第156話 魔術師ギルドに登録できない理由(特別に異常な魔法魔法:ウィン)
第三章 世界樹の国と元勇者(156)
(アマレパークス編)
156.魔術師ギルドに登録できない理由(特別に異常な魔法:ウィン)
僕は両手で頭を押さえて、うずくまった状態でルルさんを見上げた。
ルルさんは仁王立ちで僕を見下ろしている。
「ルルさん、痛いんですけど。」
「ウィン、何度言えば分かるんだ。」
「何がですか?」
「何か思い着いたら実行する前にまず説明しろと言ってるだろう。」
「説明しても信じてもらえないから実演したんじゃないですか。」
「普通の人間はな、情報が多過ぎると頭がパンクするんだ。」
そう言われてルルさんの後方を見ると、ジャコモさん、シルフィさん、ルカさんの3人が、三者三様に固まっていた。
ジャコモさんは、「フォッフォッフォッ」の「フォッ」の形に口を開いたまま、そこで時間が止まったかのように静止している。
シルフィさんはいつもの無表情のままで姿勢良く椅子に座ってるけど、よく見ると瞬きひとつ、身じろぎひとつすることなく、精巧な蝋人形のようだ。
ルカさんは椅子から立ち上がった体勢のまま、目と口を大きく開いて固まっている。
かっちりしていた短髪の髪型も少しだけ乱れている。
僕は立ち上がって、恐る恐るルルさんを見た。
「ルルさん、どうしてこうなるんですかね?」
ルルさんは呆れた顔しながら僕の質問に答える。
「だから、ウィンが魔法を見せたからだ。」
いや、そこじゃなくてですね、僕の魔法について議論していて、信じる信じないの話になったから実演したって流れの中で、なぜこんなに驚かれるのかって部分が理解できてないんですけど。
ルルさんは納得がいっていない僕の顔を見てさらに話を続けた。
「ウィン、ウィンは異常だ。それは分かっているか?」
「たくさんの種類の魔法が使えるからですか?」
「違う。ウィンの一つ一つの魔法自体が、異常なんだ。」
魔法自体が異常?
ルルさん、できるだけ分かりやすく、説明プリーズ。
ルルさんは僕の表情を見て、ひとつ溜息をついた。
言葉にしなくても僕の思いが通じたようだ。
最近、僕とルルさんの間で以心伝心が高いレベルで可能になってる気がする。
もう念話レベルと言ってもいいかもしれない。
「まず水の魔法だが、グラスごと飲み水を出す魔法など他にはない。」
はい、それはちょっと変だなと思ってました。
水魔法で出るのは水ですよね。
グラスは出ないですよね、普通。
「次に錬金魔法だが、石の塊を一瞬でテーブルに変える魔法もない。」
ええ、それも錬金とはちょっと違うなと思ってました。
今回の場合はどっちかっていうと彫刻? 工作?
でもなぜか変質も変形も『錬金』に含まれちゃってるんですよね。
「さらに氷魔法だが、同じ形の氷を大量に作り出し、それを正確に5つのグラスに分け入れる技量など見たことがない。」
そうなんですね。
魔法で細かい作業をするのは難しいのか。
最近、大きさとか量とかコントロールとか、割と自由自在なんですけどね。
「それから従魔の召喚はまあ置いておくとして、薬草魔法、おにぎり魔法は論外だ。私だって初めて見た。」
そう言えば、ルルさんの前で出したことなかったっけ?
さりげなく出してたから、どこから出したか分かってなかったのかもしれないな。
「最後に料理魔法だが、なんだあれは? 素材が一瞬で料理になるなど・・・・・羨ましすぎる。あれが使えれば私だって料理ができるじゃないか。」
確かに『料理』は、まだ一度もルルさんに見せてなかった。
でもルルさん、料理できないんですね。
テンプレ外しで、実は超絶料理が上手いとか、ちょっとだけ期待してたんですけど・・・。
「ということで、ウィン、使える魔法が多いのも異常だが、その前に使う魔法一つ一つが異常なんだ。もう少し弁えろ。」
「・・・分かりました・・・。」
一応了解の返事をしておいたけど、弁えられるかな?
