第247話 筋肉執事、再び(商人ギルド:ララピス支部))
第三章 世界樹の国と元勇者(247)
(アマレパークス編)
247.筋肉執事、再び(商人ギルド:ララピス支部)
「ルルさん、質問してもいいですか?」
街に向かって坂道を下りながら、僕は気になっていたことをルルさんに尋ねることにした。
「ウィン、なんだ?」
「あの光ってるのは『温めると光る石』なんですよね。」
「そうだ。」
「かなり明るいですよね。」
「『手を叩くと光る石』よりは明るいな。」
「でも温めないと光らない。」
「当然だ。」
「なぜ光ってるんですか?」
「温めてるからだ。」
うん、質問の仕方を間違えた。
やり直し。
「どうやって温めてるんですか?」
「ここは鉱山都市だ。」
「そう聞きました。」
「鉱山都市には鍛治士がいっぱいいる。」
「鉱石がいっぱいありますもんね。」
「だから温まる。」
あれっ、また間違えたかな。
ルルさんの答えって突然飛ぶからな。
もう一度やり直し。
「鍛治士がいっぱいいると、温まるんですか?」
「そうだ。」
「なぜ温まるんですか?」
「鍛治士に必要なものは何だ?」
「材料の鉱石と金属を打つ道具と・・・・・そうか炉だ!」
ようやく答えに辿り着いた。
ララピスでは鉱石がいっぱい取れる。
材料があるので鍛治士が集まる。
鍛治をするには炉が必須。
鍛治の炉からは大量の熱が出る。
その熱を利用してるってことか。
「炉はすべて壁際にある。あれがそうだ。」
ルルさんが指差す方を見ると、確かに岩壁沿いにそれらしき建物が見える。
「上に煙突が見えるだろう?」
「あの、壁にくっついてる管みたいなのですか?」
「そうだ。あれで煙と熱を逃がしている。」
「排煙と排熱ですね。」
「煙は外へ出し、熱はこの街の上に溜まる。」
「なるほど。」
理解しました。
閉鎖空間なので、煙は外へ出さないと空気が汚れてしまう。
一方で熱は光源を確保するために再利用する。
おそらくララピスの街の気温調整とかも炉の熱を利用してるんじゃないだろうか。
「明るいし、暖かいし、なんか地下にいる気がしませんね。」
「言っただろう。普通の街だって。」
「山エルフの街なんですよね。」
「そうだ。他の種族も混じってるがな。」
街が近付いてくると、人々の姿がはっきり見えるようになった。
確かにエルフっぽい人(僕基準で)が多いけど、別の種族っぽい人たちもけっこういる。
「ここは誰でも入れるんですか?」
「入れるぞ。」
「もっと閉鎖的な街をイメージしてました。」
「なぜだ?」
「山の地下にあるし、入口も分かりにくいし、入口にモノリリスたちもいるし。」
「事前に連絡すればもっと簡単に入れる。」
ルルさん、事前に連絡してきちんと許可を取ればスムーズに入れたってことですよね。
それならなぜそうしなかったんですか。
「旅は不確定要素があるから楽しいんだ。予定通りじゃつまらんだろう?」
ルルさんは僕の目を真っ直ぐに見てそう言った。
もっともらしいことを言ってるけど、自分のミスを隠蔽してるようにも聞こえる。
ただ視線が上を向いていないので、今回は本気で言ってるようにも思える。
ルルさんの答えに疑問を抱いていると、僕の中に新たな疑問が生まれた。
「ルルさん、事前の許可とか連絡って、どうやって取るんですか?」
「商人ギルドとか冒険者ギルドに言えば、連絡してくれるぞ。」
「ギルド間に連絡手段があるんですね?」
「そうだ。」
ここまでルルさんと話をして、僕はある決意をした。
これからは、自分で考えて、自分で準備して、自分で行動を決めようと。
ルルさんに任せると、どこまで振り回されるか分かったもんじゃない。
ということでとりあえず、次の一手は。
「ルルさん、ララピスの商人ギルドに転移しましょう。」
「街の見物はいいのか?」
「それは後でします。」
「分かった。リベルは任せた。」
ルルさんはそう言い残すと、さっさと一人で転移してしまった。
僕は、ようやく追いついてきたリベルさんの腕を掴んで、すぐにルルさんの後を追って転移した。
商人ギルドの建物はどの街でも同じような造りをしている。
表通り側は白い石造りの3階建てで、裏側に荷物を捌くためのバックヤードと倉庫がある。
正面玄関の脇には必ず旗が掲げられていて、礼儀正しい執事のような門番が立っている。
商人ギルドの旗は基本的に上部に金貨、銀貨、銅貨が描かれていて、
支部によって下部の絵が変わるようだ。
ここ、ララピス支部の旗にはモグラのような生物と金槌が描かれていた。
「ウィン、商人ギルドに何の用だ?」
先に転移して商人ギルド・ララピス支部の前で待っていたルルさんがそう尋ねてきた。
「ジャコモさんとの約束を先に果たしておこうかと思って。」
「ジャコモとの約束?」
「はい。新しい街に行ったら、商人ギルドの裏庭に『小屋』を設置することってやつです。」
僕の答えを聞いてルルさんが怪訝そうに小首を傾げた。
以前、きちんと伝えたはずだけど興味がなくて覚えてないんでしょうね。
まあそこはいつも通りなのでスルーします。
「ウィンさん、『小屋』を出しておけば、またいつでも来れますね。」
「そうだね。」
「じゃあさっさと終わらせて屋台巡りに行きましょう。」
リベルさん、やっぱり食い気優先なんだね。
まあ僕もこの街の料理には興味があるから異論はないけど。
ジャコモさんに依頼された『小屋』の設置だけど、僕とルルさんは『小屋』がなくても『転移』で来れるんだよね。
ただ、『小屋』があったほうがいろいろ便利なのは確かだ。
他のメンバーの移動には『小屋』を通じての方が便利だし、郵便機能で情報の伝達もできる。
特に従魔たちは、『小屋』があれば自由に出入りして、勝手に素材とか食材とか魔物とか集めてくれるし。
魔物は程々にして欲しいけど。
そんなやり取りをしながら、そろそろ商人ギルドに入ろうかと思っていると、いきなり商人ギルドの扉が中から勢いよく開いた。
「おい、ちんまり、着いたらぐずぐずしてないでさっさと入って来い。待ちくたびれるだろうが。」
中から現れたのは『筋肉執事』こと、商人ギルド・アマレ本部のギルド長ルカさんだった。
扉を開いた状態で早く来いと手招きしている.
ルカさんがなぜここに?
しかも待ってたってどういうこと?
約束とかした覚えはないんだけど。
僕の頭の中で?マークが飛び交った。
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