第155話 魔法でランチセットを作ってみます(実演:ウィン)
第三章 世界樹の国と元勇者(155)
(アマレパークス編)
155.魔法でランチセットを作ってみます(実演:ウィン)
商人ギルド・アマレ本部のギルド長室は、豪華ではないが質の良さそうな調度品で占められている。
執務机はほとんど装飾がなく、実務向けの作りに見えるけど、素材は高級木材のようだ。
応接セットも懇談用というより会議用に近く、椅子の硬さも固過ぎず柔らか過ぎずといった感じで、長時間座っても疲れにくいタイプが選ばれている。
壁際には大きな棚がいくつも並び、そこには書籍ではなく多くの資料が整然と並べられていた。
執務机の前で立ったまま話をしていたギルド長のルカさんは、ジャコモさんの話をじっくり聞くためだろうか、応接セットの椅子に腰を下ろした。
同じく立ったままだった僕たちも、ルカさんに合わせてソファに座る。
全員が着席すると、白髭で巨体のドワーフ、ジャコモさんが一同をゆっくりと見回した後、語り始めた。
語ると言っても、第一声は僕への質問の形だったけど。
「ウィン殿、貴殿の魔力の数値を教えてくれんかのう。」
ジャコモさんは初対面の時に僕を鑑定したはずなので、この質問の答えは知ってるはずだ。
あえて尋ねてきたのは、他の人たちにはっきり認識させるためだろう。
「魔力は0です。」
隠すつもりもないので素直にそう答えると、案の定、様々な反応が返ってきた。
「ジジィ、いくらこのちんまりでも、魔力0などあり得ないだろう!」
「ウィン様、魔力0ではテイムはできませんわ!」
あのう、ルカさん、驚くのは構いませんが「ちんまり」は、もうやめてもらえませんかね。
それからシルフィさん、魔力がないとテイムってできないんですね。
新しい情報、ありがとうございます。
そんなことを思っていると、後ろからいるはずのない人の声が聞こえた。
「筋肉執事、ウィンはただのちんまりではない。凄いちんまりだ。」
あれ、ルルさんいつの間に。
『小屋』にいたはずじゃ・・・。
「こちらの方が心配だったのでな。小屋の中は従魔たちに任せてきた。」
そうなんですね。
でもルルさん、「凄いちんまり」って・・・・・
たぶん擁護してるつもりでしょうけど、より酷くディスってるように聞こえますよ。
けっこうHPを削られるんですけど。
「フォッフォッフォッ、ルル殿も心配性じゃのう。でもルカ殿、シルフィ殿、魔力については事実じゃからのう。ちゃんと人物鑑定で確認済みじゃ。」
「ジジィ、それは偽装ではないのか?」
「それはないのう。偽装に騙されるほど、耄碌はしとらんのでのう。」
ジャコモさんは一瞬鋭い視線をルカさんに向けてから僕に次の質問を投げてきた。
「ウィン殿、魔法はいくつ使えますかのう?」
ジャコモさんが次の質問を投げた。
この質問は予想してたけど、正直、数え方がよく分からないんだよね。
どう答えればいいかな?
そのまま訊けばいいか。
「ジャコモさん、まず魔法の数え方を教えて下さい。」
そう返すとルカさんとシルフィさんが何か言いたそうにしたけど、そのまま言葉を抑えたようだった。
途中で口を挟むより、成り行きを見守ることにしたんだろうな。
「ウィン殿にはそこから説明すべきじゃったのう。普通の魔術師からは出てこん質問じゃ。たいていの者は使える魔法なんぞ片手があれば足りるからのう。ウィン殿、一応現在の魔法は、属性と個別の魔法という仕訳になっておる。火魔法、水魔法、土魔法、風魔法といった区分が属性で、その中に個別の魔法が位置付けられておるのう。」
そこからしばらくはジャコモさんの魔法に関する説明が続いた。
魔法の属性は火、水、土、風以外にも、光、闇、氷、雷などがあり、少し特殊なものとしてテイム、防御、耐性、鑑定など、レア魔法としては空間、時間などがあるそうだ。
ちなみに職業スキル的なものも魔法の一種とされているらしい。
そしてそれぞれの属性の中に、形状や効果、難易度が異なる個別の魔法があるとのこと。
例えば、火魔法の中に、火球(ファイヤーボール)や火矢(ファイヤーアロー)、火壁(ファイヤーウォール)があるってことだな。
そうなると魔法の数って言われても、ますます数えるのが難しい。
適当にいろいろ変形させちゃってるし。
それから複合魔法とかはどういう扱いになるんだろう。
それにしてもジャコモさん、商人なのにどうしてこんなに魔法に詳しいんだろう?
