第255話 そういうことは先に教えて下さい(ダンジョンルール)
第三章 世界樹の国と元勇者(255)
(アマレパークス編)
255.そういうことは先に教えて下さい(ダンジョンルール)
『魅了(神)!』
僕は大声で叫んだ後、その効果を確認するために水晶種の動きを見守った。
水晶種は魔力を吸い込んだ瞬間、一時的に動きを止めたけど、すぐに小刻みにころころし始めた。
効いてるのか?
効いてないのか?
どっちだ?
試しに何か命令でもしてみようかなと考えていると、ルルさんが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「ウィン、気合が入っているところ悪いが、魅了は無駄だ。」
えっ?
魅了が無駄?
なぜ?
もしかしてこの水晶種、僕に対する友好度が100%とか?
「ウィン、友好度が100%なら攻撃はしてこない。そもそも従魔でもない限り、友好度100%の魔物など存在しない。」
そりゃそうですよね。
じゃあどういうこと?
僕の『魅了』は神級のはず。
神さえも惑わす程の強力なスキルじゃないの?
「ここでは、魔物に魅了は効かないんだ。」
「ここでは? どういうことですか?」
「ダンジョンだからだ。」
「ダンジョンの魔物には魅了が効かない?」
「そうだ。」
「なぜ?」
「知らん。それがダンジョンルールだ。」
ルルさん、そういうことは先に教えてくれませんか。
ダンジョンルールなんてものがあるんですね。
ダンジョン内の魔物に対しては『魅了』は効果がないと。
それじゃあ、気合を入れて大声で『魅了』を叫んだ僕は、哀れなピエロじゃないですか。
恥ずかし過ぎるじゃないですか。
そんな風に心の中で悶絶していると、腕輪状態で沈黙していたスラちゃんがポツリと鳴いた。
「リン(主人)、リン(そろそろ)。」
その声に反応して意識を水晶種に戻すと、ちょうど球体がメタルカラーに変化するところだった。
この後、トゲトゲになって、転がって、宙に飛んで、体当たりって流れだな。
今回もうまく避けられるだろうか。
さっきはギリギリだったし。
でもなぜこのタイミングで再び攻撃態勢になったんだろう?
こちらから攻撃した訳でもないのに、何がトリガーになってるのか。
やっぱり水晶種のコンボ攻撃にはクールタイムが必要なのかもしれない。
もしそうなら、次の攻撃を防げばまたしばらく対応策を練る時間が稼げる。
水晶種は銀色の球体のままで少し後方に転がり、そこから想定通りの手順で僕に向かって転がり始めた。
僕は『石壁』を発動するタイミングに神経を集中する。
今回は厚さを増して石壁を強化しないといけない。
水晶種が空中に浮いた瞬間が狙い所だ。
しかしここで想定外のことが起こった。
水晶種が宙に飛び上がらない。
地面の上をそのまま転がりながら加速して僕に向かってくる。
もしかして空中だと軌道を変えられやすいと判断したのか。
状況に応じて作戦を変えてくるなんて、水晶種って頭もいいの?
僕は咄嗟に『石壁』の使い方を考えた。
地面から斜めに出せば水晶種を浮かせることはできるかもしれない。
でも中途半端に浮かせてもそのまま僕に直撃する。
上に逸らせないなら・・・・・横しかない。
一瞬でそう判断した僕は、厚さを倍にした『石壁』を水晶種の進行方向に対して斜めに設置した。
その軌道を少しでも僕の左側に逸らす作戦だ。
しかし水晶種は強化した石壁を簡単に粉砕した。
軌道もほとんど変わらないように見える。
僕の作戦を見抜いて、石壁に当たる角度を微妙に調整してるのかもしれない。
それぐらいの知能はあると思った方がいい。
僕は慌ててさらに5枚の『石壁』を水晶種との間に追加した。
そして両手で大剣を構える。
最後は水晶種に大剣を叩き込みながら、自分の体を横に逃すくらいしか方法がない。
5枚の石壁が次々に破壊されていく。
脳内にアドレナリンが出ているのか、すべての光景がスローモーションに見える。
しかし実際にはかなりのスピードで水晶種が接近してくる。
最後の石壁が崩れ落ち、回転する水晶種の姿が見えた瞬間、僕は大剣を右から左に振り抜いた。
それと同時に飛び退くようにして体全体を右側に投げ出す。
ビューン。
ガキン。
チッ。
ドコン。
水晶種が僕の左側スレスレを通り過ぎ、反対側の洞窟の壁にめり込んで止まった。
大剣を当てたおかげでギリギリ回避できた感じだ。
でもなんか、チッって音がしたような。
何だったんだろう?
地面に倒れた状態でそんなことを考えていると、次の瞬間、左足に激痛が走った。
「痛っ! あっ、えぐれてる!」
自分ではギリギリ避けたつもりだったけど、左足が逃げきれなかったようだ。
それにしても何だこれ。
威力強過ぎじゃね。
かすった程度だと思うけど、左足の肉がえぐれて骨が見えてるんですけど。
自分の足だけど、気持ち悪い。
あと、めちゃくちゃ痛い。
「ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」
ボコッ。
「痛っ。」
左足に連続でヒールをかけていると、いきなり後ろからルルさんに殴られた。
「ウィン、その程度で動揺しすぎだ。」
「だってルルさん、肉がえぐれてるんですよ! 骨が見えてるんですよ!」
「上級ヒールなら2回で治る。それより敵から目を離すな。」
ルルさんから教育的指導が入った。
まったく、おっしゃる通りです。
ちょっと騒ぎ過ぎました。
でも殴ることはないと思います。
目を離していても、水晶種が攻撃態勢に入れば『魔力感知』で分かるのに。
2度目の攻撃の後、洞窟の壁にめり込んだ水晶種は、壁から出てまた小刻みにころころしている。
これは間違いなくクールタイムだろう。
「ルルさん、水晶種は連続で攻撃できないみたいですね。」
「そうだな。何か制約があるんだろう。」
ヒールで治療した左足を確認しながら立ち上がり、僕はルルさんに思っていたことを尋ねてみた。
どうやらルルさんも同じ考えのようだ。
「ウィン、この後はどうする?」
「どうしましょうか。もう攻撃方法が思いつきません。」
「ということはあれだな。最後の手段か。」
「最後の手段?」
「そうだ。ウィンはテイマーだろう。」
そういうことですか。
困った時の従魔頼みですよね
でも僕もそれは一応考えたんです。
ただ、この相手の場合、どの従魔にお願いすればいいのか。
判断が難しいんですよね。
全員呼び出して適当に戦ってもらうとかって方法もありますけど、なんかそれだとテイマーとして情けなさ過ぎる気がして。
「リン(主人)、リン(タコさん)。」
僕の心の悩みを察知したのだろう。
スラちゃんが呼び出す従魔について提案してきた。
でもなぜタコさん?
タコさん、確かに星4つで『海の魔王』だけど、洞窟の中でも強いのかな?
水晶種に『麻痺』とか効くんだろうか?
なぜかトゲトゲに串刺しにされてるタコさんの絵が浮かぶんだけど。
まあ、せっかくのスラちゃんの提案だし、呼び出してみるか。
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