第259話 ウィンギルドに入会した理由(ルル:リベル:ルカ)

第三章 世界樹の国と元勇者(259)

   (アマレパークス編)



259.ウィンギルドに入会した理由(ルル:リベル:ルカ)



「私をウィン様のギルドに参加させて下さい。」


商人ギルド・ララピス支部のギルド長であるティティンさんが突然そんなことを言い出した。

それまでの話の流れからすると唐突なお願いだ。


僕はどう答えていいのか分からず、黙り込んでしまった。

そもそも僕に、ギルド入会を許可する権限があるのかどうかも不明だし。


「茶髪ギルド長、狙いは何だ?」


言葉を失っている僕に代わって、ルルさんが鋭く問い返す。

でもルルさん、ティティンさんの呼び名はもう少し考えてあげて下さい。

いくらなんでも『茶髪ギルド長』はないと思います。


「聖女様、ウィンギルド入会には理由が必要なんでしょうか?」

「当たり前だ。何を考えているか分からない者を入会させる訳には行かない。」


ルルさんが力強くそう主張した。


えっ、そうなの?

現在在籍中のメンバーって、みんな何を考えてるのか分からない人ばっかりだった気がするんだけど・・・・・。

いやそうでもないか。

それぞれの趣味嗜好が常人離れしてるだけで、それさえ理解できれば意外と分かり易いかもな。


「分かりました。理由はたくさんありますが、その前に皆様の入会理由を参考までに聞かせて頂いても構いませんか?」

「構わない。」

「では、聖女様はなぜウィンギルドに?」

「決まっている。そこに戦いがあるからだ。」


ルルさん、それ、有名な登山家の言葉のパクリですよ。

「なぜ山に登るのか。そこに山があるからだ。」ってやつ。

もちろんルルさんは知らないと思いますが。


「それに半端な覚悟ではない。私は来世までウィンについて行く。魂のパートナーとしてな。」


ルルさん、ちょっと前に僕のことを便利な無料倉庫扱いしてませんでしたっけ。

『武器庫』で『資材庫』で『兵站庫』とかって。

それが魂のパートナー?

むしろ魂に取り憑いた祟り神っぽい気がしますけど。

どこへ行っても戦闘に巻き込むタイプのね。


「聖女様の覚悟はよく分かりました。では、勇者様は?」

「えっ、ボクですか。ボクはもちろん、美味しい食べ物と安全な寝床です。最近ちょっと安全じゃなくて、サバイバルな感じですけど。」


リベルさんがそう答えた。


ダメ勇者くん、悪気がないのは分かってるけど、もう少し時と場合を弁えてしゃべろうね。

何でも素直に本音を言えばいいってもんじゃないと思うよ。

まあ、リベルさんに期待するだけ無駄だろうけど。


「なるほど、しっかりとした実利的な理由があると。」


ティティンさんが真面目な顔でそう返す。


ティティンさん、それで納得しちゃうんだ。

意外と柔軟で懐の深い人なんですね。

普通は呆れるところだと思います。

勇者の発言としては赤点レベルの回答ですからね。


「では、ルカ君。君は?」

「成り行きだ。」

「それは理由になってないね。」


ルカさんの答え、みじかっ。

しかも『成り行き』って。

そしてティティンさん、そこは突っ込むんですね。


「・・・・・碧の海の変異で世話になった。ジャコモのジジィがうるさい。破格のメンバーが揃っている。あと・・・・・ちんまりしてるが多彩で異常なウィンの能力。」

「ハハハ、最初から素直にそう言えばいいのに。ルカ君って相変わらずツンデレだね。」

「誰がツンデレだ!」


ルカさんがしばらく考えた後で、ウィンギルド入会の理由を列挙した。

それに対してティティンさんが茶々を入れている。

ルカさんがツンデレ?

『筋肉執事』でツンデレ?

なんかちょっと納得しちゃったかもしれない。


それにしてもルカさんを軽く手玉に取るなんて・・・

実はティティンさんって、商人ギルドの中でもかなりの実力者なんじゃないだろうか。

こっそり『人物鑑定』かけちゃおうかな。


「ああ、ウィン君、鑑定かけてもらっても構わないよ。ウィンギルドに入会を申し込む以上、隠し事は何もないからね。」


ティティンさんはそう言うと、全部見てくれと言わんばかりに両手を大きく広げた。

最初とは口調が変わり、ちょっと砕けた話し方になっている。

僕に対する呼び方も『ウィン様』から『ウィン君』に変化してるし。


「ああウィン、ティティンの喋り方は気にするな。今のが地だ。公式の場では見た目に合わせて作ってるだけだ。」


僕が戸惑っていると、ルカさんがティティンさんの喋り方の変化について説明してくれた。

つまり表向きは女性っぽい外見に合わせているということか。

それも一種の処世術なんだろうか。


でもティティンさん、なぜ僕が鑑定しようとしてるのに気づいたの?

