第253話 あれを殴るのは無理そうです(水晶種:『トゲトゲ』)

第三章 世界樹の国と元勇者(253)

   (アマレパークス編)



253.あれを殴るのは無理そうです(水晶種:『トゲトゲ』)



これはかなりまずいかもしれない。


大事なことなので2度心の中で呟いてから、僕はもう一度鑑定結果を見直した。



【鑑定結果】

○コロロック(水晶種・強制変異) ☆☆++

 系統 : 鉱物系岩石型

 通称 : 『岩の魔物』

 体型 : 小型

 体色 : 透明

 食性 : 水晶を吸収する。

 生息地: 鉱山・洞窟

 特徴 : 完全な球形をしている。

      転がって移動する。

      体当たりする。

      非常に好戦的。

      非常に硬くなる。

      トゲトゲになる。

      刺突攻撃をする。

      光魔法を無効化する。

      食材には向かない。

 特技 : 体当たり・超硬化・トゲトゲ・刺突・光無効



予想通り水晶種のコロロックだった。

体型は小型だが、能力はとても高い。

いや、高いというよりこちらの戦力に合わせて、対抗できる能力を備えていると言った方がいいかもしれない。


例えば『超硬化』。

これは明らかにルルさんの拳撃への対策に見える。

それでもルルさんのパワーの方が勝る可能性はあるだろうけど。


それから『刺突』。

打撃でも魔法攻撃でもなく『刺突』のスキル持ち。

まるで僕が耐性を持っていない攻撃方法を選んだかのような攻撃能力だ。


そして極めつけは『光無効』。

説明通りならリベルさんのスキルをほぼ無効化してしまう。

『剣術』は使えるだろうけど、それも『超硬化』にどれだけ対抗できるのか分からない。


まるで僕たちと戦うために丁寧にデザインされたかのような魔物だよね。

鉄鉱石種も琥珀種もそうだったけど、この水晶種も『強制変異』の表示があるし。

これ、誰かが強制的に変異させたってことなら、犯人の心当たりは一人しかいないけどね。


「ウィン、どうだ?」

「水晶種です。星2つにプラスが2つ。かなり強化されてます。」

「スキルは?」

「体当たり、超硬化、トゲトゲ、刺突、光無効。」

「トゲトゲ?」

「よく分かりませんが、トゲトゲになるそうです。」

「よし、とりあえずリベルで試そう。」


ルルさん、『光無効』持ちの魔物なのにそれでもリベルさんを行かせるんですね。

いくらリベルさんでも、それは嫌がると思いますけど。


そう思ってリベルさんの方を見ると、


「ウィンさん、ボクに任せてください。あんなガラス玉、粉々にしてみせますよ。」


えっ、リベルさん、行くんだ。

僕の説明、ちゃんと聞いてました?

まあ『勇者の剣』と『剣術(上級)』があるから、『光無効』は気にしないのかもしれないけど。



…うぃん殿、余計なお世話かもしれませぬが、りべる殿の『勇者の剣』は光魔法でござる…



突然、視界に「中の侍」さんからのメッセージが表示された。

えっ、『勇者の剣』って光魔法の一種なの?

それってものすごくまずくない?


「リベルさん、ちょっと待って!」


僕は慌ててリベルさんを止めようとしたけど、リベルさんは僕の制止を無視して、水晶種に向かって走り出した。


「光衣! 光縛り! 勇者の剣!」


走りながらリベルさんが声に出して自分のスキルを叫ぶ。

『光衣』がリベルさんの体を包み、『光縛り』が水晶種に向かって飛び、リベルさんの右手に『勇者の剣』が出現する。

普通の魔物が相手なら鉄壁のコンボだろう。

でも今回の相手には『光無効』のスキルがある。


リベルさん、僕が言った『光無効』の意味、理解してないのか?

