第二十二筆:私達はこの戦力で迎え撃つのである!

 ヘンリーの知りうる能力の追加説明が続いていた。

 未来視。被験ナンバー十、女性。自分の死が瞬時に視える。そのため、事前に死を回避することが可能。死ぬことを恐れ続けていたことが発現の要因になったとされている。

 コピー。被験ナンバー六、男性。手にした無機物を無尽蔵に増やし続けることが出来る。増やしたものは本人の意思で消失させることも可能。本物と何も変わらない再現度を誇る。寒空の下を過ごしたという苦しみが発現の要因になったとされている。

 怪力。被験ナンバー四、男性。ここに記されている彼の場合は六本腕。ここまで、ナンバーと能力数が一致していない原因はこの、同じ能力者が複数存在するということである。孤児というカテゴリー上似たような状況に置かれていることが多いためと推測されている。そこで、説明上は一番最初に発現された能力のナンバーの紹介になっていた。加えて、この怪力のカテゴリーはより細分化し、様々な身体的特徴を産んでいた。しかし、どれも発現の要因には共通項が見られた。虐待に対する力での復讐を望んだことがあるという点である。

 転移。被験ナンバー二、男性。本人の知りうる場所へ自身を瞬時に移動させることができる。ここへはないどこかに逃げたいという思いが発現の要因になったとされる。他にも盗みたいなどの思いから認識している場所にある物を対象に移動させるというパターンも確認されている。

 成りすまし。被験ナンバー一、女性。新人類第一号とされていて同時にこの中で最も厄介な能力とされている。対象としたい相手のDNAを取り込むと容姿はもちろん、その身体的特性まで全てを再現できる。DNAをストックできる数は三つまでと現時点では確認できている。ただし、記憶などまで再現されているのかは不確かであるとしか表現のしようがなかった。誰かに対する強いあこがれを抱くほどに自身を惨めだと思っていたことが発現の要因とされている。しかし、よほど強いトラウマないしコンプレックスが要求されるのか、ヘンリーたちの手を離れるまでの実験の間、成功例はこの成りすましの一件だけだっただけに、昨今の急激な増加には目を見張るものもあった。

 それも全て黒い粉が持ち込まれての話ではあるのだが。


「ほう」

「いいねぇ」


 ヘンリーの話を聞いて臆するものは瑛を除いて誰も存在しなかった。新人類というものがどうであったとしても戦う覚悟はとうにできているからだ。だからこそ、真剣にヘンリーの話を聞きながら作戦を練るように顔を神妙にするのは当たり前のことだった。しかし、そんな状況下で明らかに場違いな声が聞こえたのだ。

 一人は央聖。しかし、央聖の感心の示し方にはヘンリーを含めて誰もが理解できるものであった。パーチャサブルピースの利益につながる能力があり、手に入れたいという欲望からくるものだと。特にコピーと転移をパーチャサブルピースが手に入れれば、武器売買という市場を國本財閥が手中に収めるのは時間の問題となるだろう。故に、厄介この上ないが対策をうつ事はできる。現に、央聖の首は先程のヘンリーとの口約束ではあるが、信頼にかけてある程度守らなければイギリスの名に置いて飛ばすことが出来るのだから。そして、ヘンリーでもそのぐらいは容易く出来る上で交渉のテーブルがいつの日か設けられ、優位にことが運べるのは、予想ができることだった。だからこそ、何の利益も生まず、本人に戦力以外の価値はないが、誰の下にもついていない人間が発した言葉にはヘンリーにとってゾクリとくるものがあった。

 残る一人、純である。何がいいのかヘンリーには見当もつかない。故に、ヘンリーを含めて誰もが純という人間の言葉の真意を最悪な事だと想像する。だが、確認をすることは出来ない。

 もし、その通りならば、口に出してしまった途端確実に現実のものになってしまうからだ。


「新しい能力、または細分化や強化といった可能性がある中、あなたたちには全力で戦ってもらうわ。何か質問はあるかしら?」


 静寂。


「それじゃぁ、各々行動に移って頂戴。もう、あなたたちは戦闘の渦中にいるのだから」


 こうして多くの組織を巻き込んだ大規模な鎮圧、否殲滅作戦が実行されることとなったのだ。


◇◆◇◆


「だ、そうだ。理解出来たか、諸君」


 このためだけに旧王立海軍大学近くの土地を買い取り、パーチャサブルピースの支店という名の居城を築いた央聖は、そこから動くことなく先程の会議を音声のみで、ソフィーを通して参加していた。そして、部屋にいた三人の部下に今回の作戦の内容を確認する。彼らは央聖の、パーチャサブルピース所属の傭兵で今回貸し出すと宣言した三十人の内の三人で、それぞれが部隊長として機能する予定である。

