第250話 中身、入れ替わってないよね(鉄鉱石種:強制変異)

第三章 世界樹の国と元勇者(250)

   (アマレパークス編)



250.中身、入れ替わってないよね(鉄鉱石種:強制変異)



「鑑定。」

「では参る。」


僕の声とルルさんの声が被る。

左側の洞窟から転がり出てきた3体のコロロックに対して、僕が『魔物鑑定』をかけるのとほぼ同時にルルさんが走り出した。



(鑑定結果)

○コロロック(鉄鉱石種・強制変異) ☆☆

 系統 : 鉱物系岩石型

 通称 : 『岩の魔物』

 体型 : 大型

 体色 : 黒色

 食性 : 鉄鉱石を吸収する。

 生息地: 鉱山・洞窟

 特徴 : 岩の形をしている。

      転がって移動する。

      非常に好戦的。

      体当たりする。

      押し潰す。

      硬化する。

      食材には向かない。

 特技 : 体当たり・押し潰し・硬化



『強制変異』?

初めて見る表示だ。

それに鉄鉱石種のコロロックは星1つのはずなのに、この3体は星2つになってる。

攻撃スキルはたいしたことなさそうだけど、防御系に『硬化』がある。


鑑定結果を素早く確認した僕は、慌ててルルさんに向かって叫んだ。


「ルルさん! それ普通のコロロックじゃないです! 気を付けてください!」


ドコーン。

ドコーン。

ドコーン。


僕の叫び声を掻き消すように大きな衝突音が3度、広間のような空間に響き渡った。

そしてその残響が消える頃には、粉々になったコロロックの残骸と、その中に佇むルルさんの姿があった。


星2つ、しかも『硬化』持ちのコロロック3体を拳で瞬殺って。

ルルさん、もう人間辞めてますよね。

改めて格闘大会の後にディーくんが言った「ルルちゃんももう反則の域に踏み込んでる」発言が蘇ってきた。


「ふざけるな!」


僕がルルさんの拳のパワーに圧倒されていると、ルルさんがこちらを振り向き鬼の形相でそう叫んだ。

僕は魂が縮み上がるほどの恐怖を感じ、思わず土下座しそうになったけど、よく見ると彼女の視線は微妙に僕を逸れて、隣にいるリベルさんに突き刺さっていた。


「ダメ勇者、余計なことをするんじゃない。」

「余計なことなんかしてない。」

「『岩の魔物』を縛っただろう。」

「だから?」

「私一人で倒せた。」

「そうだろうね。」

「分かってるなら余計なことをするな。」

「ルルは、間違ってる。」

「なんだと。」


ルルさんとリベルさんが口喧嘩を始めた。

二人とも実力は上がっても、相性は相変わらず悪いようだ。

僕としては、二人が連携して魔物を倒してくれるのは大歓迎なんだけど、ルルさんはリベルさんの支援が気に食わなかったらしい。


「ボクはルルのために光縛りを使ったわけじゃない。」

「どういう意味だ?」

「ルル、ウィンさんの指示を聞いてなかったの?」

「ちゃんと聞いた。」

「ウィンさん、何て言った?」

「普通のコロロックじゃないと。」

「それが分かってて、そのまま突っ込んだんだ?」

「それがどうした?」

「もし、今のコロロックに未知のスキルがあったら?」

「それでも私の方が速い。」

「ルルのことは心配してない。でも攻撃がウィンさんに向く可能性だってあった。」

「それは・・・・・」


どうやらリベルさんは、僕の指示を聞いて余計なリスクを減らすために『光縛り』を使ったと言いたいようだ。

その行動はルルさん個人からしたら余計なお世話だったかもしれないけど、冒険者パーティーのメンバーとしては正しい考え方だろう。


でもリベルさん、どうしちゃったの?

そんな理路整然と正論でルルさんに対抗できるなんて。

従魔ブートキャンプで頭の中も覚醒しちゃった?

それともディーくんによる洗脳?

