山形新幹線
謎深き美少女から逃げるようにそば屋を後にした里香は、そのまま新幹線のホームへ向かうことにした。
まだ出発までは十分な時間があったが、少女から見つめられたせいか、どっと疲労感が出ていたので、ホームのベンチにでも座って休みたかった。
新幹線のエリアに向かう緑の改札を通り、中にあるキウスクでペットボトルの水を買った。大宮から赤湯までは二時間くらいあるらしいから、水分は念のために持っておきたかった。
「十七番ホームへは……あの奥のエスカレーターから行くのかな」
長いエスカレーターを上っていくと、縦に長大なホームが現れた。観光シーズンなのか旅行客が多いように思う。まあここには初めて来るんだけど。
十五番線はどっちかな?
しばらく歩いてみるが、よく分からない。そもそも里香は記憶している限り今まで新幹線に乗ったことがない。どこが自分の乗る号車なのかな?
ふと電光掲示板を見てみると『次発・山形新幹線・つばさ百四十一号』という情報と共に、十号車という表示があった。
「お、ここ見ればいいのか」
十四号車…十五号車…お、ここか。
幸いにも近くにベンチがあったので、そこに腰かけることにした。リュックサックを膝下に降ろし、先ほど買ったペットボトルの水を少し口に含んだ。
「ふう……」
ひょんなことから始まった山形旅。特に目的は決めていないけど、山形についたら何をしようか。山形の歴史について調べてみるのも面白いかもしれない。
……高校生って自由研究あったっけ……? まいっか、色々な物を見て学んで、見聞を広めるのも学生ならではだよね?
「まもなく……十七番線に……山形行つばさ百四十一号が参ります。危ないですので黄色い線の内側までお下がりください」
しばらくベンチでぼうっと休んでいると、自分の乗る電車のアナウンスが耳に届いてはっとする。もうそんな時間か。
ベンチから立ち上がり、再びリュックサックを背負う。
太陽に照らされて白く輝いた、銀色の新幹線は遠くの方からやってきた。
軽い蜃気楼の上に堂々と立ち、おもむろにこちらへ近づいてくるそれは、どこか威厳のある出で立ちだ。実際には相当なスピードが出ているはずだろうに。
新幹線は風のように颯爽と現れると、ゆっくり歩みを止めてホームへ停車した。
プシュゥゥという音は、頑丈そうな新幹線のドアが開いた音だった。
15号車に乗り込む数人の乗客たちの後ろに続いて、里香は新幹線に足を踏み入れた。
とても静かな車内だった。自分がいつも使っているJRの在来線なんか比べ物にならないほどだった。
ええと、私の席は……ここか
窓際の下にはコンセントがある。充電ができるみたいだ。外の景色を見るためにと思って窓際にしたけど、正解だったみたい。
里香はリュックを上の棚に置き、席に座った。
新幹線はぬるりと動き出す。少し体が浮くような嫌な感じがした。
まるでゆっくりジェットコースターが動き始めたみたいだ。これは少し苦手だぞ。
あと2時間……、どうにか無事でいてね、私の三半規管!
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