 そう、央聖は予め新人類殲滅戦を予測できていたためそれに適した部下をイギリスに連れ込んでおり、特にキーとなる三人は会議に同席させていたのだ。


「もちろんだ、旦那。黒い粉ってやつかサンプルを持ち帰ればいいんだろう?」

「どっちも、よ。最初からハードル下げてどうするのよ」

「皆殺しぃ、証拠隠滅ぅ、世界が平和ぁ」


 ボディビルダーのような筋肉を隆起させたスキンヘッドの黒人男性がブーメランパンツ一枚で央聖を旦那と呼ぶ。その男に強気な姿勢を見せつけるのは、見た目が全く正反対の華奢で透き通る肌で髪を靡かせる厚着の女性だった。

 そして、恐ろしい単語を並べつつもあどけなさを感じさせる語尾の少女がセリフを締めくくる。


「よろしい。利益のない平和の建設に意味はない。それだけわかっていれば結構だ」


 央聖は三人の返答に満足する。


「では、これから私の大嫌いな損害を被る。しかし、これを超えた先の利益は非情に大きいだろう。ラクランズは百体残しておけば構わない。だから」


 央聖がセリフを言い終える前に、部屋の壁が破壊されるような音がする。恐らく、実際に外側から壁が吹き飛ばされた音なのだろう。

 きっと、協力するために話し合いをしたいから居場所を教えて欲しいとヘンリーに頼んだか、純の差金だろうと思いつつ迫りくる標的を目と鼻の先にセリフの続きを喋る。


「反りの合わない息子を行動不能にしろ。侮るな、三人で確実に、殺す気でだ」

「了解」


 ドンッという二回目の壁を壊した音と共に、巻き上がる粉塵に紛れて襲撃者、紘和が予想通り現れたのだ。大型ショッピングモールぐらいの大きさの建物の六階相当のこの部屋へいかにして外から昇ってきたのか。ましてや、ついさっきまでいた地下会議室からここまで着くのに数分とかかっていない登場にその場の誰もが驚いてはいなかった。

 それが出来る人間だという共通認識は、パーチャサブルピース側にはあったのだ。


「会いたかったぞ、クソ親父」

「こっちは利益にならないお前になんて会いたくはなかった。が、今回は総力戦だ。お前が仮にも新人類に敵対する立場なら都合がいい。だから、殺しはしない。それにお前、今は蝋翼物を使わないことにしているそうじゃないか? いい機会だな」


 紳士的だった央聖の顔が、徐々に目を血走らせながら口角を少し上げていく。

 そしていかにも悪党といった笑みを紘和に語り続ける。


「うちの商品なめんなよ、クソガキが」


 そして、今までの口調からは程遠い、怨恨に満ちた肉声が央聖の口から飛び出した。ここに親子を見てしまうのは互いに皮肉な話である。

 そして、央聖の表情はスッキリしたのかすでに平時の顔になっており、紘和のことなどもう見ていないといったように早足で部屋を後にしようとしていた。


「逃がすか」


 紘和の目には央聖しか映っていない。

 そして、紘和の跳躍で床が軋む音がするのと激しい衝突音がするのはほぼ同時だった。


「邪魔するなら殺すぞ」


 紘和からすれば全くの部外者故、無視を決め込むつもりだった。しかし、全力の突進を三人がかりとは言え、止められたことに少なからず驚かされていた。

 だからこそ、脅すという選択をしたのだ。


「全力の八角柱や蝋翼物所持者と戦ってみたいと思ってはいたが、どうやら俺はまだまだ力不足のようだ」


 紘和の正面から腰に抱きついてきた男が息を荒くしながら、自分の実力を嘆いた。そんな男の背中を押して力を貸している女性が一人。しかし、一秒と時間が経過するごとにジリジリと紘和の身体が二人の身体を押し返す。勢いをつけて止めに入ることと、その場で踏ん張るのとでは同じ動きを止める動作であっても、紘和にとっては単純な力量差を示すだけであった。だが、そんな人間でも重心がズレてしまえばなんとかなるというのが、三人の考えだった。

 だから、あどけなさの残る少女がいつの間にか入っていた紘和の死角から脇腹に掌打を叩き込んだ。


「マジかよ」


 男のあげた驚きの声は当然だった。少女から放たれたとは思えない掌打が紘和の脇に鈍い音を奏でたはずだった。それでも顔色一つ変えずに紘和は前進を続けていたのだ。その光景は、三人の今までの積み重ねてきた努力に傷をつけるのには十分すぎたのだ。


◇◆◇◆


「今回用意した私の傭兵は彼ら三人を筆頭に部隊編成された三十人です。黒人の彼はマーキス・ホメイニー。紛争地域を中心に傭兵業を営んでいた男です。銃火器を用いたゲリラ戦を得意としていますが、あのようにタイマンでも紘和の突進に耐えうる強靭さも持ち合わせています。後ろの彼女はミルドレッド・ノールズ。アメリカでフリーランスの暗殺をしてました。女性特有の武器はなく、あのように鍛え抜かれた力と、習得した武芸で今現在まで我が社で活躍しています。最後に、カレン。彼女はアメリカのスラム街で拾った孤児です。もう成人はしていますが、一番の武器はその先天的身体的特性であり、紘和と同じミオスタチン関連筋肉肥大を患ってます。残念な点があるとすれば、身長に伸び悩んだというところですが、そこはヘンリーさんと同じギャップという利点になってます」

