第254話 非常識で異常な魔法とか(ウィンっぽい byルル)

第三章 世界樹の国と元勇者(254)

   (アマレパークス編)



254.非常識で異常な魔法とか(ウィンっぽい byルル)



「氷牢(アイスロック)!」


僕は、『体当たり』の予備動作中の水晶種を氷の中に閉じ込めてみた。

何が有効なのか分からないので、思いついたものを片っ端から試すしかない。

しかし、水晶種は体の表面をトゲトゲに変化させ、あっという間に体を覆った氷を砕いてしまった。



「火炎放射(バーナー)!」


次は炎で攻撃してみる。

琥珀種には効いたけど、水晶種にはどうだろう。

熱で溶けたり、脆くなってくれればラッキーなんだけど。

しかし水晶種は逃げることもなく、平気で火炎を受け続けた。

炎を嫌がる様子もまったくない。



「それなら、続けて水球(ウォーターボール)!」


炎に被せるように水で攻撃してみる。

鉱石類って、確か温度差に弱かったはずだ。

炎で熱くなったところを水で急激に冷やせば破壊できるんじゃないか。

そんな考えで温度を下げた水球をぶつけてみたけど、水晶種には何の変化も見られなかった。



「これならどうだ、『溶岩』!」


あまりにも水晶種の防御力が高いので、僕は最終手段的な魔法を発動させた。

溶岩の塊がすっぽりと水晶種を包み込む。

普通の水晶なら間違いなくこれで溶けるんだけど、魔物にどこまで通用するかは未知数だ。


しばらく様子を見ていると、水晶種を包み込んだ溶岩が少しずつ地面に流れ始める。

そしてその中から、体色をメタルカラーに変化させた水晶種が完全な球体のままで姿を現した。


『溶岩』も効かない。

『超硬化』って硬いだけじゃなく、熱にも強いってことか。

どうすればいいんだろう?

あと残っている攻撃系は『風』と『石』くらいだけど、どう考えてもダメージを与えられるとは思えない。


そんな風に次の攻撃手段について迷っていると、それまで動かずに攻撃を受け止めていた水晶種が再始動した。

メタルカラーのままでトゲトゲ化し、こちらに向かって転がり出した。


うわぁ、スーパーハードでメタルなトゲトゲボールが回転しながら突撃してくるよ。

まともに受けたら体に穴が開くっていうか、串刺しになっちゃうよね。

いや回転してるから、肉も骨も削られてズタズタになるのか。

それは嫌過ぎる。

何とか防がないと。


僕は攻撃から防御に思考を切り替え、とりあえず右手に大剣(黒)を出した。

最悪、大剣で水晶種を弾いて逸らすためだ。

あのメタルとアダマンタイトの剣とどちらが硬いのかは分からないけど。

それ以外だと、『石壁』と『大風』を併用して水晶種の軌道を変え、直撃を避けることくらいしか思いつかない。


水晶種がさらに回転数を上げて加速する。

そしてある一点で地面を踏み切ったかのように宙に飛んだ。

そのコースは、真っ直ぐに僕に向かっている。


「石壁(ストーンウォール)! 大風(グレートウィンド)!」


僕は咄嗟に自分と水晶種の間に石の壁を出した。

垂直に出すとそのまま激突して突破されそうだったので、斜めに角度をつけた。

同時に『大風』を下から上に向けて吹かせる。

水晶種を上に跳ね上げる想定だ。


しかしそれでも水晶種は石壁を簡単に破壊して、ほぼコースを変えずに飛んできた。


ビューン。

ガキン。


僕は体を後方に倒しながら、両手で持った大剣を水晶種の下から斬り上げた。

それでかろうじて、水晶種の『体当たり』を躱わす。

僕の頭の上を通り過ぎた水晶種は洞窟の壁に衝突し、壁面を広範囲に砕いてからポトリと下に落ちた。


危ない、危ない。

『石壁』が薄すぎたかな。

『大風』もほとんど効果がなかった。

それにしても琥珀種みたいに跳ね回るスキルがなさそうで助かった。

ハードメタル・トゲトゲ・スーパーボールなんて洒落にならないからね。


そんなことを考えながらも、視線は水晶種から離さない。

気を抜いたら一撃で終わりそうだからね。

主に僕の命が。


次の攻撃に備えて僕が警戒を続ける中、水晶種は元の透明な球体に戻って壁際で小刻みにころころしていた。

戦闘体勢に入る気配がない。

もしかすると、何らかの理由で連続攻撃はできないのかもしれない。

あるいは単に気まぐれな魔物って可能性もあるけど。


「ウィン、どうだ?」


離れたところから僕と水晶種の戦いを見ていたルルさんが話しかけてきた。


「ルルさん、これ、面倒です。何とか防御はできそうですけど、攻め手がありません。」

「他にウィンっぽい攻撃方法はないのか?」

「何ですか、ウィンっぽいって?」

「非常識で異常な魔法とかだ。」

「ルルさん、緊急時じゃなきゃ殴ってますよ。」

「いつでもいいぞ。殴り返すがな。」


ルルさんはこんな時も平常運転だな。

でも非常識で異常な魔法か・・・・・。

あっ、あれ、試してみてもいいかも。


僕はまだ使っていない魔法を一つ思い出してすぐに実行することにした。


「魅了(神)!」


まだ壁際でころころしている水晶種に向かって『魅了(神)』の魔力が飛ぶ。

そしてその魔力は、透明な球体の中に吸い込まれるようにして消えた。


『魅了(神)』は、すべての生き物を従わせることができる。

発動条件の「神に出会うこと」も満たしているので、効果はあるはずだ。

水晶種の僕に対する友好度が100%じゃない限り。





(参考)魅了(神): 全ての生き物を従わせることができる。

          神さえも惑わせる。

  発動条件   神に出会うこと

    補足 友好度100%の相手には効かない。



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