第249話 そして誰もいなくなった(チビコロロック:『鉄鉱石の洞窟』)
第三章 世界樹の国と元勇者(249)
(アマレパークス編)
249.そして誰もいなくなった(チビコロロック:『鉄鉱石の洞窟』)
僕たちが案内されたのは、ララピスの街の壁際の一角だった。
そこには入口にあったものと同様の石造りの大きな門が壁に張り付くように建っていた。
もちろん、ここに来る前にティティンさんにこれが正式な討伐依頼であることを確認してある。
「この中が『鉄鉱石の洞窟』ですか?」
僕が尋ねるとティティンさんが答えてくれる。
「はい。正確には私たちが『鉄鉱石の洞窟』と名付けたダンジョンになります。主に鉄鉱石系のコロロックが出現するのですが、倒すと鉄鉱石をドロップしますので、鉄鉱石の採取地として利用しております。」
つまり鉱山で採掘するのではなくダンジョンからドロップ品を集めることで鉄鉱石を集めているということか。
僕がイメージしてた鉱山都市とかなり違うな。
「誤解なきように付け加えますと、普通の鉱山としての採掘地もあります。ただこのようなダンジョンは冒険者達にとって効率の良い仕事場になりますので。」
あれ?
今、初対面のティティンさんにまで心を読まれたような気がする。
まあ気にしないことにしよう。
「ちなみに、他にも同じようなダンジョンはあるんですか?」
「はい、ララピスの周囲にいくつか存在します。」
「他のダンジョンは大丈夫なんですか?」
「今のところ、異常は報告されておりません。」
そんな風にティティンさんから情報を仕入れていると、
「ウィン、うだうだ言ってないで入るぞ。『百聞は一戦に如かず』だ。」
ルルさんがダンジョン突入を急かしてきた。
でもルルさん、それを言うなら『百聞は一見に如かず』じゃないのかな。
まあこの世界のことわざは前の世界とは違うのかもしれないけど。
「聖女様、一つだけお願いがあります。」
「なんだ? 茶髪ギルド長。」
「チビコロロックは見逃してあげて下さい。」
「チビコロロック?」
「はい。小型のコロロックのことをララピスではそう呼びます。」
まだ発生したばかりのコロロックのことかな。
でも小さくても一応魔物だよね。
何か理由があるんだろうけど。
それにしてもルルさん、ティティンさんの呼び名、『茶髪ギルド長』はないと思います。
「なぜだ?」
「チビコロロックは非常に弱く、倒しても何もドロップしません。ララピスではある程度大きくなるまで放置することにしています。」
そういうことか。
漁業で網にかかった小さい魚を放流するのと同じ感じ?
小さいのまで根こそぎ乱獲すると資源が枯渇しちゃうしね。
「了解した。だが向かってくれば倒すぞ。」
「大丈夫です。チビコロロックは臆病なので、すぐに逃げ出します。」
ということで、僕たちは『鉄鉱石の洞窟』ダンジョンに入ることになった。
メンバーは、ルルさん、リベルさん、僕、そして僕の左腕にスラちゃん。
ルルさんはもちろんハンマー役。
ハンマーは持たずに拳だけど。
リベルさんは、捕縛兼攻撃役。
コロロックは破壊しても血が出ないらしいので大丈夫だと思う。
スラちゃんは索敵役。
『生命力感知』と『鉱物感知』があるので適役だね。
そして僕は・・・・・まあ、いつも通り『なんでも屋』かな。
ダンジョン入口の門をくぐると、そこは大きな広間のような空間になっていた。
光源がどこにあるのか分からないけど、普通に目視できるだけの明るさが保たれている。
そして地面を見ると大量の丸い岩がころころしていた。
大きさは拳くらいからサッカーボールくらいまで様々だ。
しまった。
大きさの基準を聞くのを忘れた。
どれくらいまでが『チビコロロック』なんだろう。
仕方がない。
とりあえず鑑定してみるか。
(鑑定結果)
○コロロックル(鉄鉱石種) ☆
系統 : 鉱物系岩石型
通称 : 『チビコロロック』
体型 : 小型
体色 : 黒茶色
食性 : 鉄鉱石を吸収する。
生息地: 鉱山・洞窟
特徴 : 岩の形をしている。
転がって移動する。
非常に臆病。
体当たりする。
食材には向かない。
特技 : 体当たり
○コロロックル(砂岩種) ☆
系統 : 鉱物系岩石型
通称 : 『チビコロロック』
体型 : 小型
体色 : 赤茶色
食性 : 砂岩を吸収する。
生息地: 鉱山・洞窟・砂漠
特徴 : 岩の形をしている。
転がって移動する。
非常に臆病。
体当たりする。
食材には向かない。
特技 : 体当たり
コロロックル?
コロロックじゃなくて?
片っ端から『魔物鑑定』をかけてみたけど、すべて『コロロックル』と表示された。
通称は『チビコロロック』となっている。
つまり小さいうちは『コロロックル』で大きくなると『コロロック』になるってことか。
ややこしいな。
それから黒っぽいのが鉄鉱石種で赤っぽいのが砂岩種。
取り込む鉱石によって色が微妙に変わるのだろう。
攻撃方法は『体当たり」一択。
あと、いちいち『食材には向かない』とか説明する意味あるのか。
「ルルさん、これ全部チビコロロックみたいです。」
「そうか。じゃあ追い払おう。」
ルルさんはそう言うと、いきなり右の拳を地面に叩きつけた。
ドーンという音と共に広間全体が揺れる。
その瞬間、ランダムにころころしていたチビコロロックたちが一斉に飛び上がった。
そして単なる動く岩にしか見えなかったチビコロロックたちの表面にまん丸い目とまん丸い口が現れた。
あれはたぶん・・・・・驚愕の表情だよね。
一瞬だけ宙に浮いたチビコロロックたちは、着地と同時に必死になって僕たちから離れる方向に転がり始めた。
まさに一目散という感じだ。
チビコロロックたちが逃げる先に視線を移すと、壁面に大きな穴が3つ開いているのが見えた。
おそらく3方向に洞窟が伸びているのだろう。
しばらく様子を見ていると、チビコロロックたちはすべて、3つの穴のどれかに逃げ込んで姿を消した。
特技に『逃げ足』はなかったけど、見事な『逃げ転がり』っぷりだった。
「ルルさん、『そして誰もいなくなった』状態ですけど、どうします?」
「そうだな。あの穴を一つずつ攻略するか。」
僕にしか分からない前の世界の推理小説の名前を使ってルルさんに問いかけると、ルルさんは普通に返してきた。
理解者がいない会話というのはとても虚しい。
そんな無駄な感傷に浸っていると、僕の左腕の腕輪(スラちゃん)が短く鳴いた。
「リン(来る)!」
その警告に反応して、ルルさんと僕は咄嗟に身構える。
リベルさんは、呑気に棒立ちしたままだ。
本当にこの人は、大物なのか、危機感が足りないのか。
そんな風に呆れ気味にリベルさんを横目で見ていると、何か大きなものが転がるごろごろという音が聞こえてきた。
3つのうちの左側の穴からだ。
そして現れたのは、真っ黒でごつごつした岩が3個。
かなり大きい。
高さは僕たちの身長を超えて、3メートル近くある。
普通のコロロックってこんなに大きいの?
チビの次がこのサイズって飛躍し過ぎじゃない?
いきなり最大級が来ちゃったのかな。
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