「デブが早くて何が悪いのよ」


 紘和と対峙する三人が見える場所でヘンリーとタチアナに商品価値をプレゼンする央聖とそれをつまらなそうに眺める純がいた。


「いえ、魅力的な武器だと言ったまでです。次の商品はラクランズです。これは、あのラクラン・ロビンソンが生み出した三大兵器の一つ。アンドロイドならではの演算処理による最適解を瞬時に、人間を超越した鋼鉄の肉体で実行します。まさに夢にまで見た機械兵です」

「ラクランズにさ、俺たちを襲わせたらどうなると思う?」

「それは、ラクランズの性能評価をする上でアレでは力不足、という意味ですか?」


 央聖がこの場に純を同席させたのにはもちろん理由がある。紘和の友人ということ以外は何も知らなかったが、純から悪意のようなものが漂っていたからだ。故に、兵器を売買する上で大切な顧客になる可能性があると考えたのだ。他にも暴走する紘和を止める最後の手段、人質という意味もあった。とはいえ、央聖も人質程度で紘和が止まるとは思っていないためタチアナもこの場に誘っていたのだ。ロシアとは得意様の関係であるからだ。

 そう、武芸を嗜んでいない央聖にとっては純よりもタチアナのほうが戦力として数えられると判断いていたのだ。


「別に紘和をどうこうできたとて俺の評価は変わらないよ。どっちかというと、好奇心。機械が出す最適解ってやつに興味があるんだ。俺を襲わせてくれたら何体か紘和に買わせてもいいよ」

「では、お客様に死なれては困りますが、アレとの戦いが終わったら何体かコチラに向かわせるでよろしいですか」

「それでいいよ」


 央聖は純という男が知った当初から胡散臭さで好きではなかった。それでも、この局面で見た時、純とは良きビジネスパートナーになれると思ったのだ。ビジネスに必要なのは感情ではないのだから。


◇◆◇◆


「正義の邪魔は悪でしかない」


 先程とは違いボソボソっとまるで自分に暗示でもかけるようにつぶやかれた紘和のセリフに三人は同時に距離をとり、各々が得意とする得物を手にした。殺さず、殺す気で。矛盾を感じなくもない使令が現実味を帯びる瞬間だった。そう、殺す気でやらなければ何かをする前に自分が死んでしまうのだと理解したのだ。決して油断していたわけではない。

 ただこういった類の人間と対峙する機会が、経験がなかっただけなのだ。


「それじゃぁ、数に頼らせていただきますよっと」


 先程の央聖の話によれば、今回、紘和は蝋翼物を使わないらしい。つまり、今手にしている切れ味などなさそうな木刀が紘和の武器ということになる。それでいて、この存在感。だからこそ個々で及ばないなら数で立ち向かう、それも人間とは違い消耗品である、機械兵を用いてとなったわけだ。もちろん、ラクランズのデモンストレーションを対紘和で当初から予定していたので準備は万全であった。

 マーキスの号令に合わせて配備していた階下のラクランズ手が無数に床を突き破り飛び出してくる。しかし、紘和はそれを床と接した音で判断していたのか、腕が飛び出す前からすでにジャンプをする予備動作を開始していた。それでも数を撃てば当たるように腕の一本が宙へ逃げ切れていなかった紘和の右足を捕らえることに成功する。浮ききる直前、その腕からすれば間に合ったと言えるだろう。だが、紘和からしても足が床の一部に触れているということは力の向きを変えられるということでもあった。加えて引きずり降ろされようとしているのだ。足の裏が全体的に再び着地するかどうか、つま先だけで身体を床に引き寄せ、再び勢いをつけてもう一度跳躍し直したのだ。そして、床から力任せに引っこ抜いたものに紘和は驚く。人間に似た見るからに銃火器を多数装備した機械兵が引き抜かれたからではない。足を掴まれた時も、紘和は下から人間に掴まれたと錯覚していた。

 だからこそ、崩れ行く床の向こうに同じ顔が口をぱっくり開きながら銃口を覗かせていた、その人間ではなかったという点に驚かされたのだ。


「撃て」


 徒党を組んでも消耗品である利点が今の紘和に発揮されようとした。いつもならここで【最果ての無剣】に頼り即座に決着をつけていただろう。それが、最も効率よく戦いに終止符が打てる紘和の持つ手段だったからだ。しかし、紘和は前回の戦いから戦闘における自身の技術が戦場において遥かに経験不足であることを痛感していた。だからこそ、純の口車に乗り、この快刀・奇剣を手にしてイギリスでの武者修行を始めるに至ったのだ。

