目的地へ向けて
あっという間に帰宅して荷物を置くと、すぐ少し大きめのリュックサックに二日分の荷物をまとめた。携帯を取り出して母親に電話する。
「あ、もしもしお母さん? わたしこれから一泊二日で旅行してくるね。ううん、お金は大丈夫。この前友達と一緒にアルバイトして貯めたお金があるから。……もうお母さん心配しすぎだって。そんな遠くには行かないよ。……えっ? どうせなら山形にって、なんで山形? あ~、そういえばお母さんの故郷だっけ。……お土産にずんだとゆべしって、なにそれ? わかったわかった。じゃあまた着いたら連絡するね」
これも運命なのか。我が子の心配より故郷の土産を欲する母親の言葉により、見切り発車で始まった冒険に突如として目的地が設定された。
特に行先も決めていなかったし、東北に行くのは生まれて初めてだけど、お母さんの故郷か…。いいね! 行ってみたいと思ってたし。
そうと決めたら潔く立ち上がり、リュックを背負って、再び最寄りの駅まで向かう。ここから山形まで行くにはどう行けばよいのか、交通アプリを携帯で開いて確認する。ふむふむ、ここからだと立川から大宮まで行って山形新幹線に乗ればいいのか。……山形新幹線なんてあるんだ。げ、片道一万円って……。さようならバイト代!
アプリをいじりながらそう考えていると、携帯の通知が鳴る。母親からだった。
「〈山形にいる里香のお祖母ちゃんね、快く泊まっていいって言ってたから、そこでお世話になりなさい。赤湯駅っていうところで降りて、フラワー長井線に乗り換えて、南長井駅ってところで降りてね。そこでお祖母ちゃんが待ってるみたいだから〉」
というありがたい母からのメッセージだった。
とんとん拍子に話が進んでいって、まるでこうなることが分かっていたみたいじゃないかとも思うが、お財布事情も心配であるから、その提案には潔く承諾した。
「わかった、ありがとう」と返答して、赤湯までの新幹線の切符を調べる。幸い新幹線の席が空いていたので、予約する。窓際が良いかな? 景色見られるし。
最寄り駅から移動し、立川へ再び降り立つ。すでにネットで大宮から赤湯までのチケットは買っているので、あとは駅を乗り継いで無事に大宮へ行き、新幹線に乗るだけ。……無事に大宮までたどり着けるかな?
里香のフットワークは比較的軽いほうだが、それでも遊び歩くのは近所か立川周辺、新宿、原宿などといった、所謂都会のほうで、大宮にまで足を運んだことは今までになかった。
ってか大宮って、東京? 教えてGoogle先生!
埼玉です。携帯から放たれたAIの声は、どこか辛辣だった。
JR中央・青梅線快速に乗りこみ、西国分寺駅へ。ホームに降りて武蔵野線に乗り換えるべく歩みを進める。
あれ、武蔵野線ってどこだ? 全部オレンジ帯で中央線みたい……。とりあえず、目の前にあるエスカレーターを上ってみる。武蔵野線って書いてあるし。
ここは、どこだ??
携帯を取り出して確認する。武蔵野線、東京行き、四番線乗車……と。あれ、ここは三番線じゃないか! ここから四番線に行くにはどうしたらいいんだ?
辺りをキョロキョロ見回すが、通路らしき通路はない。ただ分かるのは、今いるところが三番線で、向かいのホームが四番線ということ。
では向かいのホームへ行く通路はどこにあるのかな?
もう一度エスカレーターを下り、もとのホームへ戻る。もしかしたらホームから反対側のホームに行く別のエスカレーターがあるかもしれない。少し歩くとまた別のエスカレーターがあった。これだ! エスカレーターに乗って上にたどり着くと、すぐに四番線という案内を確認する。
その先は大きな横幅の階段があり、下からでも四番線のホームが確認できた。いやどういう構造しとるんじゃあこの駅は!
なんだかんだで四番線へたどり着いた里香は、手で少し隙間を開けるようにリュックを持ち上げて背中との間に空間を作った。丁度よく電車が訪れ、風が背中の汗を乾かすのに力を貸してくれた。
「ふう」
交通アプリがあって助かった。アプリも携帯もない時代だったら、自分は迷子になっていただろう。おかげで夏の暑さもだいぶ和らいだように感じる。
武蔵野線に揺られることおよそ三十分ほどで南浦和に着いた。ここでJR京浜東北・根岸線に乗り換える。
十分ほど揺られてようやくホームに降り立ち、伸びをする。京浜東北の旅は短く感じ、あっという間に大宮に到着した。
南浦和までは電車が混んでいて立ちっぱなしだったのが、京浜東北では座れたから、その違いだろうか。
ぐぅとお腹が鳴る。思えば午前授業だったし、朝ご飯もパンくらいで、最後に口にしたのはあのオレンジのアイスだった。
「何か食べようかな?」
大宮駅は訪れたことなかったけれど、この辺で美味しい店はあるかな?
里香は辺りを散策することにした。東京や上野ほどは広くないけれど、JRの内装はどこも似たような感じなんだなと思ってしまう。駅中にはルミネもエキュートもあるし、立川と似たような感じかもしれない。
「…駅の外に出てみようかな」
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