きだとか思われてしまうのでは……。
5分くらいの葛藤の末、じっとしているとそのことばかり考えてしまうため、少し早いが学校に向かうことにした。恋愛経験のない俺は、それについて非常に耐性がないのだ。
こう考えると、ついに俺にも青春と言うものが訪れたのだろうか。俺には無縁と諦めていたそれが。少なからず、最近は学校を楽しめているしな。――自分比ではあるが。
下に降りると、居間の電気が消えているのを確認して中に入る。母さんと接触するのを恐れたからだ。会いたくもないし、会っても話すこともないから。ほんと、家族なのに、俺はいつまでこんな状態を続けるんだろう。
兄さんに線香をあげる。思えば、それも久しぶりである。
「ごめんな兄さん。行ってきます」
中々線香をあげられていなかったことを謝り、挨拶を終えると、テーブルの上にあるものが目についた。
弁当箱? 兄さんにお供えするものなのか、母さんがどこかへ出かけるのか、どっちにしても特に関心のないことだ。そしていつものように、玄関で500円を取って家を出る。
早朝ってさわやかだな。今日は時間もあるし、いつも通らない道でも使ってみるか。
最近は真理もしおりと待ち合わせて登校しているし、あおはるは
この辺りは、昔よく兄さんに連れてこられたな。
兄さんを思い出しながら自転車を漕いでいると、古びた商店街に来ていた。兄さんの買い物に付き合って来た記憶があるけど、いまいち思い出せないな。
ほとんどシャッターの閉まっている店舗ばかりだ。もちろん今が早朝というのもあるだろうが、それを差し引いても、どれも錆びついて動きそうにないように見える。
今、人が集まるのは郊外のショッピングモールだ。
まぁ日本中こんな感じだろうな。時代の流れというか。
そう考えながらも、心のどこかでは幼少期の思い出が消えていくような、なんだか寂しい気持ちがする。
「おはよう」
まるで
「おはよう、ございます……」
反射的ではあるが、声の主の老人にか細い声で挨拶を返し、その後ろの建物の看板を読む。
ただでさえ自転車で走っている中、中央の字は薄汚れて読めない。シャッターも閉まっているし。食器屋か何かにしても、すでに店を畳んで、悠々自適に過ごしている年寄りなんだろうと思った。
早起きは三文の徳と言うが、いつもとは違う不思議で、ノスタルジックな雰囲気を味わうことができたのは、悪い気がしなかった。
「え、何これ?」
昼休み、音楽室に入ると、机にパンフレットが置いてあるのに気付く。
第22回 東毛ジュニアアンサンブルコンクール
「みなの者、喜べ」
相変わらず横柄な態度で、あおはるが言う。
「まず説明しろし」
真理が最もなツッコミを入れる。あおはるはいつも説明が足りない。
「リカーニャよ」
「はい、ボス。みなさま、わたくしから説明させて頂きます」
それはまったく、ブラック企業の社長と、その優秀な秘書のような構図だ。ともかく、あおはるに促され夜野さんは説明を始める。
「――なるほど」
「へ~」
「すごい、私やってみたい」
どうやら来月末に地元開催で、高校生規模の音楽コンクールがあるらしく、その参加申請書を夜野さんが手配してくれたようだ。俺たちはその手際のよさに感心するとともに、その大会に心を惹かれた。
「そうであろう。お主ら、こうべを垂れて感謝するがよい」
「でもさ、あかりちゃんは楽器できるの?」
「あ、そういえば」
なにもしていないのに、自分の手柄のように、恩着せがましいあおはるは華麗にスルーし、真理の一言に俺も興味を抱く。
「こちらでございます」
夜野さんは、背中に回していた手をさっと前に出すと、俺たちに何かを見せた。
「まさか、それは……」
「かのエビルドラゴンを封印しました、『光のフルート』でございます」
驚愕するあおはるに、見事合わせる夜野さん。
この台詞を言うために、わざわざ背中に隠してスタンバっていたのを想像すると、
「すごいな、夜野さん」
「あかりちゃんびっくり、さすがぁ!」
「ちょっと待って!」
急に真理は、真剣な面持ちで声を出す。
「何事だ、マリー」
「このユニット名のところ……」
真理の言葉に、俺はエントリー用紙に目をやる。そこにはユニット名「ダークエンジェル」と書いてあった。
「おい、あおは――」
俺があおはるの名前を呼びかけると同時に、夜野さんが口を挟む。
「みなさま申し遅れました。登録するにあたり、ボスがどうしてもそこだけは譲れないとのこと。参加登録は、同好会会長であるボスしかできませんので、何卒その点ご理解願います」
「く……」
俺たちは社会にひしめくパワハラなるものを、一足先に体験したのだった。
「まぁ、いいじゃない。みんなで出れるなら」
しおりは明るく言う。しおりがそう言うなら俺は文句ない。
「そ、そうね。今回だけよ……」
真理もしぶしぶ納得する。
「でもこれで、次から5人で練習できるな」
ともあれ再び訪れた目標に、俺たちはテンションを上げる。
しかしこれが、次なる困難の幕開けになるとは、このときはまだ、誰も知らなかった。
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