 しかし、紘和は先も言った通り、神がかった技術が経験上積めていない。それは、この局面における正解を経験から導き出すのは困難であるということになる。だから、紘和は自分で導いた行動が正しかったのか、行き当たりばったりを繰り返すしか今はないのである。そのための修行である。故に、自身が持つ類まれなる身体能力をまずは全面に使いそれがどう対策されるのか知ることを一つの目的としていた。それは同時に実践戦闘に於いて無型とも言えるまっさらな自分に選択肢を、正解への道筋を増やす方法を見つけるために行っていることになる。ただ、このアンドロイド戦では紘和の意気込み虚しく、業を磨くには低次元であり、才能だけでどうにかできてしまうというのが不幸な点ではあるのだが。なにせ、アンドロイドは学習してこそ真価を発揮するものだからだ。

 見えない引き金ではなく、銃声が響くという当たり前のことが起こるために必要な空気の圧力の変化、筋繊維の密度が常人とは異なるために、経験者がなんとなく火薬の臭いがした、銃声の発泡の子音が聞こえた、引き金が、銃弾が視えたとは違い、紘和はその振動を肌で元より感じ取れている。だから、次に起こることにためらいなく反射のように身体を動かすことができる。眼にするよりも早く、それを体現するように紘和は状況を理解して、足にしがみついて釣り上げたアンドロイドの右脚を引きちぎると足の踏み場も殆どない残った床の足場とラクランズの手を踊る様にかわしつつ、引きちぎった右脚を自分の進行方向に投げる。そして驚くべくことにそれを重力を無視したような、足場にして一瞬で射程外へと後退してしまったのだ。結果銃声が響くより前に紘和の回避は終わっていた。

 銃声が虚しく響き、敵を見失った弾丸が天井を蜂の巣にしたのだ。


「マジかよ」


 理論上、足場があるのならば空中での方向転換は可能だろう。しかし、鋼鉄で出来たアンドロイドとはいえ、その脚一本を足がかりに自身を弾かせることが果たして可能なのかと考えた時、その領域はマーキスを始め、その場にいるほとんど人間に到達を許さないまさに業であった。しかし、そんな紘和の行動に魅入った傭兵三人を尻目にラクランズは動き続けていた。壊されたラクランズを気に留めることもなく下から昇ってきたラクランズが紘和に襲いかかったのだ。迷彩服を来たマネキンのような存在が身体を様々に変形させる。

 人からは到底聞こえてはいけない可変動音をガチガチと絶え間なく響かせながら迫る。


「クソが」


 普通ならそんな機械の未知なる大群に臆することだろう。だが、そんな最適解を出すラクランズが紘和から出たその言葉に一瞬だけ動きを止めた。音がピタッと止み、まるで静止画のようにな時間が訪れたのだ。

 それは止まることを最適解と選んだということである


「標的を、排除する」


 全てのラクランズが同時にそれだけ言うと再び動き出した。命令を実行するために、最適解を捻出しようとしながらだ。


◇◆◇◆


 服を軽く汚し、かすり傷が目立つ紘和は最後の立ち向かってきたラクランズの頭を握り潰すと悠然と央聖が向かった先へ足を進めた。倒せる可能性があったからこそ、ラクランズは最後の一体になっても特攻を仕掛けた。しかし、その最適解は数ある最適解でないものの中の最適解でしかなかったのだ。今あるデータの中で紘和を倒そうとした時、それこそ誰か一体でも人間を相手にしているならば心臓か頭をひとつきすれば勝てるという初歩的な考えのもと、すがるような感覚で実行した行為だったのである。しかし、そんな結果に喜ぶ者もいた。

 央聖だ。


「初戦、データがほぼない状況でも、少ない勝ち筋を模索しながら成長し、蝋翼物を所有できるレベルの人間を百体で三十分足止め。ただの兵士よりも十分な成果だと思いませんか?」

「ラクランズ、ねぇ」


 央聖の評価は実に宣伝としては効果的であった。消耗品とは言え人間か否かでは天秤の傾きが違う。加えて、一から兵士を教育するよりも明らかに効率が良かった。しかもこれにまだ成長という先があるのである。何より、蝋翼物抜きでも強い人間より強い人間が何人いるかという話である。この戦力が今までの、そしてこれからの戦争、戦闘における評価基準を変えると宣伝するには充分すぎるデモンストレーションだった。

 一方、ヘンリーからすれば同じ八角柱のラクランが開発したものを使うということに抵抗があった。恩を売られた気がするという感情よりもラクランという男を知る故の不気味さからくる抵抗感だった。しかし、それを押しても、手にしたいという思いが少なからずヘンリーに芽生え始めていたのも事実だった。

