第252話 確か『燃える石』だったはず(琥珀種 vs ウィン)
第三章 世界樹の国と元勇者(252)
(アマレパークス編)
252.確か『燃える石』だったはず(琥珀種 vs ウィン)
「ダメ勇者、何度言えば分かる。油断しすぎだ。」
突然消えたルルさんは、すぐに僕の隣に戻って来た。
右手でリベルさんの襟首を掴んだ状態で。
リベルさんは状況が把握できず無言のまま目をパチクリさせている。
『琥珀種』に包み込まれたリベルさんを見て、ルルさんはすぐに動いたようだ。
具体的に何が起こっているかは分からなくても、A級冒険者として危機を察知する能力は高い。
即座にリベルさんのもとに転移し、液状化した『琥珀種』の中に右腕を突っ込み、リベルさんを掴んで再び転移。
『取り込まれる』前に無事リベルさんを救出した。
うん、焦って何もできなかった僕とは雲泥の差だな。
これって、踏んで来た場数の違いなんだろうか。
まだ記憶は戻らないけど、僕もおそらく戦闘経験は多いはずなんだけどな。
魔族のパサートさん風に言えば、『再生率』がまだ低いということなのかもしれない。
「今の・・・何が・・・どうなったんですか?」
茫然自失状態から少し復活したリベルさんが切れ切れにそう呟いた。
「リベルさん、大丈夫ですか? 今のは『琥珀種』の『取り込み』だと思います。」
「取り込み・・・ということは・・・今、ボク、食べられかけた?」
「まあ、そういうことですね。」
「ええっ〜! ウィンさん、ボク、どこか無くなってません? 全部揃ってます?」
ぐったりしていたリベルさんが急にジタバタと自分の全身を確認し始めた。
『琥珀種』の『取り込み』がどういう手順で進むのかは知らないけど、見た目的にはリベルさんから無くなった部分はない。
まあ、元々欠けてるものはいっぱいあるけどね。
慎重さとか、落ち着きとか、大人の余裕とか。
「リベル、うるさい。まだ戦闘中だ。」
ルルさんが慌てふためくリベルさんを一喝した。
リベルさんは一瞬不満そうな顔をしたけどそのまま口を閉じた。
確かにルルさんの言う通りだ。
『琥珀種』はまた元の状態に戻って、2体並んで鎮座している。
しかも『音波』という遠距離攻撃もある。
気を抜くわけにはいかない。
「打撃も効かず、斬撃も無効。ウィン、どうする?」
「次は僕が行きます。ちょっと考えがあるので。」
ルルさんの問いかけに、僕は選手交代を宣言する。
試してみたい戦い方があったからだ。
僕はルルさんとリベルさんが『琥珀種』と戦うのを見ながら、前の世界での知識を思い出していた。
その知識がこの世界の魔物にも当てはまるかどうかは分からない。
でもやってみる価値はある。
ダメなら一度撤退して、作戦を立て直せばいいだけだし。
「では行きます。火球(ファイヤーボール)。」
僕の右手から2つの火球が出現し、それぞれ2体の『琥珀種』に向かって飛ぶ。
すると、それまではルルさんの拳撃もリベルさんの斬撃も身動き一つせずに受けていた『琥珀種』たちが急に転がり出し、火球を避けた。
これはイケるかも。
動きも鈍そうだし。
『火球』は小手調べだったけど本命はこっちだよ。
「火炎放射(バーナー)!」
僕がそう叫ぶと、僕の両手から炎の柱が前方に伸び、『琥珀種』たちを捉えた。
『琥珀種』たちは炎から逃れようと転がり回るが、僕は両手を動かして炎を当て続ける。
しばらくすると『琥珀種』たちの動きが止まり、その場で溶けるように液状化し始めた。
そして最後には勢いよく燃え上がり、そのまま燃え続けた。
僕が思い出した前世の知識。
それは、琥珀は熱に弱く、炭素なので燃えるというものだった。
