第256話 タコさんと8体の鰻(雷鰻:トルポル・イール)
第三章 世界樹の国と元勇者(256)
(アマレパークス編)
256.タコさんと8体の鰻(雷鰻:トルポル・イール)
「本当にタコさんでいいの?」
僕は念の為スラちゃんに確認を入れた。
聞き間違いってこともあるかもしれないので。
「リン(だいじょぶ)。」
スラちゃんは、自分の提案に自信があるようだ。
従魔の中でもスラちゃんはかなり慎重なタイプだ。
そのスラちゃんがタコさんをおすすめするのだから、きっと理由があるんだろう。
よし、ここはスラちゃんを全面的に信頼して、タコさんに任せるとしよう。
でもタコさん、従魔の中でも一番迂闊なタイプだからちょっと心配だけど。
「タコさん、来て。」
僕が『召喚』を発動すると、広間のような空間にどこからともなく光の粒が流れ込んで来た。
そしてその光の粒は、複数の固まりに分かれて水晶種を囲むような位置に舞い降りた。
あれっ?
タコさんだけしか呼んでないのに、なぜ複数の光が?
しかも数が多くない?
そんな疑問を抱いていると、まず真ん中の光の固まりが実体化し、そこにタコさんが現れた。
いつも通りバレリーナのようにクルクル回りながら着地して、無駄にポーズを決めている。
続いて他の光の固まりも次々に実体化する。
でもそれは従魔たちじゃなかった。
黒くて細長い生き物が全部で8体。
あれは確か・・・・・雷鰻(トルポル・イール)だ。
『庭』の湖でリベルさんを追いかけ回してた魔物だよね。
「ようやく出番なの。あるじ、なかなか呼ばないから待ちくたびれたの。」
「タコさん、待ってたの?」
「部下と一緒に、ずっと待ってたの。」
部下?
雷鰻のこと?
でも僕の『召喚』で、どうして従魔じゃない雷鰻まで一緒に出てきたんだろう?
…うぃん殿、説明させて頂くでござる。特殊能力『統率』の効果により、たこさんは任意の魔物を従えることができるでござる。従えた魔物は従魔の一部と見做されるため、召喚時に伴うことが可能でござる…
タイミングを測っていたかのように、「中の侍」さんから説明が入った。
『統率』ってそんな効果があるんだ。
ということは、ウサくんとスラちゃんも同じことができるってことだよね。
ウサくんが色とりどりの角ウサギを引き連れて登場したり、スラちゃんが特殊なスライムと一緒に出現なんてこともあり得るのか。
まさか『従魔の弟子』の称号が付いたリベルさんも、ディーくんと一緒に召喚できたりしないよね?
ディーくん、まだ『統率』は持ってないけど。
…うぃん殿、残念ながら『従魔の弟子』にはそのような効果はないでござる。ご希望があれば検討の余地はあるかもしれぬでござるが…
いや、「中の侍」さん、別に残念じゃないから。
検討の余地も残さなくていいから。
逆にそんな扱いになったら、リベルさんが不憫すぎる。
それはそのままで結構です。
「あるじ、早く攻撃しなくちゃなの。水晶玉の色が変わり始めてるの。」
「中の侍」さんと会話していると、タコさんから攻撃許可の申請が出された。
雷鰻を8体も連れて来たということは、当然連携して戦うってことだよね。
とりあえずはタコさんのお手並みを拝見するとしますか。
「タコさん、遠慮なくやっちゃってください。」
「あるじ、了解なの。遠慮なく叩きまくるの。」
タコさんはそんな物騒な返事を返すと、湖でリベルさんを追いかけてた時と同じように足を一本上に上げ、トゲトゲになり始めた水晶種に向かって振り下ろした。
タコさんの合図に合わせて、8体の雷鰻から一斉に電撃が飛ぶ。
そしてそのすべてが、壁際にいる水晶種に命中した。
ちなみに『雷鰻』の鑑定結果は次の通りだ。
【鑑定結果】
○トルポル・イール ☆☆
系統 : 魚系鰻型
通称 : 『雷鰻』
体型 : 中型
体色 : 黒色
食性 : 雑食。
生息地: 河川・湖・海(陸も可)
特徴 : 泥や土の中に身を隠す。
体を包むジェル状分泌物がダメージを軽減する。
