第154話 コンプリートは目指していません(ギルド登録:ウィン)

第三章 世界樹の国と元勇者(154)

   (アマレパークス編)



154.コンプリートは目指していません(ギルド登録:ウィン)



「なるほど、碧の海の海底の洞窟に具合が悪くなった海竜の幼体がいて治療してきたと。それで異変が解決したと。」


ルカさんは僕の説明を短くまとめてそう確認してきた。


「その通りです。」


何も間違いはないので僕はそのまま肯定する。


「その荒唐無稽な話をそのまま信じろと?」


ルカさんはそう言いながら、その濃い紫色の瞳で鋭く僕を睨んできた。


「荒唐無稽とは? どの辺が?」


事実しか話していないので、僕は素直に疑問を返す。

ルカさんは僕の反応を見て、一度視線を上に向けてからもう一度僕を見た。

怒鳴りたい気持ちを押さえ込んだのかもしれない。


「ではまず一つ目の疑問だが・・・ウィン君の従魔が海の魔物をすべて討伐したということだが、そんなことが可能なのか?」

「はい、タコさんが200体程の魔物をグルグルしてポイポイして討伐しました。」

「グルグル? ポイポイ? 意味が分からん。その従魔はクラーケンだとでも言うのか?」

「いえ、どちらかというとメンダコっぽい?」

「メンダコがどうやって200体の魔物を討伐するんだ?」

「だから、グルグルしてポイポイと・・あっ、ちなみにタコさん星4つなんで。」

「あり得んだろう!」


僕が異変を解決した経緯について一通り説明する間、ルカさんは黙って聞いていたので、そのまま話を受け入れてくれてるんだと思ってたけど、そうじゃなかったみたいだ。

このままだと収集がつかない気がする。


「ルカ様、ウィン様の言葉は事実ですわ。『タコさん』は星4つの魔物で間違いありません。わたくしが鑑定し、従魔登録も済ませております。」


シルフィさんが助け舟を出してくれた。

一緒に来てもらって本当に良かった。

僕一人だったらどうにもならなかったと思う。


「なんだと。シルフィ、それは本当か?」

「もちろん。わたくしは従魔に関しては、嘘など申しませんわ。」


シルフィさんが断言すると、ルカさんはそれ以上何も言わなかった。

でもシルフィさん、その言い方だと、従魔以外のことは嘘をつくかもってことになりませんか。

まあ大人の事情が絡むような時には、駆け引きとかいろいろあるんでしょうけど。


そんな風に僕の思考が横道に逸れていると、ルカさんから次の質問が来た。


「分かった。従魔の件はとりあえずよしとしよう。いや、それはそれでかなり問題なんだが・・・。次の疑問は海竜の治療についてだ。なぜ都合よく『聖薬草』を持っていた?」

「えっ? いっぱい持ってますよ。」

「そんな訳があるか。『聖薬草』は超希少品だぞ。ここ数年は市場にも出回っていないはずだ。」


ああ、なんか前に聞いたことがある話だな。

ここはジャコモさんにお願いしよう。

ジャコモさん、どうぞ。

助け舟を一つ、お願いします。

僕の視線に気づいたジャコモさんが、心得たとばかりにしゃべり始める。


「ルカ殿、ルカ殿の認識も間違ってはおらんが、ウィン殿には当てはまらんのじゃ。わしは先日、ウィン殿から『聖薬草』を50束、買い取らせてもろうたからのう。」

「ジジィ、そんな戯言を俺に信じろというのか?」

「戯言も何も、真実じゃからのう。」


やっぱり言葉だけじゃすんなりは行かないか。

ルカさんとジャコモさん、商人同士だしね。

もしかすると騙し騙されの壮絶な駆け引きの世界で生きてるのかもしれないし。

まあ、百聞は一見に如かずだな。


「ルカさん、はい。」


僕はそう言って、聖薬草の束を5つほどルカさんに渡した。

何束渡そうか迷ったけど、1束より5束の方が説得力があるからね。


「なんだこれは・・・・・」


ルカさんの言葉が途中で止まった。

手の中の薬草の束を凝視している。

魔力は使ってるように見えないので、植物鑑定というより、商人としての生の眼力で観察しているのだろう。


そう言えば、魔力感知クエスト、第一段階で止まってるな。

ていうか途中で放置してるクエストがいっぱいある気がする。

一度整理しないとな。

そんなことを考えていると、


「・・・聖薬草を普通に持っているということは理解した。」


しばらく聖薬草の葉を裏返したり匂いを嗅いだりしていたルカさんが、会話を再開した。

検分した後の聖薬草は執務机の奥の方に置かれている。

どうやら僕に返す気はないらしい。


「後で代金、頂きますので。」

