第248話 日報があるそうです(ウィンギルド:ギドルール)

第三章 世界樹の国と元勇者(248)

   (アマレパークス編)



248.日報があるそうです(ウィンギルド:ギルドルール)



「ルカさん、なぜここに?」

「ウィン、お前を待ってたに決まってるだろう。」

「待ってた? どうしてここに来ると知ってたんですか?」

「詳しい話は後だ。とりあえず中に入れ。」


僕はルカさんに腕を引っ張られるようにして商人ギルドの中へ連れて行かれた。

ルルさんとリベルさんは何も言わずに後ろを付いて来る。


案内されたララピス支部のギルド長室は、アマレ本部のそれと同じような作りだった。

簡素だが高級そうな執務机、会議用の応接セット、たくさんの大きな棚。

ルカさんの部屋と少し違うのは、資料以外に様々な鉱石が棚に飾られてるところか。

まあこの辺は鉱山都市ララピスの地域色だよな。


「ウィン様、ようこそ。お待ちしておりました。」


執務机から一人の男性(女性?)が立ち上がり僕に挨拶してきた。

茶色のウェービィな長髪に茶色の瞳。

ルカさんより長身で、筋肉質かどうか判定し難いくらいの細身。

顔立ちは中性的だけど、声から判断すると男性のようだ。

執務机に座っていたことと、ルカさんとよく似た三揃いを着ていることから判断すると、ララピス支部のギルド長だろう。


「どうも、ウィンです。」

「初めまして。ルカ君からよくお話は伺っております。言い遅れましたが、私はここララピスの商人ギルド長、ティティンと申します。以後、お見知り置きを。」


ティティンさんはそう言うと、右手を胸に当てて綺麗にお辞儀した。

僕もそれにつられて思わずお辞儀を返す。

喋り方も声の質も完全に男だと思うけど、見た目と仕草がとても女性っぽい。


「ティティン、ウィンに丁寧に喋る必要はない。時間が惜しい。早速本題に入ろう。」

「ルカ君、人間関係には第一印象が大事なんだよ。ルカ君のその商人らしくない直球勝負も嫌いではないけどね。」

「商人の基本など分かっている。でも相手はウィンだ。気にする必要はない。」


丁寧に対応してくれたティティンさんとは対照的に、ルカさんの態度には遠慮も礼儀もない。


ルカさん、あなたの中で僕の評価はどうなってるんですかね?

扱いが雑すぎません?

前回の依頼事項、『碧の海』の問題はきちんと解決したじゃないですか。

その後、特異な魔法もちゃんと見せましたよね。

それにあなたも一応ウィンギルドの一員だったはず。


そう言えばその前に、なぜあなたはアマレの商人ギルドではなく、ララピスにいるんですか?


「ルカさん、さっき僕を待ってたって言いましたよね。」

「そうだが。」

「なぜ僕がここに来ると分かったんですか?」


そう尋ねるとルカさんの顔が「こいつ何言ってんだ」的な表情になった。


「ウィンギルドの日報を見たからに決まっている。」

「えっ? 日報? 何それ?」

「文字通りだが。ウィンの毎日の行動が逐一記載されている。」

「それって・・・・・どういうこと?」

「ウィンギルドには、あのジジィ(ジャコモ)とあの狐(フェイス)がいるんだぞ。お前の行動など筒抜けだ。」


ちょっと待ってください。

ということは僕は常に監視されてるってことですか?

商人ギルドと諜報ギルドの隠密たちが常時周囲に潜んで、僕の行動を報告していると。


「ボクも昨日、報告書書きましたよ。」

「えっ?」

「私もだ。毎日出すのは面倒だが、ギルドのルールだからな。」

「えっ?」


リベルさん?

ルルさん?

もしかしてスパイは潜んでいるわけじゃなくて、滅茶苦茶身近にいたってことですか?

そんなルール、聞いてませんけど。


「直接情報だけじゃない。噂やそれぞれのギルドを通しての間接情報も漏れなく報告する決まりだ。」


ルカさんが「何を今更驚いてるんだ」的な表情で僕を見た。

いや、それはいくらなんでもやり過ぎじゃないのかな。

この世界の個人情報保護法はどうなってんの?