いや、そもそも聞いてもいなかったのかも。

リベルさんって、人の話聞いてないことが多いからな。


そんな心配をしていると、リベルさんの『光縛り』が水晶種に到達し・・・・・その球形の体に触れた瞬間に消滅した。


やっぱり。

『光縛り』では水晶種を捕えることができない。

光系の魔法はキャンセルされてしまうようだ。


『光縛り』が消えたことで、リベルさんがちょっとビックリした顔をしてるけど、水晶種はもう目の前だ。

作戦を変更するには距離的に接近し過ぎている。


リベルさんは表情を戻し、そのままの勢いで『勇者の剣』を振りかぶった。

そして真上から叩きつけるように振り下ろした。

普通なら相手を真っ二つにする太刀筋だ。

しかし『勇者の剣』は『光縛り』と同じように、水晶種に触れた瞬間に消えてしまった。


呆然として剣が消えた両手を見るリベルさん。

何事もなかったかのように、その場で微妙にころころしている水晶種。


水晶種は「非常に好戦的」だったはずだけどおかしいなと思っていると、水晶種がリベルさんから離れるように後方に転がった。

僕はそれを見て思わず叫んだ。


「リベルさん! 逃げて!」


しかしリベルさんの反応は鈍かった。

まだ自分の両手を不思議そうに見ている。

『光衣』の高い防御力に慣れ過ぎて、攻撃を避けることに鈍感になっているのかもしれない。


後方に転がって距離をとった水晶種は、そこからリベルさんに向かって転がり、加速しながらリベルさんの腹部に激突した。

おそらく『体当たり』だろう。


通常なら『光衣』で攻撃を防げたはずだけど、今回は状況が違った。

水晶種がぶつかる瞬間に『光衣』は消滅し、リベルさんは『体当たり』をまともに食らって吹っ飛んだ。


まずい。


僕はすぐに空中を飛ばされるリベルさんの背後に転移し、リベルさんを受け止め、洞窟の壁に激突する直前に転移で元の場所に戻った。

そしてすぐに『ヒール』をかけて、その場にリベルさんを寝かせた。


リベルさんの応急対応を素早く済ませて水晶種の方を振り返ると、ルルさんが水晶種と対峙していた。

しかし、いつもならすぐに突っ込んで行くルルさんが、なぜか拳を構えたまま動かない。

どうしたんだろう?


「ルルさん、大丈夫ですか?」

「ウィン、これは拳では無理だ。」


ルルさんの言葉を聞いて改めて水晶種の方を見る。

球形の体は転がりやすいのか、小刻みにころころしている。

『超硬化』持ちなので、殴るには硬すぎるんだろうか?


「ウィン、よく見ていろ。」


ルルさんはそう言うと、真っ直ぐに水晶種に接近し右腕を振り上げた。

次の瞬間、完全な球体だった水晶種の表面から無数のトゲトゲが生えた。

さらに水晶種全体が銀色のメタルカラーに変化する。


ルルさんはそこで拳を止めて後ろに下がった。

すると水晶種の体からトゲトゲが消え、体色も元の透明に戻った。


「これ、殴ったら拳に穴が開きますよね。」

「そうだな。超硬化も併用してるようだ。」


あの表面が毬栗状態になるのが『トゲトゲ』で、体色がメタルカラーになるのが『超硬化』ということだろう。


でもスキルを併用できるってことは、『超硬化』と『トゲトゲ』と『刺突』の併用とかも可能性がある。

その状態で『体当たり』を食らったら、確実に体に穴が開くよね。


「ウィン、来るぞ。」


水晶種が後方にころころと下がる。

あれは明らかに『体当たり』の予備動作だ。

そして同時に何種類かの魔力が水晶種の体を包み込むのが『魔力感知』で察知できた。


これはフルコンボで攻めてきそうな気配。

まともに受けるのは危険過ぎる。

さてどう対応したもんかな。

とりあえずいろいろ、試してみるしかないか。


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