いや商人だからか。
商人にとっては、あらゆる知識が武器になりそうだからね。
「それでウィン殿、いくつの属性を使えるのかのう?」
「分類が正確じゃなくてもいいですか?」
「もちろんじゃよ。思いつくままで構わんので、教えてもらえんかのう。」
ポルトの冒険者ギルドでも適当に答えていくつか抜けてたけど、今回も完全に答えられる自信はない。
まあ、まともに全部教える必要もないんだろうけど。
「ええっと、まずは火と水と風と氷と・・・それから石?」
「ちょっと待て。」
最初に基本っぽい魔法属性を列挙するとルカさんから「待て」がかかった。
『石』がおかしかったのか?
ちょっと迷ったんだよね。
もしかすると『石』って、土魔法の一部なのかもしれないし。
「ジジィ、このちんまりは何を言ってるんだ。5属性も使える魔術師がその辺に転がっていてたまるか。」
あっ、そっちの指摘ね。
やっぱりそうなるのか。
普通は使える魔法の属性はそんなに多くないってことだよね。
「フォッフォッフォッ、ルカ殿の言葉ももっともじゃな。普通は1属性、かなり優秀な魔術師でせいぜい3属性。5属性となると宮廷魔術師の中でも滅多におらんのう。」
「その通りだ。初級魔法を極小規模で使える程度なら5属性もあり得るがな。それでも多重属性持ちは稀少だ。」
ジャコモさんとルカさんの会話を聞いてこの世界の魔法の常識的なラインがある程度把握できた。
属性1つで普通。
属性2つで優秀。
属性3つで超優秀
属性4つで天才。
属性5つで伝説級。
こんな感じかな。
まあ属性の数だけじゃなく、魔法の難易度や発動速度とか、他の要素もあるとは思うけど。
それにしても改めて事情が分かると、コロンの冒険者ギルドのネロさんとグラナータさんが僕の魔法(スキル)の数を聞いてどれだけ驚いたかが理解できる。
「じゃがのう、ルカ殿。もうしばらく我慢してもらえんかのう。ウィン殿の話はまだ始まったばかりじゃ。まだまだ先があるんでのう。」
ジャコモさんはそう言って一旦ルカさんとの会話を切ると、僕に続きを促してきた。
「ウィン殿、続きを。」
「はい、あとテイムと耐性がいくつかと鑑定が5つ?」
「おい!」
再びルカさんが声を上げたけど、ジャコモさんが手を上げて制した。
いちいち絡んできそうなので、一気に喋っちゃおう。
「それから、転移と収納は空間? 小屋も空間か。マジックバッグの時間停止機能は時間? あと錬金と料理に・・薬草とおにぎりは属性なのかな? 他にもあるけどとりあえずこんな感じ?」
なんか途中で面倒になってきて、適当に端折っちゃったけど、まあいいよね。
「ふん、話にならんな。法螺話もここまで大法螺ならいっそ清々しいがな。」
ルカさんに嘘つき認定されてしまいました。
まあ逆の立場だったら、僕もそう判断すると思います。
「ウィン様、テイマーとしての規格外さを目の当たりにしたわたくしでも、そこまでの話をそのまま信じるのは難しいですわ。」
シルフィさんは半信半疑ってところかな。
それもまた仕方ないよね。
「ウィン殿、わしの予想を大きく上回る属性数じゃが、わしは別に驚きはしませんのう。ルル殿はどうかのう?」
「私はほぼすべて見たことがある。ウィンの言葉に嘘はない。」
懐疑派が2人に肯定派が2人。
僕としては信じてくれてもくれなくてもどうでもいいんだけど。
ただ、ルルさんの言葉を聞いて懐疑派の2人がちょっと動揺している。
聖女様に「見たことがある」って言われると、否定しにくいよね。
そうか、いい事思いついた。
全員、「見たことがある」状態にしちゃえばいいんだな。
「では、ちょっと後ろのスペースを使わせて頂きます。」
僕はそう言って立ち上がると、部屋の中の空きスペースに移動した。
そして声に出してクエストを発動させる。
「石、錬金、水、氷、薬草、おにぎり、召喚、料理。」
空きスペースの床に大きな石の塊が出現し、それを錬金で石のテーブルに変え、グラスに入った水を5つ出し、その中に氷を入れ、薬草とおにぎりを出して、従魔たちを召喚し、従魔たちが持ってきた食材を料理で調理した。
あっという間にランチテーブルの出来上がり。
まだ抜けてる魔法があるけど、『炎』と『風』は室内では危ないし、『鑑定』と『耐性』は見せにくいからね。
『料理』は、炎が出たけど石のテーブルの上だったのでセーフ扱いということで。
さて、これでいかがでしょう?
パシン。
みんなの方を振り返ろうとしたところ、いきなりルルさんに頭をはたかれた。
僕は頭を抱えてうずくまる。
とても痛い。
いったい何が起こった?
それにしてもルルさんのハタキ、めっちゃ痛いんですけど。
グーパンじゃなかっただけマシだけど。
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