第251話 油断し過ぎです(琥珀種 vs リベル)

第三章 世界樹の国と元勇者(251)

   (アマレパークス編)



251.油断し過ぎです(琥珀種 vsリベル)



ルルさんが勝手に突っ込んで行ったけど、僕はとりあえず新手のコロロックに『魔物鑑定』をかけてみた。



(鑑定結果)

○コロロック(琥珀種・強制変異) ☆☆+

 系統 : 鉱物系岩石型・蝙蝠型入り

 通称 : 『岩の魔物』

 体型 : 中型

 体色 : 琥珀色

 食性 : 琥珀を吸収する。

 生息地: 鉱山・洞窟

 特徴 : 岩の形をしている。

      転がって移動する。

      体当たりする。

      非常に好戦的。

      体内に魔物を取り込むことがある。

      取り込んだ魔物のスキルを使える。

      軟化(樹液化)する。

      可食(お酒に漬けると美味)。

 特技 : 体当たり・軟化・取り込み・音波



また『強制変異』の表示がある。

『☆☆+』という表示も初めてだ。

星2つより上だけど、星3つまでは行かないという意味だろうか。

『蝙蝠型入り』となっているので、魔物を取り込んでいるタイプのはずだけど、その体内に魔物の姿は見当たらない。

特技に『音波』があるし間違いないと思うけど。

『軟化(樹液化)』っていうのも、ちょっと気になる。



僕は鑑定結果に向けていた意識をルルさんとコロロック(琥珀種)に戻した。

ルルさんはあっという間に2体の魔物に肉薄していた。

走りながら後方に引き絞られた右腕が、左側の琥珀種に向かって振られる。

その拳の軌道は正確に魔物の体の中心を捉えていた。


ドコーン。


僕はそんな音が洞窟内に響くと予想していた。

イメージは鉄鉱石種を破壊した時と同じ音だ。

しかし実際にはまったく異なる現象が起きた。


ボヨヨーン。


ルルさんの全力の打撃を受けて粉々になるはずだった『琥珀種』は、柔らかいゴムボールのように体を凹ませ、そのまま洞窟の壁の方へ飛んで行った。

それまでは無かった目と口が表面に現れ、不気味な笑顔を形作っている。


『琥珀種』はそのまま壁に当たって跳ね返り、天井で弾かれ、床でバウンドし、反対側の壁に当たり、コロコロ転がってようやく止まった。

あれだけ跳ね回ったのに、なぜか元の位置に戻っている。


まるでスーパーボールか、ピンボールマシーンみたいだな。

あれが『軟化』の効果なのか。

ルルさんの拳をまともに受けたのにダメージが入ったようには見えない。

元の位置で何事もなかったかのように平然としてる。

不気味な笑顔もそのままだし。

これは打撃系にはかなり相性が悪そうだ。


ルルさんはファイティングポーズのままで跳ね回る『琥珀種』を見ていたが、相手の動きが止まると同時に再び攻撃を仕掛けた。

そして今回は、琥珀種2体に連続で拳を叩き込んだ。


結果は・・・・・跳ね回るボールが2個になった。

『琥珀種』同士がぶつかって方向を変えたりしてるので、ビリヤードの要素も加わった感じだ。

複雑に跳ね回る『琥珀種』2体をしばらく見ていると、最終的には狙ったように元の位置に戻って静止した。

2体とも不気味な笑顔を表面に浮かべている。


これはたぶんキリがないな。

何回殴っても同じことの繰り返しになる気がする。

ルルさん、どうするんだろう。

攻撃方法を変更するしかないか。


そんなことを考えていると、ルルさんはあっさりと戦闘体勢を解除した。

そして僕の隣にいるリベルさんに向かって声をかけた。


「リベル、任せた。」


えっ、まさかの選手交代?