「分かっている! 次の質問だ!」


ルカさんは呼吸を落ち着けるための間をとって、次の疑問に移った。


「海竜の状況をどうやって把握した?」


ルカさんの言葉がだんだん短くなってきている。

頭の中の整理が追いついていないのかもしれない。


「海竜に直接聞きましたよ。」

「言葉が通じないのに、どうやって聞くんだ?」

「いえ、普通にしゃべりますよ、海竜。」

「・・・・・」


とうとう反論する元気も無くなったのか、ルカさんは無言のまま視線をジャコモさんとシルフィさんに向けた。


「ルカ殿、ウィン殿の言う通りじゃよ。今回の海竜は人の言葉をしゃべるんじゃ。」

「ルカ様、わたくしも直接確認しております。」


ジャコモさんとシルフィさんは、僕のために助け舟を連投してくれた。

でもこの助け舟には、ルカさんがすぐに噛み付く。


「ジジィ、シルフィ、いったいいつどこで海竜に会ったんだ?」


ルカさんの指摘を受けて、ジャコモさんとシルフィさんはお互いに顔を見合わせると、二人とも「どうぞ」って感じで両手を僕の方へ差し出した。

『小屋』の説明とかが絡むから説明を僕に一任したんだろうけど、わざわざシンクロで動く必要ないよね。

言葉で言えば済む話だし。

まあ、ジャコモさんとシルフィさんの無言のシンクロ、ちょっと面白かったけど。


「ルカさん、そこは冒険者の秘匿事項でお願いします。」

「冒険者登録してるのか?」

「してますよ。」


そう答えながら、僕は冒険者カードをルカさんに差し出した。

ルカさんはそれを受け取ると、裏表をじっくりと時間をかけて確認した。


「確かに本物だな。しかし、冒険者登録以外に、商人ギルド、鍛治士ギルド、テイマーギルドとは・・・。ギルド登録のコンプリートでも狙ってるのか。」


ルカさんが呆れたような顔でそう言った。

うん、それには僕も若干同意します。

でも成り行きで仕方なかったんです。

『収納クエスト』の達成目標でもあったので。

でもコンプリートを目指している訳ではありません。

暗殺者ギルドとか、無理ですし。



「フォッフォッフォッ、ルカ殿、それだけウィン殿が多才ということじゃよ。最初の紹介でわしが言ったじゃろう。ウィン殿は、稀代の魔術師、偉大なるテイマーにして不世出の鍛治士、そしてわしの後継者じゃと。」


ジャコモさんが、30分で食べ切ったら無料になるメガ盛り料理のような説明を繰り返した。

ジャコモさん、本当に胸焼けしそうなんで、その紹介の仕方はやめませんか。


「ジジィ、稀代の魔術師といいながら魔術師ギルドの登録がないのはなぜだ?」

「ほほう、さすがルカ殿、よくそこに気付かれましたのう。」


言われてみるとその通りだな。

ジャコモさんは鍛治士ギルドに連れて行ってくれたし、テイマーギルドにも現れた。

でも今まで魔術師ギルドのことに触れたことはない。

僕の従魔のことをあれだけ詳しく知ってるんだから、僕の魔法(クエスト)のことについても情報を持ってるはずなのに、どうしてだろう?


「ルカ殿、正直に言わせてもらうんじゃが、ウィン殿の魔法については、わしでも見極められんのじゃよ。今のまま魔術師ギルドに行けば、おそらく大混乱になるじゃろう。」


ジャコモさんが真剣な顔でそう言った。

すると隣にいるシルフィさんがジャコモさんに向かって口を開いた。


「ジャコモ様、恐れながら言わせて頂ければ、テイマーギルドは既に大混乱ですわ。3体の従魔を従えられれば伝説級のテイマーと言われている中で、7人の従魔を従えるウィン様が現れたのですから。しかもその7人が全て規格外の魔物となれば、テイマーの世界の常識が根底から覆りますわ。」


シルフィさんの言葉を受けて、ジャコモさんは一つ大きく頷いてから答えを返した。


「シルフィ殿、貴殿の言われることはもっともじゃ。じゃがのう、ウィン殿の魔法はそういう話とは次元が違うのじゃ。ウィン殿、話してしもうても良いかのう?」


ジャコモさんが僕に確認してきた。

しかし、良いも悪いも、ジャコモさんが何を話そうとしているのかが僕には検討がつかない。

魔法(クエスト)については、説明が面倒なので自分からは話さないだけで、特に隠そうとしてる訳でもないので、僕は黙って頷いた。


「うむ、ウィン殿の了解も得たことじゃし、わしの分かる範囲で話させてもらおうかのう。」


ジャコモさんはそう前置きして、僕の魔法について語り出した。



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