第260話 そう言えば把握してません(友好度と信頼度)
第三章 世界樹の国と元勇者(260)
(アマレパークス編)
260.そう言えば把握してません(友好度と信頼度)
僕がティティンさんのウィンギルド入会拒否を宣言すると、その場のメンバーがそれぞれに異なる反応を返してきた。
「ウィンのためのギルドだ。ウィンの好きにすればいい。」
ルルさんはいつも通り、戦闘以外の判断は完全に丸投げ。
少し意外そうに僕を見たけど、特に意見も異論もないようだ。
なぜか両腕の白いガントレット(ミスリル製・ウィン作)をガンガンぶつけ合っている。
武具の具合を確認してるんだろうか。
それとも闘い足りないのか。
「ウィンさんが誰かを拒否するのって珍しいですね。とりあえず、串焼き追加でお願いします。」
リベルさんは、ぼんやりしてるようで意外に人のことをよく見ている。
確かに僕は今まで来る者は拒まずだった気がする。
フラフラでボロボロだったリベルさんのことも初対面で受け入れたしね。
でもリベルさんにとっては、ティティンさんのギルド入会問題よりも、自分の空腹問題の方が重要らしい。
いや、どんなことよりも「食べ物」が最優先事項なんだろうけど。
「ウィン、どういうことだ。理由を聞かせてくれ。」
ルカさんがちょっと怖い顔で入会拒否の理由について尋ねてきた。
ティティンさんとは商人ギルドのギルド長同士だし、僕の判断に納得がいかないのだろう。
それに今までのやり取りを見ていれば、二人の付き合いが長いことも、タイプは違うけど仲がいいことも良く分かる。
ルカさん、「オススメの先輩を紹介したらいきなり拒否られた」みたいな感じになってるのかな。
「テメェ、俺の先輩のどこが気に入らねぇんだ!」って表現の方が適切かもしれない。
「ウィン君、まさかギルド入会に(年齢)制限があるのか?」
ティティンさんは、(年齢)のところを発音せず、口の動きだけで僕に伝えてきた。
他の人にはその部分は分からなかったはずだ。
ティティンさん、何げに器用ですね。
でも年齢制限なんてあるわけないじゃないですか。
そもそもティティンさんの68歳より上の、ジャコモさん(70歳)がいますからね。
「ティティンさん、特定の制限はないんですけど、こだわるポイントがあります。」
僕は一通り全員の声を聞いてからもう少し丁寧に話をすることにした。
入会拒否は伝えたけど、その理由はまだ伝えてなかったからね。
「こだわるポイント?」
「はい。」
「そのポイントを教えてもらえるかな? 私はそこに引っかかったってことだろうからね。」
僕がこだわるポイント。
それは、この世界では自分の人生を楽しむこと。
世界平和も望まないし、全ての人の幸せも求めない。
特定の国ために戦わないし、全人類のためにも戦わない。
誰かが作った基準で善悪の区別をしないし、正邪の判定もしない。
そういう事は、それぞれがそれぞれで頑張って下さい。
でもまったく自分以外のことを考えない訳じゃない。
自分と関わった人たちのことは考える。
でもそれは、社会的責任とか、道義的義務とか、権力者に命令されたからとか、弱者に懇願されたからとか、そういうことじゃない。
あくまでも自分の自由意志。
行きたくないところには行かない。
戦いたくない相手とは戦わない。
嫌いな人とは付き合わない。
それは能力に恵まれてるから?
もちろんそうだ。
でも恵まれていなくても同じだ。
能力がないのなら、能力を身につけるために努力することを楽しむ。
必死に生き抜かなければならないなら、泥水を啜ってでも生き延びることを楽しむ。
命懸けで誰かを助けたいなら、それで命を落としても構わないと覚悟して楽しむ。
後悔することもあるだろうし、悲しみに打ちひしがれることもあるだろう。
不平不満を持つこともあるだろうし、誰かに恨みを抱くこともあるかもしれない。
でもそんなことを全部ひっくるめて、自分で決めて自分で動く。
それがこの世界での僕のこだわり。
えっ、ルルさんに振り回されてるって?
まあ・・・少しくらいはそんなこともあるよね。
えっ、リベルさんに引っかき回されてるって?
まあ・・・リベルさんだから仕方ないよね。
えっ、ジャコモさんにもいいようにされてるって?
まあ・・・伝説の商人だし・・・
えっ、従魔たちに子守りされてるように見える?
まあ・・・従魔は僕の一部ということで・・・・・
「ウィン、心の中の友達との会話はそれくらいにして、そろそろ説明したほうがいいんじゃないか。みんな待ちくたびれてるぞ。」
ルルさんの声で僕は我に返った。
どうやら突然黙り込んでしまっていたようだ。
でもルルさん、今回は「中の人」たちと会話してたわけじゃないんですよ。
心の中で一人語りしてました。
うわぁ、それって本当にヤバいやつって感じだよね。
どうして時々、こういう想いが溢れてくるんだろう。
前の世界か前の前の世界で、トラウマかなんかあったのかもしれない。
「コホン、それでは説明させて頂きます。」
僕は気を取り直して、一度全員の顔を見渡した後で、ティティンさんと向き合った。
「ティティンさんの人物鑑定をさせて頂きました。その結果、友好度と信頼度に問題があることが判明しました。」
「友好度と信頼度? 友好度は聞いたことがあるが信頼度って何だ?」
僕の言葉にルカさんがすぐに反応した。
でも『信頼度』については知識がないようだ。
確か『友好度』は中級から、『信頼度』は上級から鑑定項目に入っていたはずだ。
商人ギルドのギルド長のルカさんが知らないってことがあるのか。
ルカさんもティティンさんも『人物鑑定』は持ってないけど、ギルド長なら知識として知っててもおかしくないと思うけど。
やっぱり、クエストの『人物鑑定』は特別なのかもしれない。
「友好度は鑑定主、つまり僕に対する友好度です。信頼度はその人の信頼性、つまり信用してもいいかどうかの程度を示すものです。」
「つまり、ティティンは友好度と信頼度に問題があるということか?」
「そうですね。ティティンさんの友好度と信頼度は両方ともに50%でした。僕に対してそれほど友好的でもない、信頼性も半分しかない。そういう人までギルドに加えるつもりはありません。」
僕の答えを聞いてルカさんが黙り込んだ。
ルルさんとリベルさんは・・・・・たぶんもうどうでも良くなっている。
ティティンさんだけが興味津々の表情で僕を見ている。
「ウィン君、参考までに現在のギルドメンバーの友好度と信頼度を教えてくれないか。」
「えっ。」
ティティンさんがそんなリクエストを出してきた。
そして僕はそこで気が付いた。
ウィンギルドのメンバー全員の友好度と信頼度を完全には把握していないことに。
両方分かるのはフェイスさんとリベルさんだけだ。
「ウィン君、その様子だとすべてを把握してるわけじゃないようだね。でも私はそこを責めてるわけじゃない。鑑定なんかしなくても、それが必要ない人間関係というものがある。むしろ鑑定の数字だけに頼る方が危ないとも言える。そこでどうだろう。ウィン君は転移のエキスパートだと聞いている。今からウィンギルドのメンバー全員の友好度と信頼度を確認してきてもらえないだろうか。この話の続きはその後でさせてもらえるとありがたい。」
ティティンさんは、そこまでしゃべるとにっこりと笑った。
それはとても『たおやかな』笑顔だった。
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