確か『琥珀』はドイツ語で『ベルンシュタイン』。
『燃える石』という意味だったはずだ。
「ウィン、なぜ分かった?」
樹液化した『琥珀種』たちが燃え尽きたところで、ルルさんが僕に尋ねてきた。
なぜ『琥珀種』の弱点が分かったのかということだろう。
「琥珀は熱に弱いんです。魔物に当てはまるかは賭けでしたけど。」
「なるほどな。初めからウィンに任せるべきだったな。」
「ルルさんとリベルさんが戦ってる間に思い出したので、最初だと対応できなかったかもしれません。」
そんなことをルルさんと話していると、リベルさんが横から割り込んできた。
「ウィンさ〜ん、さすがです。ボクの仇を討ってくれてありがとうございます。」
「リベルさん、別にやられてないでしょう。」
「でも、食べられかけました。」
「リベルさんを取り込んだ『琥珀種』っていうのも、一度見てみたかったかも。」
「ウィンさん、ひど〜い。」
「冗談ですよ。」
でも実際のところ『取り込み』持ちの魔物は要注意だな。
『転移』以外にも逃れる方法ってあるんだろうか。
万が一リベルさんが取り込まれて、『光衣』や『光縛り』持ちの『琥珀種』が誕生してたらと思うとゾッとする。
「あとは水晶種だけだな。」
「鉄鉱石種や琥珀種の追加があるかもしれませんよ。」
「鉄鉱石種は私が砕く。琥珀種はウィンが燃やす。問題ない。」
ルルさんがそう言ってニヤリと笑った。
確かに対応策がはっきりしている魔物を相手にするのは気が楽だ。
でもルルさん、それが分かっているのにいつも無闇に突っ込んで行くのはどういう嗜好なんでしょうね。
「ルル、ちょっと待ってくれないか。それだとボクの出番がないじゃないか。」
「いや、あるぞ。」
「ボクだって役に立て・・・えっ、あるの?」
「次の水晶種、リベルが一番手だ。」
「おお、ルルもやっとボクの実力を認めたってことだね。」
「もちろんだ。リベルが生贄になって、その間に水晶種の弱点を探る。」
「分かった。ボクが生贄になって・・・って、それじゃあ捨て駒じゃないか。」
「違う。パーティー内の役割分担だ。」
「生贄なんて役割、おかしいだろ!」
また二人の言い合いが始まった。
でもこの二人、仲が悪いっていうより一周回って、実は仲がいいんじゃないのか。
ルルさんも本気でリベルさんを生贄にしようと思ってるわけじゃないだろうし。
ルルさん?
本気じゃないよね?
「リン(来ます)。」
僕がルルさんに疑惑の目を向けていると、スラちゃんが3度目の警告を発した。
そしてそれは真ん中の洞窟から姿を現した。
左、右とくれば、やっぱり最後は真ん中だよね。
こういうのを予定調和って言うんだっけ?
「小さいですね。」
「小さいな。」
「チビコロロックじゃないんですか?」
現れた魔物を見て、僕、ルルさん、リベルさんの順で感想が口から溢れた。
それはサッカーボールくらいの大きさの透明な物体だった。
今までのコロロックのような岩石っぽさはかけらもなく、完全な球体をしている。
「ウィンさん、念の為に鑑定してみた方がいいんじゃないですか?」
「ウィン、間違いなく水晶種だと思うが、鑑定してみろ。」
珍しく二人から魔物鑑定の依頼が来た。
リベルさんはチビコロロックかもしれないという理由からの発言だと思うけど、ルルさんのは違う。
『水晶種』だと確信した上での発言だ。
もしかしてあのルルさんが警戒してる?
「はい、鑑定します。」
僕はとりあえず『水晶種』と思われる魔物に『魔物鑑定』をかけた。
そして鑑定結果を見て言葉を失った。
これはかなりまずいかもしれない。
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