もしかして、中身だけ別の人と入れ替わってたりしないよね。


「だからボクは、ルルのためじゃなくウィンさんのためにできるだけリスクを減らしただけだよ。パーティーなら当然の行動だよね。」


リベルさんは青みがかった金髪を右手でかき上げながら、したり顔でルルさんにそう言った。

一方のルルさんは、驚き過ぎて最初の怒りがどこかに飛んでしまったのか、唖然とした表情をしている。

しかしルルさんも言われっぱなしで終わる性格じゃない。

すぐに反撃を開始した。


「リベル、言ってることは正しい。いきなり怒鳴って悪かった。ただ一点、確認してもいいか?」

「どうぞ。」

「リベルはいつからパーティーメンバーになった?」

「えっ?」

「パーティーメンバーは私とウィンの二人だけのはずだが。」

「えっ?」


あれっ、そう言われてみればそうなのか。

確かにリベルさんは、「中の人」基準ではパーティーメンバー扱いになってるけど、冒険者ギルド基準ではまだ登録されてない。

リベルさん、そこまでは考えてなかったみたいで、ルルさんに問い詰められて涙目になってる。

ちょっと可哀想。


「ウィンさ〜ん、助けて下さい。ルルがいじめるんですけど〜」


リベルさんが僕に泣きついてきた。

さっきまでの毅然とした態度はどこに行ったのやら。

どうやら覚醒したのはリベルさんの一部で、根本はあまり変わってないみたいだね。

まあ仕方がない。

助け舟を出すとしますか。


「まあまあルルさん。リベルさんもここまで頑張ったんだし、それくらいにしてあげて下さい。」

「ウィン、もちろん分かっている。リベルが小賢しいことを言うのでちょっといじめただけだ。」

「じゃあ、パーティーメンバーとして認めてあげてもいいですか?」

「ウィンがいいなら、それでいい。」


ということで、リベルさんは名実ともにパーティーメンバーとなった。

ルルさんがすんなり認めたのは意外だったけど。

後は冒険者ギルドに届け出るだけか。

そこまで考えて一つ重大なことを忘れていたことに気がついた。


「ルルさん、パーティー名、どうしましょう?」

「パーティー名? 何でもいいんじゃないか。」

「いえ、既に名前はあるんです。忘れてましたけど。」

「そのままでいいだろう。」

「でも今のパーティー名、『ルル様とウィン様』ですけど。」

「分かりやすくていいじゃないか。」


ルルさんが一人でウンウンと頷いている。

しかし当然約一名からクレームが入った。


「パーティー名の変更を提案しま〜す。」


そうですよね。

ルルさんと僕の二人だけの時はこの名前でもいいだろうけど、リベルさんもメンバーに加わるわけだし、何か考えないとね。


「ボク、いい名前を思いつきました。『ウィンさんと超絶イケメン勇者リベルとその他』でいいんじゃないですか。あっ、痛い、痛い!」


リベルさん、もちろん却下です。

しばらくルルさんのぐりぐりを受けて反省していて下さい。

でも3人の名前を並べるのもなぁ。

今後、メンバーが増えることもあるかもしれないし。

どうしようかな。


「リン(主人)、リン(また来た)!」


パーティー名についてゆるい会話をしていると、スラちゃんが再び警告を発した。

もちろん、コロロック3体で終わりだとは思っていなかったので、僕とルルさんは瞬時に戦闘体勢をとる。

リベルさんは頭を抱えて座り込んでるけど。


分かりますよ、リベルさん。

ルルさんのあれ、痛いですもんね。


第二陣の魔物は右側の洞窟から転がり出てきた。

最初のコロロックより一回り小さいのが2体。

ただ表面が『鉄鉱石種』に比べて凹凸が少なくてスベスベしてる感じ。

体色も茶色で透明感がある。

これは間違いなく『琥珀種』だろう。


「ルルさん、先に鑑定・・・」


僕がそう言いかけた時には、ルルさんは既に『琥珀種』に向かって走り出していた。


ルルさん、さっきのリベルさんとのやりとりはなんだったんですか?チームプレーとか、する気ゼロですよね。

まあ、好きにして下さい。


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