もちろんそんなものはないんだろうけど。


「そんなことより、本題に入るぞ。コロロックの上級種が出た。星2つの変異種だ。星2つが増えていたので警戒していたが、変異種になると対応できる者がいない。」


ルカさん、僕の個人情報問題を「そんなこと」で切らないで欲しいんですけど。

ちょっと一度、ウィンギルドの緊急幹部会を招集すべきかもしれない。


「『岩の魔物』か。何が出た?」

「星2つの琥珀種と水晶種だ。変異種もいる。」

「場所は?」

「『鉄鉱石の洞窟』だ。」


僕の魂の叫びは置き去りにされ、ルカさんとルルさんの間で話が進んでいく。


「本来は砂岩種とか鉄鉱石種ぐらいしか出ないだろう?」

「そうだ。高位の洞窟ダンジョンならいざ知らず、『鉄鉱石の洞窟』に星2つが出るのは珍しい。」

「冒険者ギルドはどうしている?」


ルルさんがそう質問すると、ティティンさんが手を挙げて、ルカさんを制した。


「そこからは私が説明させて頂きます。最初は冒険者ギルドも琥珀種の出現に喜んでいました。」

「ああ、ここでは琥珀は貴重品だったか。」

「その通りです。琥珀種のコロロックがドロップする琥珀や琥珀酒は高値で取引されますので。」

「琥珀種の『岩の魔物』なら倒せる冒険者パーティーがこの街にもいるということか。」

「はい。ただ、水晶種、しかも変異種がいるとなると危険度が跳ね上がります。そのため現時点で『鉄鉱石の洞窟』は立ち入り禁止となっております。」


そこまで話を聞いた僕は、とりあえず『日報』問題を棚上げすることにした。

緊急事態みたいなので仕方がない。

後でこの問題を改めて棚下ろしできるかどうかは・・・・・全く自信がないけど。


「その『岩の魔物』・・・コロロックでしたっけ。強い魔物なんですか?」

「ウィン様、ノーマル種のコロロックはそれほど脅威ではありません。多少ハンマー系の武器の心得があれば砕くことができます。」

「琥珀種は?」

「琥珀種も星2つとはいえ、それほど固くはありません。ただ時々その体内に別の魔物を閉じ込めてる個体がいます。」

「閉じ込めてるって、生きてる魔物を?」

「いえ、もちろん死んでます。」


琥珀の中に時々昆虫とかが入ってるのと同じか。

まあ魔物をどうやって体内に取り込むのかよく分からないけど。

でも魔物入り琥珀種と普通の琥珀種と何が違うんだろう?


「そして、この魔物を取り込んだ琥珀種の面倒なところは、取り込んだ魔物のスキルを使えるということです。」

「ということは、初見だとどんな魔法やスキルを使ってくるか分からないってことですね?」

「その通りです。たまに強力な魔物を取り込んでる個体もいますので、注意が必要です。」


それは厄介だな。

でも『魔物鑑定』で取り込んだ能力まで表示されるのなら、事前に把握することは可能か。

表示されるかどうかはやってみないと分からないけど。


「ティティンさん、コロロックの大きさってどれくらいですか?」

「様々ですね。最初は小さいのですが、年々成長します。」

「成長? それは幼体から成体になるということではなく?」

「はい。生きている間は、必要な鉱石を取り込んで少しずつ巨大化するようです。」


なるほど。

強い個体ほど長生きする。

長生きすれば巨大化してさらに強くなる。

放置すればどんどん対応が難しくなるってことだな。


「了解した。『岩の魔物』を倒せばいいんだな。ウィン、すぐ現場に行くぞ。」

「待って下さい。水晶種についての説明がまだです。まああまり情報がないのですが。」

「それは戦ってみれば分かる。」


話に飽きたのか、ティティンさんの説明を切り上げるように、ルルさんがそう断言した。


戦いたくてウズウズしてるんだろうな。

ルルさんがコロロックを拳で砕いて回る絵が簡単に想像できる。

ルルさんの拳、ハンマーより強力だからね。


ただ僕には一つ心配事があった。

なんとなく話が進んでるけど、これって正式な討伐依頼だよね?

ちゃんと報酬とか出るよね。

ただ働きはしないからね。


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