 そう思えるほどには、価値のある光景であり、それは央聖の狙い通りだったとも言える。


「幾瀧と一緒で、一体だけアタシにもよこしてちょうだい」

「そうおっしゃると思って、すでに用意しております。ラクランズ、二人を攻撃しろ」


 その言葉の意味が、ヘンリーや純へ落とす影となって現れる。二人とも少し後ずさりし、その落下物をかわす。着地と同時に巻き起こる砂煙と陥没する足元から、跳躍した距離よりもその質量の密度に注目が行く。見た目が人間で稼働も自在、それで常人とは比にならないであろう重さがあるのである。単純な物理攻撃でも確実に一般人を凌駕するだろう。そして、砂煙の中から四体のラクランズが姿を現す。

 ラクランズは戦闘態勢を維持したまま動かない。


「それじゃぁ、アタシは左の子をもらうわね」

「どうぞ」


 それだけを純に伝えるとヘンリーがその場から姿を消す。この表現が嘘だと思うぐらいあの巨体が物音を立てずにヘンリーから向かって一番にいた左の一体のみぞおちまで移動した上で膝蹴りを決めていたのだ。純から見れば、これが紘和に足りない技術ということになる。そして、ヘンリーが持ち合わせない才能でもあった。

 今までを通して分かる通り、紘和はすべての行動が力技であり、その不出来を【最果ての無剣】で補っていた。故に持ちうる才を開花させ、業が伴った相手には接戦を強いられていた。問題は強いられるだけで、全てを才能で賄えていた、明確な敗北を経験したことがない点にあった。だが、その欠点に気づく機会が前回にあった。それこそが分身を用いた時だった。様々な相手に対してあと一歩が足りないという現状が、兼朝を、陸を取り逃がしたことが印象に残ったのだ。故に力を無駄なく使う手段を身に着けて欲しいという思いを込めて純は今回の戦場を用意した。だが、先程の戦闘からしても分かる通り釣り合う人間がいない、という問題点もあった。故にゴリ押せてしまう。

 一方、ヘンリーにはあの巨体を物音をたてずに移動できる業があった。力士が足音を立てずに五十メートルの距離を跳躍していると聞けば、その異様さがわかるだろう。しかし、それだけ余計な力をエネルギーとして使わず、ラクランズへの打撃に転換しても、紘和の攻撃と違い砕き散らす事はできず、装甲を大きく凹ませることしかできないのがヘンリーなのだ。しかし、ヘンリーはそれがわかっている。故に膝蹴りをいれつつその巨体でバランスを崩したラクランズを抱擁しているのだ。

 これが経験の差である。


「すんごい堅いわね」


 ここも紘和とは違う点だった。力量を誤ることはない。覚悟がない、油断していたというわけではなく、経験的に測れるものさしが圧倒的にヘンリーと紘和との間では差があるのだ。

 だからこそ結果的にヘンリーは包容力でラクランズ一体へし折って機能停止にしてみせたのだ。


「ちょっと、アタシも天堂みたいに戦ってみたかったのにぃ」

「おかしいですね、攻撃しろと命令はしたのですが」


 ヘンリーが他ラクランズによる、最低でも二体がかりによる連携を期待していと思われる発言をする。そう、この時残された三体のラクランズは一歩も動こうとしていなかったのである。ラクランズを製品として取り扱っている央聖がこの場の異変にもっとも疑念を抱くのは当然のことだった。しかし、疑念なだけでありその理由はわからない。動作不良でまとめてしまうにはあまりにも宣伝として嫌なタイミングあった。そもそもここまで飛んできた上に機体としては紘和と戦わせていたものと同じ場所で管理していたものである。この三体だけが偶然故障していたと考えるのは不自然というものだった。

 故にヘンリーに質問されて、より言葉に詰まってしまうものがあった。


「いやはや、よく出来たもんですね。一度作った人に会ってみたくなりました。どうしてここまで精密なのかって」


 そんな央聖の不安をよそに純はなぜかラクランズの性能を褒めていた。


「後は全てヘンリーさんに差し上げますよ。欲求不満なんでしょ?」

「まぁ、あれで終わりだと私も少し欲求不満よね」

「と、言うわけで命令を変更してあげてください」


 純はヘンリーから了承を得ると央聖に期待はずれだと伝わる愛想笑いを浮かべながらラクランズに対する命令の変更を要求した。

 央聖はその全てを見透かした結果を伝える笑顔に気味の悪さを感じながらも、悪い空気を断ち切るために命令を変更する。


「ヘンリーを攻撃せよ」


 すると、三体のラクランズはヘンリーに標準を合わせて動き出した。


「あら、アタシもてもてじゃない」


◇◆◇◆


「一線上に重なるなんて、ラッキーね」


 最後は三体のラクランズが一直線に並んだ所をまとめて押しつぶすことでヘンリーの勝利が決まった。

 時間にして三分だったが、ヘンリーは笑顔でとても満足したように両肩を回していた。


「どうして出し惜しみしたのかはさておいて、素晴らしい性能ね」

「ありがとうございます」


 誰もがただ一つの可能性から目をそらし、互いの功績を称賛する。しかし、そんな一段落した空気もつかの間、三つの影がこちらに着地というよりは吹き飛ばされてきたかのように受け身もままならないアスファルトの床を抉るように滑っていく。