自分で言うのも変だが、僕の辞書には「自重」という言葉がないような気がする。
でもとりあえず「行動の前に説明」と心のメモ帳に書いておこう。
「・・・フォッフォッ・・・。ふぅ、ウィン殿、聞くと見るでは大違いじゃのう。多種多彩な魔法を使われるとは聞いておったが、これほど特異な魔法じゃったとはのう。」
ようやくジャコモさんが復活し、僕に話しかけてきた。
とくい?
得意?
特異か。
特別に異常ってことだな。
「ルカ殿、シルフィ殿、分かりましたかな? これを魔術師ギルドで見せると、この世界の魔術師の歴史が根底からぶち壊されて粉々になってしまいますのじゃ。」
ジャコモさんが2人に語りかけると、2人の目が同時に瞬いた。
シンクロ再起動?
「・・・ウィン! 貴様はいったい何だ!」
正気に戻ったルカさんがいきなり叫んだ。
「何者だ!」じゃなくて「何だ!」って訊かれちゃいましたよ。
僕ってオカルト的存在なのかな。
「ええっと・・・ヒト族?・・・のようなもの?」
「自分の種族をなぜ疑問形で答える! それに、のようなものって何だ!」
そう言われても、種族の項目に「ヒト族?」って出てるから、どう説明していいのやら。
「まあまあルカ殿、そんなことはどうでもいいことじゃ。ウィン殿はウィン殿じゃからのう。」
「ジジィ、とんでもない爆弾を持ち込みやがって。どうしてくれるんだ。」
「どうするも何も、ウィン殿のおかげで海の異変が解決できたんじゃし、その上これだけウィン殿が自らの情報を開示したんじゃ、ルカ殿にもきっちり見返りを出してもらわんとのう。」
あっ、ジャコモさんの目が鋭くなってる。
あれは大商人「コロンの白鯨」の顔だ。
でも見返りって、何を求めるんだろう?
「ジジィ、よくも抜け抜けとそんなことが・・・。しかしまあ、助けられたのは事実。対価を支払わなければ商人の名折れ。ジジィ、何が欲しい?」
「フォッフォッフォッ、さすがルカ殿、熱くなっておっても根っ子は冷静じゃのう。では対価を提示させてもらおうかのう。」
ジャコモさんはそこで一呼吸置いた。
「ズバリ、ウィン殿に関する情報の秘密保持。」
「当然だ。取引相手の情報を漏らしたりはしない。」
「と、もう一つ。」
「まだあるのか?」
「ある。ルカ殿には『ウィン殿を見守る会』に入会して頂こうかのう。」
僕を見守る会?
何だそれ?
そんなものいつできたの?
本人は何も聞いてないんですけど。
「何だ、その珍妙な会は? なぜこのちんまりを見守らないといけない?」
「フォッフォッフォッ、それはルカ殿、面白いからに決まっておる。こんな機会、逃すものではないぞ。商人としても、人としてものう。」
ちょっとジャコモさん、いい話ふうに語ってるけど、それって「ストーカー同好会」じゃないのかな。
しかも現在の会員はジャコモさんだけだよね。
そういうの、広めないで欲しいんだけど。
そんな抗議の思いを胸に抱いていると、いつの間にか2本の手がまっすぐに上がっていた。
「その会員の1号はもちろん私だ。」
「わたくしも入会させて頂きますわ。」
ルルさん、シルフィさん、ジャコモさんが調子に乗るので、そういう態度はやめてもらえませんか。
ほらそこでどっちが1号会員だとか、争わないように。
ルカさん、「それなら仕方ない」って、日和ってる場合じゃないでしょう。
今までの強気キャラはどこに行っちゃったんですか。
キッパリ否定して下さい。
ジャコモさんも、その「作戦通りじゃのう」みたいなニンマリした笑顔、やめてもらえませんか。
そんな会、僕は断固認めませんからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます