第153話 串焼き同好会結成?(リベルとリーたん)
第三章 世界樹の国と元勇者(153)
(アマレパークス編)
153.串焼き同好会結成?(リベルとリーたん)
「ウィン、幼女が趣味ということでは、ないのだな?」
「当たり前です。そんな趣味はありません。」
「あの幼女が海竜なら、最初からそう言えばいいじゃないか。」
「初めからそう言ってるじゃないですか。」
「ウィンの説明は分かりにくいのだ。」
「ルルさん、あなたにだけは言われたくありません。」
僕たちは現在、従魔たちが整え直したリビングで、ソファに座って話し合っている。
座っているのは、言い合いをしている僕とルルさんの他に、ジャコモさん、シルフィさん、リベルさん、そして再び人化して幼女に戻ったリーたん。
リベルさんとリーたんは両手に串焼きを持って、もぐもぐしている。
もちろん僕がマジックバッグから出して渡したものだけど、なんか和気あいあいな感じで一緒に食べている。
「このエビラの塩加減がいいよねぇ〜」
「カニラの甲羅の香ばしさも捨てがたいと思うの。」
「サンマーラのお腹の苦味も、いいアクセントだよねぇ〜」
「私、そこは苦手なの。」
「リーたんも大人になれば分かるようになるさ。」
そんな会話が聞こえてくる。
ていうか、腹ペコ勇者、リーたんは君よりかなり年上だからな。
でもどうやら「串焼き同好会」が結成されてしまったようだ。
串焼きで餌付けは、今後考え直すべきかもしれない。
「ところでウィン様、1つ気になることがあるのですが。」
アマレも港町だから串焼き売ってるよな、もうそろそろ補充しないとなとか考えていると、シルフィさんが真剣な表情で僕に話しかけてきた。
リーたんの生態についてとか訊かれるんだろうか。
でも僕も鑑定で分かること以上には何も情報がない。
テイマーギルドのギルド長だけに、海竜をテイムできるかどうかを気にしてる可能性もある。
「何でしょう?」
「先ほどからウィン様がおっしゃられている『リータン』という言葉は、どういう意味でしょうか?」
えっ?
気になることってそんなこと?
海竜の生態とかテイムの可能性じゃなくて?
『リーたん』の意味って言われても、名前に決まってるよね。
特に意味を持たせたわけでもないし。
「彼女の名前ですけど。」
僕は、串焼きに齧り付いているリーたんをさし示しながらそう答えた。
「名前? 名前はリバイアタンでは?」
「ああそういうことですか。正式名はリバイアタンです。鑑定で見ると、種族は海竜、個体名がリバイアタンと表記されてました。」
「ではなぜ、『リータン』と?」
「リバイアタンだと長いので、僕が呼び名をつけました。」
しばらく沈黙が続く。
なぜか誰もしゃべらない。
「串焼き同好会」の2人は、もぐもぐし続けてるけど。
「ウィン様、大変失礼な質問ですが、本人はその呼び名で承諾されたのでしょうか?」
「そうですね。最初は嫌がりましたけど、もう決めちゃったので。」
僕がそう言うと、どこからともなく溜息が聞こえた。
今の溜息、ルルさんですか?
あっ、そこっ、ジャコモさん、どうして天井を見上げてるんですか?
「承知いたしましたわ。確認ですが、従魔の皆様のお名前もウィン様がお付けになられたのでしょうか?」
「そうです。」
「・・・納得いたしました。」
シルフィさん、いったい何を納得したのだろう?
やっぱり名前の付け方に問題があるのだろうか?
僕は別に鈍感系じゃないので、自分に名前を付けるセンスがないことは理解している。
でも自分の子供の名付けでもないのに、いちいち洒落た名前を熟考しなきゃいけない義務とかあるんだろうか?