あの戦闘狂のルルさんが戦闘を途中で他の人に譲るなんて何があったんだろう。


「面倒だし、クマさんに従っただけだ。」


ルルさんは僕の不思議そうな表情を見てそう言い訳してきた。

ルルさんの言葉は相変わらず省略が多いけど、僕はその意味するところを推測した。


『面倒だし』は、やはり相性の問題だろう。

柔らかくて打撃のダメージが通りにくい相手を拳で倒すのは難しい。

もちろんルルさんは剣も使えるが、そこまでするのは面倒だということだろう。


『クマさんに従った』はおそらく、ディーくんからの伝言、「リベルくんを使って」のことを指していると思われる。

我が道を行くルルさんも、師匠であるディーくんの指示にはある程度従うってことなのかな。


「ルル、どうやらボクの真価にようやく気付いたようだね。」


ふふふと不敵な笑顔を見せるリベルさん。

ルルさんから攻撃役を託されて、ちょっと調子に乗っている。

まあ、リベルさんが強くなったのは確かだし、これくらいのノリの方がリベルさんらしいので構わないけど。


「ボクのスーパーでウルトラでアルティメイトな剣を披露させてもらうよ。」


リベルさんは『勇者の剣』を右手に持ったまま、ゆっくりと2体の『琥珀種』に向かって歩いて行く。

その自信に溢れた態度はとても頼もしいとは思うけど、僕は念の為にリベルさんに注意を促した。


「リベルさん、音波攻撃に気をつけて!」

「えっ?」


僕が叫ぶのと同時に『琥珀種』2体から『音波』が発射された。

『波動視』持ちの僕にはその攻撃がはっきり見えたけど、リベルさんには見えなかったらしい。

2本の『音波』がまともにリベルさんを直撃し、リベルさんは真後ろに吹っ飛ばされた。


「リベルさん!」

「油断しすぎだ、ダメ勇者。」


心配して叫んだ僕とは対照的に、ルルさんは淡々とリベルさんにダメ出しをした。

まあおっしゃる通り油断しすぎだけど。

ポヨヨーンってしてるので弱そうに見えるけど、曲がりなりにも星2つ(いや、2つプラスか)の魔物だからね。


「ウィンさ〜ん、早く言ってくださいよ〜。」


ふらつきながらも立ち上がったリベルさんが、僕に泣き言を言ってくる。

でもリベルさん、初見の魔物相手に未知の攻撃を警戒するのは冒険者として初歩中の初歩ですよ。

手抜きして『光衣』を纏わないからそんなことになるんです。

この失態については、後でディーくんに報告入れておきますからね。


慌てて『光衣』を発動したリベルさんを確認してから、僕は改めて『琥珀種』を見た。

茶色で透明な体内に、いつの間にか黒いマークが浮かび上がっている。

それはデフォルメされた蝙蝠のマークだった。


僕はなんとなく、取り込まれた魔物はそのままの姿で『琥珀種』の体内に存在するのだと考えていた。

天然の琥珀の中に閉じ込められた虫のように。

でもどうやらそうではないようだ。


でもあれって、有名なアメコミの主人公のマークじゃ・・・・・。


前の世界の蝙蝠系ダークヒーローのことを思い出しながら、『琥珀種』の蝙蝠マークを見つめていると、その部分から再び音波攻撃が発射された。


「リベルさん、危ない!」


僕は思わず叫んでしまったけど、さすがにリベルさんも同じ攻撃を続けて受けるほど迂闊じゃなかった。

素早く動いて立ち位置を変え、即座に『琥珀種』に近接し、2体の間を駆け抜けた。

『勇者の剣』を2度振り抜きながら。


あれっ、今確かに斬ったよね。

どうして何も変化がないんだろう?


『琥珀種』たちはリベルさんの斬撃を受けたはずだけど、変形して飛んでいくこともなく、砕けて崩れ落ちることもなく、そのままの位置で鎮座している。

不気味な笑顔もそのままだ。


もしかして斬撃も効かないのか。

剣が体内を通り抜けてもダメージが入らないとか。


そんなことを考えていると、しばらく時間をおいて、2体の『琥珀種』の体に斜めに線が入り、上部がずり落ちて地面に転がった。

そして体全体が液体のように溶けて地面に薄く広がった。


「ボクが本気を出せば、こんなもんですよ〜」


リベルさんが残心の構えを解いて、得意げに勝利を宣言する。

『光衣』も解除したようだ。

でも僕の中にはまだ何か違和感がある。

これで終わりではないような・・・・・。

そうだ。

『軟化』には補足事項が表示されていた。

『樹液化』・・・・・。


「リベルさん! まだダメです!」


僕の叫び声に反応するかのように、地面に広がった液体がプルンと揺れると、一斉にリベルさんに飛びかかりリベルさんの全身を包み込んだ。


まずい。

リベルさんが取り込まれる。


僕が心の中で叫び声を上げた次の瞬間、僕の隣からルルさんが消えた。




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