 そして、壁に衝突して勢いが止まると間髪入れずに助けを求める声が響き渡る。


「旦那、このままじゃ俺たち三人、使い物にならなくなります」


 致命傷は避けているのかもしれない。しかし、央聖の元へ逃げてきたマーキス、ミルドレッドはいたるところから出血し、まるで骨折しているかのように何箇所か庇うように手を当てているのが見受けられた。

 極めつけはカレンで、気を失いマーキスに抱えられている状況だった。


「あれは間違いなく敵に回しちゃいけないヤツです」


 ズドンッとその敵に回してはイケないという評価を受けた紘和が豪快に登場する。


「待たせたな、クソ親父」

「金の生らない怪物が」


 待ちわびたという単語がピッタリと合いそうな不気味な笑みを浮かべる息子と予想を超えた損害を出した敵に心底怒りを表す父親。


「できればまだお披露目したくはなかったが、お前が殺せるならお釣りが来るからよしとするか」


そう言うと央聖は両の手のひらを返し、かかってこいと言わんばかり指先を踊らせる。この行動は央聖がその商品にある程度の改良を加え自信があったからこその行動であった。加えて央聖という紘和にとって殺意の対象兼明らかに戦闘力で劣る存在に対する油断が付加価値としてあるこの状況だからこそ強気に出られた。

 しかし、後者は周囲からしてみれば央聖がただの自殺志願者であるようにしか映らなかった。


「一応、これから本命があるからね。ここであんたたちに死なれちゃうのは困るの。わかるわよね。まぁ、その後なら、むしろ死んでもらいたいぐらいだけどね」


 だからこそヘンリーが央聖と紘和の間にスッと止めに入る。央聖の横には秘書のソフィーもいつの間にか密着するように付いていた。

 明らかに紘和が相手にしていた先程の三人よりも強い気配をヘンリーとソフィーは漂わせている。


「だから壊しはしたけど殺してはいません。こっちが配慮にかけているとは思いませんよ。先に仕掛けてきたのも、私を見世物に勝手にしたのもそっちです。でも、邪魔をするならいっそイギ…ッ」


 紘和の宣戦布告が最後まで言葉になることはなかった。最後まで言っていたら間違いなくヘンリーと紘和の拳が交わっていただろう。短時間であるにもかかわらず、一瞬で事態が悪化する可能性が天堂家とイギリスの間にはつきまとっているのだ。そのギリギリの、決壊をさせないラインで紘和の口を閉じさせた者がいた。紘和が顔を上にして宙に浮いている。その光景がなければ紘和の顎に真下から垂直に掌打が打ち込まれたことを誰も理解が出来なかっただろう。

 それぐらい唐突に紘和は浮いたのだ。


「まぁ、アレだ」


 声でその場の全員が純がしたことだと理解する。紘和の背後へ即座に回り込み、背中ごしに紘和の首を右手で鷲掴みにする純。紘和はその掴んだ純の手首を起点に宙で身体を左に無理やりひねる。勢い任せの蹴りが確実に純を捉えるはずだった。その刹那の間に何があったのか理解できたのはヘンリーとソフィーだけだった。それでも確実に見切れたわけではない。しかし、紘和の蹴りを純が予測できていたとでも言うように視認すらせず、わずかに右脚のかかとを振り上げて小突きその向きを再び紘和の身体を浮き上がらせるように上に変更させたのだ。そして、左手を自身の右手の置かれている紘和の首に重ねた。そこからは流れるように紘和が純に背負投されていた。言葉にすれば実に単純。だが、そこには確かに息を呑む光景があった。一般に言う一流以上の存在を他愛もなくひれ伏せさせる。

 怪物を凌駕する純もまた怪物に映るのだ。


「こんなに派手にやってると向こうだって警戒しちゃうでしょ。今日はココらへんにしません? てか、やっておきたいことがこっちもあるんで」


 自重と振り下ろされる勢いで叩きつけられたことで床を突き破って階下に落ちていく紘和を尻目に、ラクランズが最適解として勝てるみこみが一切ないと判断したから微動だに出来なかった可能性のある男が穏やかに休戦を申し込んできたのだ。