全身から強い電流を発生させる。
電撃を飛ばす。
可食。(蒲焼きがおすすめ。)
特技 : ジェル・発電(強)・電撃(中)・逃げ足
タコさんが『雷鰻』を連れて来たということは、水晶種の弱点は電気系の攻撃なのだろう。
8発の電撃を受けた水晶種は、『体当たり』の予備動作に入ることもなく、その場でじっとしている。
事態を見守っていると、タコさんが再び足を上げ、すぐに振り下ろした。
電撃第2弾が水晶種に向かい、そのままトゲトゲの体に吸い込まれる。
「あっ、震え出した。」
「電撃が効いてるな。」
「ブルブルしてますね。ウィンさん、串焼きください。」
ルルさんと戦況を見つめていると、いつの間にかリベルさんが隣に立っていた。
体力は回復したけど、空腹には耐えられなかったようだ。
リベルさん、『水晶種』に無効化されたとはいえ、光系の魔法を3つも使ったからね。
仕方ないから串焼きを渡しておこう。
「あっ、第3弾、撃つみたいですね。」
「あんなに電撃を連発できる雷鰻、初めて見たぞ。」
「ああ、あの鰻たち、何発でも撃ってきますよ。逃げ回るのに苦労しました。」
普通の雷鰻は電撃を連発できないのか。
たぶんタコさんが強化してるんだろうな。
鑑定結果には『強化』の表示はなかったけど、本来の力の底上げとか絶対にしてるはず。
でもリベルさん、『電撃耐性』ないのに、よくこんなのと一緒に訓練できたね。
ちょっと尊敬しちゃうかも。
戦闘をタコさんチームに丸投げして、完全に観客と化した3人が見守る中、第3弾の電撃が『水晶種』を直撃した。
どうやら『水晶種』は回避行動もできない状態のようだ。
「あっ、トゲトゲがなくなった。」
「震え方も尋常じゃないな。」
「ブレブレの映像みたいになってますね。」
僕に続いてルルさんとリベルさんも短くコメントする。
3発目の電撃で『水晶種』のトゲトゲ状態が解除された。
振動も残像が見えるほど激しくなっている。
そう言えば、水晶って電流を流すと振動するんだっけ。
なんかそんな情報、前の世界であった気がする。
クオーツ時計って、その性質の応用だったような。
正確には覚えてないけど。
「あっ、メタルカラーも消えた。」
「もう単なる透明な水晶玉だな。」
「チャンスです。ウィンさん、剣貸して下さい。」
『超硬化』が消えて元の透明な色に戻った『水晶種』を見ていると、リベルさんがいきなり右手を突き出してそう言ってきた。
「いいけど。短剣でいい?」
「はい、十分です。」
リベルさんはアダマンタイト製の短剣を僕の手から引ったくると、そのまま水晶種に向かった走り出した。
そしてブルブル振動している水晶種の中心にその短剣を突き刺した。
パリーン。
ガラスが割れるような大きな音が洞窟内に響き渡り、『水晶種』が粉々に吹っ飛んだ。
そして同時に、『水晶種』を中心に強烈な光が爆発のように広がった。
僕とルルさんは思わず顔を背けながら右腕で目元を覆ったけど、光が強すぎて一時的に視力を奪われた。
タコさん、大丈夫だろうか?
割と『水晶種』の近くにいたよね。
でも『物理無効』があるし、『水晶種』のカケラが当たってもダメージはないか。
逃げ足も早いしね。
雷鰻さんたちも無事かな?
『ジェル』のダメージ軽減があるから心配いらないとは思うけど。
タコさんの部下だし、『逃げ足』もあるし。
でも『逃げ足』って、絶対にタコさんが強化したスキルだよね。
そもそも鰻には足がないのにね。
最後にリベルさんは・・・・・まあ自業自得だしどうでもいいか。
チャンスだったのは分かるけど、闇雲に突っ込んで行くとか。
まあその無謀さのおかげで『水晶種』を討伐できたんだけどね。
後で『ヒール』くらいはかけてあげよう。
串焼きの方がいいかもしれないけど。
視力が回復するまでの間、僕はそんなことを考えていた。
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