一言も声に出してしゃべってないのに。

僕から変なオーラでも出てるのか?

「今からこっそり人物鑑定かけるぞ。」的なオーラが出まくってるのか?


いつも一緒にいる仲間に心を読まれるのはまだ許容できる、というか慣れた。

でも初対面のティティンさんにまでバレるなんて。

これは冒険者として失格なんじゃないだろうか。

対人戦だと相手に手の内がバレバレになるんじゃないのかな。


そんなどうでもいい心の葛藤を抱えながら、でもせっかくなので遠慮なくティティンさんに鑑定をかけさせてもらうことにした。



【鑑定結果】

☆ティティン(TITINN) 商業ギルド・ララピス支部 ギルド長

  名前 : ティティン(68歳) 男性

  種族 : 山エルフ

  職業 : ギルド長(商人ギルド・ララピス支部)

  スキル: 鉱物鑑定(上級)・武具鑑定(中級)・交渉・算術

       槌術(中級) 

  魔力 : 471

  称号 : 『旋風の槌鬼』

  友好度: 50

  信頼度: 50



「ウィン君、どうだい? 私のステータスに何か問題があるかな。」


ティティンさんは、広げた両手をゆっくりと腕組みに変えて、そう尋ねてきた。

ひとつひとつの仕草がとても優雅に見える。

いや優雅というより、何て言うんだっけ。

しなやかで綺麗な感じ。

そうだ、『たおやか』だ。


「旋風のツチオニ? ツイキ?」

「ウィン君、なぜその二つ名を!?」


ティティンさんの『称号』の読み方が分からず、思わずつぶやくと、ティティンさんが驚いた表情を見せた。


「まさか、ウィン君の人物鑑定は称号まで見えるのか?」


はい、バッチリ見えますよ。

ティティンさん、なぜ驚いてるんだろう。

『称号』って『人物鑑定』の中級から見えるんじゃなかったっけ。

普通の『人物鑑定』とクエストの『人物鑑定』だと見える項目が違うのかもしれないな。

でもそんなことより、


「えっ、68?」

「ちょっと待て。」


僕がティティンさんの年齢に驚いていると、ティティンさんは一瞬で僕の背後に回り込み、僕の口を両手で塞いだ。

そして僕の耳元でつぶやいた。


「ウィン君、その数字は隠蔽してあるはず。なぜ見える?」

「普通に見えますけど。」

「普通の人物鑑定では見えない。そうか、だから『異常』なんだね。」

「でもエルフ族は長命なんですよね? 別に問題ないんじゃないですか?」

「ウィン君、今、私の年齢を見て驚いていただろう。」

「・・・・・」

「そういうことだ。年齢はみんなには内緒だからね。」


他のメンバーに聞こえないように小声で話しながらも、ティティンさんは『内緒』の所だけ妙な迫力を込めてきた。

ティティンさんは背後にいるのに、さらにその後ろに鬼が現れた気がした。

そうだ鬼と言えば、結局『槌鬼』はツチオニなのか、それともツイキなのか。

まあ、どっちでもいいか。


「ティティン、二人で何してるんだ。それにウィン、68ってどういう意味だ?」


僕とティティンさんの謎の行動に対して、ルカさんが怪訝な顔で質問してきた。

まあ当然の疑問だろう。

いきなり二人で密着してイチャイチャ・・・じゃなくてコソコソし始めたら誰でも不審に思う。


ここで誤魔化すことはできるけど嘘はつきたくない。

かと言って、ティティンさんの個人情報をバラすのも人としてどうかと思う。

どうしようかなと考えて、今回は他の問題にすり替えることにした。


「え〜と、ティティンさんに鑑定をかけた結果、大きな問題を発見しました。」

「ティティンに問題? ウィン、それはどんな問題だ?」

「はい、それをこれからみなさんに発表したいと思います。」


そう宣言すると、僕から離れたティテインさんがこちらを睨んできた。


ティティンさん、心配しなくても大丈夫ですよ。

年齢のことは言いませんから。

年齢のことはね。


「それでは発表させて頂きます。ティティンさんのステータスに問題を発見しましたので、ウィンギルド入会はお断りさせて頂きます。」


僕の発言を聞いて、その場の全員が僕を見つめてきた。

約一名だけ、串焼きを食べながらだったけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る