「安心しろよ。お前らそれぞれに思惑があるんだろう? 俺はそれを叶えてみせる。まぁ、対価は頂くけどな……ハハハッ、な~んてな」


 字面だけ見ればどれだけ冗談に聞こえただろうか。一切笑うわけでもなく、感情の起伏もなく告げられた最後の一言に、一人を除いて誰も答えず、しかし己の引き際を理解した。

 先刻までいい客になると考えていた央聖ですらその甘さを痛感するほどの存在感。


「化物め」


 その人間をタチアナだけが声にして罵った。


◇◆◇◆


「頭は冷えたか。紘和」


 紘和で空いた穴からそのまま階下に降り立った純は瓦礫に囲まれ不貞腐れたように片膝を立てて座る紘和に声を掛ける。


「あぁ、才能ってやつを恨むさ」

「安心しろ。お前は何のためらいもなく人を殺せる才能がある。そういう意味ではリミッターは身体的にも精神的にも外れてるんだ。後はそれをしっかりと養うだけさ」

「そのためのここ、か」

「そうだ」


 落ち込む紘和を奮い立たせるようにフォローする落ち込ませた現況でもある純。


「手本にもならない化物が言うんだ。違いないんだろうさ」

「悪役としてはこれ以上ない適任だろ?」

「あぁ、殺しがいがある」


 差し出された純の手を取りゆっくりと起き上がる紘和。


「それで、今後の方針と……そういえば篠永さんはどこに?」

「ん~、多分魚に食われてると思うよ。と、言うわけで急いで迎えに行こう」

「……は?」


 瑛が誰かを誘い出すためのだしに使われたことは理解できるが、それならば危険な状態である可能性が高いということになる。そこに自分たちのどちらも居合わせていないというのはいささか不用心が過ぎると紘和は思った。そもそも誰を釣ったのか見当もつかない紘和は思わず怪訝な顔をしてみせるのだった。


◇◆◇◆


 会議が終わったのと同時に音だけを残して消えた紘和。それに続くように瑛とデニス以外の人間があっという間に部屋をささっと後にしてしまった。瑛はキョロキョロとあたりを見渡し、純がいなくなっていることを確認すると、次に目があったデニスに対して首をかしげる。デニスはそれに対して笑顔を返すだけだった。途方に暮れてしまった瑛は仕方がないのでとぼとぼと来た道を戻って一時的に外まで行くことにした。もちろん、施設内部を取材することも考えたが、ゆく先々に待ち構える屈強な警備兵をかいくぐる度胸は瑛にはなかった。

 やっとこさ警備兵に誘導されるように地下空間を抜け旧王立海軍大学の敷地外に出た瑛。


「で、幾瀧と天堂はどこ行ったのよ! 何アレ、スクープすぎて詳細求むぅ」


 頬を膨らませ、自身の置かれた状況を冷静に振り返ると興味と同時にその理解が追いつかない自分への不満が爆発し、文字通りその場で地団駄を踏む瑛。なぜか、その中心にいたように見えた後輩たちの先輩への敬意のなさにも苛立ちを隠せない。

 そんな自分のことで頭がいっぱいいっぱいだったから声をかけられていることに気づけないでいた瑛。


「あのぉ、ちょっとすいません」


 気づいていないと判断され声をより大きく発せられ、ついでに肩にトントンと手をかけられたことでようやく瑛は誰かの存在に気づく。慌てて後ろを振り返るとそこには男女のペアが立っていた。

 印象的なのは身長が低い、とはいえ百六十はあるだろう男性とそれより二十センチは高い女性のペアというあまり見慣れない組み合わせだということである。


「えっと、なんでしょうか?」


 外国の地で日本人同士ということに旅行に来たカップルだろうか、などと思いつつ、触れてきた男性に目を合わせ返事をする。じろじろと二人を見比べたところで、おぼろげだが日本からイギリスに来る時に同じ便に似たような組み合わせのカップルがいたような気のし出す瑛。

 そんな瑛の心中を察することも、ジロジロみられることを邪険にする風もなく、男の方が話の流れのままに要件を伝えた。 


「どうしてあなたが天堂さんと一緒にいたのか、それと中でどういった話を聞いていたのかお話を伺いたくて」


 スッと愛想笑いの消えた真剣な眼差しの男とその後ろで少し身をかがめた女を視界に捉えた瑛。彼女の中の警戒レベルが一気に引き上げられる。小さなゴシップネタを追っていた時ですらこの手の前兆は経験していた。知った内容の質に応じて処遇が重くなる常套句。つまり、この二人はただの旅行客ではないということになった。

 瑛は自身の置かれた状況が危険なものだと判断し、選ぶべき言葉と逃げるタイミングを考え始める。女の姿勢が低いということは相手もそれがわかっているから逃がすつもりはないという意思表示なのだろう。一瞬でも目が反らせれば逃げるチャンスはあるかもしれない。そんな淡い望みを期待しなければならないほど、瑛にとっては切迫した状況だった。時間が経てば経つほど瑛の黙秘は、瑛の持つ情報が重要であることを裏付けてしまう可能性もある。

 否、あてがあって接触してきた相手からすれば十分な反応と取れるだろう。


「えっと」


 欲した現場という緊張感。しかし、それは瑛が予想していたもの以上に重いものだった。下手な嘘を付くことすらままならず内心は焦りっぱなしだった。だが、運命は瑛に味方しているようだった。突然、街中ではありえない何かが破壊されて崩れる音が轟いたのだ。