分かりやすくて、呼びやすければそれでいいと思うんだけど。
タコさんの名前が「ルシファー」とか、ウサくんの名前が「ラファエル」とか、ディーくんの名前が「アシュラ」とかだったら・・・。
いや、このネーミングもセンスがいいとは言えないな。
「フォフォフォ、ウィン殿には天が二物も三物も、いや十物くらい与えておると思っておったんじゃが、不得手なこともあるんじゃのう。」
「ジャコモさん、当たり前じゃないですか。苦手なことはいっぱいあります・・・たぶん。」
断言しようとしてちょっと語尾を濁してしまった。
まあ、自分自身、自分のことをまだ全然把握できてないからね。
そんなネーミング談義をしていると、視界の中に「中の侍」さんからメッセージが表示された。
…うぃん殿、『便り』が参りましたので表示するでござる…
『ウィン様
商人ギルド・アマレ本部へお越し頂けますか?
ギルド長がお会いしたいとのことです。
よろしくお願いいたします。
商人ギルド・アマレ本部職員』
ルカさんからの呼び出しだった。
そう言えば、『碧の海の異変』を解決した後、港の大宴会に参加してそのまま小屋に戻ってきたので、商人ギルドには何も報告してなかったな。
まあ、正式な依頼を受けたわけでもないから報告の義務もないと思うけど、礼儀的には一度行っておいた方がいいよね。
人間関係はできるだけコジらせない方がいいからね。
「ジャコモさん、ルカさんから呼び出しです。ちょっと行ってきます。」
「ウィン殿、わしも行きますのじゃ。」
「ウィン様、わたくしも一緒に参りますわ。」
商人ギルドに行くことを告げると、すぐにジャコモさんとシルフィさんが同行を申し出てくれた。
ルルさんも何か言いそうになったのでその前に僕が希望を口にした。
「ルルさん、申し訳ないんですけどここに残ってもらえませんか? あの2人だけにするのは、正直不安しかないので。」
「・・・しょうがない。了解した。子供たちのことは、私が見張っておこう。」
ソファに座って串焼きをガジガジしている2人を見ながらの僕の言葉に、ルルさんは不承不承といった感じで頷いてくれた。
ルルさんの中では、リベルさんは子供に分類されているようだ。
「では、ジャコモさん、シルフィさん、行きましょうか。」
そう言って僕は、ソファから立ち上がった。
商人ギルド・アマレ本部のギルド長室に入ると、ギルド長のルカさんが執務机の前に立ったまま僕達を待ち構えていた。
「ジジィ、来るのが遅えじゃねぇか!」
「はて? 何か約束でもしておったかのう?」
「異変を解決したんなら、すぐに報告に来るってのがスジじゃねぇのか!」
「これは異なことを申されるのう。報酬を提示されたわけでもないのに報告義務があるなど、どこの世界の取引じゃろうか?」
「ぐっ・・・」
ルカさん、行動力があって押し出しも強く、きっと優秀な商人かつギルド長なんだろうけど、ジャコモさんの方が何枚も役者が上だよな。
こればっかりは経験値の差だろうな。
「その通りだな。俺が悪かった。ちょっと焦りすぎた。」
ルカさんは姿勢を正すと僕たち3人に向かって頭を下げた。
ちょっとびっくり。
もっと文句を言ってくるかと思っていたら、あっさり自分の非を認めて謝るなんて・・・。
ルカさんの評価、かなり上方修正。
「申し訳ないが報告をお願いする。外の奴らは脳天気に異変が解決したって大騒ぎしてるやがるが、こちらとしては正確に状況を確認してからじゃないと警戒を解けない。多くの船が出航許可を待ってる。多くの人の生活もかかってる。頼む。」
おお、男前じゃないですか。
いや元々、物凄く渋いイケオジですけど。
言葉遣いは荒っぽいけど、内面に秘めた仕事に対する真摯な想いをチラ見せするとか、ちょっとズルすぎるよね。
「ルカ殿、そういうことであれば承知じゃ。詳細、説明させて頂こうかのう・・・ウィン殿から。」
あっ、また丸投げですか。
そうですか。
まあ、そうなりますよね。
直接全部関わってるのは僕だけだからね。
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