 その異質な音に誰もが耳を傾け、発信源を特定しようと目が泳ぐ。


「古賀先輩。あの女、逃げてますよ」

「え?」


 先輩と呼ばれた男も気を取られた一人で、瑛の姿を追い始めた頃にはすでに角を曲がろうとしているところだった。


◇◆◇◆


「別にね、あなたをどうこうするつもりはないんだよ。いや、ほんとに」

「ひっ」

「怯えてますよ、古賀先輩」

 

 先程邂逅した場所からそこまで離れていない公園に三人はいた。右手で首筋を掻きながらまいったなぁとでも言いたそうな顔をする先輩と呼ばれる男。

 あの時、瑛は轟音と共に二人の視線が逸れたのをきっかけに全力で走り出していた。そして、視覚から外れるために角を曲がってなるべく離れることを目的にさらに走った。そして、振り切れたかどうかの確認をしようと後ろを振り返った時、異様な前傾姿勢で瑛との距離を縮めてくる女の姿を捉えた。

 そのスピードからこのままでは追いつかれるのも時間の問題だと判断した瑛だったが、それでも逃げれるかもしれない可能性にかけて再び前を向き直して足を全力で回転させた。


「行きますよ、古賀先輩」

「加減してくれよ」

「善処しまっす」


 妙な掛け声が瑛の後ろから聞こえてきた。しかし、振り返る余裕は瑛にない。

 無駄な動作が確実に距離を縮める要因になるからだ。


「はい、ストップ」


 先程の男の声がドップラー効果を伴い瑛の耳を通り過ぎる。つまり、男の身体がものすごい勢いで瑛の顔の横を通り過ぎたのだ。目で見ているが身体が現状を受け入れていない。だからこそ瑛は男が飛んでいった方向へ未だに走り続けていた。男は両腕を使って道を一回跳ねるとそのままひねりを加えてバク宙する。そして両足でキレイに着地すると殺しきれなかった勢い分後退する。

 こうして、瑛は挟み撃ちにされて捕まり近場の公園に連れてこられていたのだ。


「どうしたもんかなぁ」


 確かに連れてこられてから瑛は何かされたわけではなかった。むしろ、缶コーヒーをおごってもらいひたすら怪しくないということを理解してもらおうと務める男の姿を見せられ続けていた。

 だが、一度名前を聞いてみたがそこは答えてもらえなかった。


「関係ない」


 古賀先輩と呼ばれていた男はそう答えたきりだった。

 瑛もそれ以降、特に何か答えるわけでもなくなるべく視線を合わせないように対応していた。


「古賀先輩、やばいっす」


 そんな硬直した時間が十五分ぐらい続いたのだろうか。恐らく後輩と思われる女が震え声でそういった。その言葉にめんどくさそうに相槌を打った男の顔がしまったというものに変わったのが瑛にもよくわかった。

 右手で顔を覆いため息をつく男。


「はぁ~、参ったわ」

「ご無沙汰してます、古賀警部と……」

「お初にお目にかかります。今野警部補っす」

「初めまして……。それで外事第三課がどういった要件でしょうか。義間部長、いや、祖父の指示でしょうか?」


 聞き覚えのある声に瑛はすがるような眼差しを送る。


「天堂に……幾瀧! どこいってたんだよぉ。殺されるかと思……って天堂。どうしたの、その傷!」


 助けに来た人間がすでに服を汚し、軽く擦り傷が出来ていたことに瑛は驚く。


「ん? というか外事第三課って公安警察の? え?」


 知り合いの保護を得た途端に頭の中に先程聞いた単語が頭を駆け巡りさらに驚く瑛。


「取り敢えず、篠永さんは向こうで落ち着いて来て」


 取り敢えずの言葉の通り、ここで瑛は強制的に話の席から外されるのだった。


◇◆◇◆


「改めて、ご無沙汰してます」

「意外と早くバレちゃったなぁ」

「……バレてたという意味合いで行くと……」

「え?」


 紘和が古賀泰平に国として何らかの監視役がつくと純が予想していたこと。

 だからこそ、紘和たちの行き先をわかりやすくするために荷物に名札シールを付けて噂をたてていたことなどを説明した。


「それで、篠永さんを使ってお二人と合流することで今回のチームに加わってもらおうと思っていたわけです。まぁ、全てそこの……純の発案ですが」


 大方の紘和たちの置かれた状況を説明しつつ、泰平たちに新人類との対決に参加を要請する紘和。


「古賀先輩。これ減給っすか?」

「いや、大丈夫だと思うぞ」


 蝋翼物が国外に持ち出されるため何らかの形で監視がつくと警戒されていたとしても不思議ではなかったが、まさか、二人が戦力として数えられた上で手のひらで踊らされていたとは泰平も想定外だった。

 故に今野梓の鋭い指摘にしどろもどろに答える羽目となった。


「拒否権は、そもそもあるのかな、紘和くん」


 恐る恐る尋ねる泰平に紘和は無言の笑顔で答えた。それに泰平もため息で了承するしかなかった。

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